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第288話 人間界かあやかし界か -2-

結局昨日の話し合いでは、どちらの世界に留まることにするという話に、結論は出なかった。

そして今、約束通り、影渡かげわたりさんの「受付処」に来ている。


蒼月さんは、


「すまないが、結界の中で会話をしてくれないか?騒動は解決したとはいえ、まだおまえを狙っていた輩については何もわかっていないからな。」


と言って、部屋の中に結界を張ると、


「では、話が終わったら迎えにくるゆえ、伝書で知らせてくれ。」


そう言い残して出て行った。


蒼月さんの背中が見えなくなると、影渡かげわたりさんは少し呆気に取られた様子で、


「蒼月さんって・・・あんな感じでしたっけ?」


と聞いてきた。


「あんな感じ・・・?」


「あ、いえ、なんか、もっと色々無関心な感じが・・・あ、すみません。」


そう言われて影渡かげわたりさんの言わんとしていることがわかった。


「ふふ・・・そうですよね。私も最初そう思ってました。きっとあれですね・・・私、弟子なので、色々心配になっちゃうのかもしれません。」


すると、影渡かげわたりさんは同じようにふふ、と笑うと、


「ちょっと蒼月さんのイメージが変わりました。」


と、言った。


そして、影渡かげわたりさんは早速本題へと入る。


「琴音さんは、近いうちに人間界に戻る予定かと思いますが、いつ帰るかってもう決めていますか?」


うう・・・答えの出ていない質問をここでも再びされてしまい、言葉に詰まる。


「それが・・・決めきれなくて・・・」


すると、影渡かげわたりさんは少し同情した様子で言った。


「そうですよね・・・だって、一度帰ってしまったら、もうこちらには来れないですから・・・」


・・・んん??


「もう・・・来れない・・・?」


なんかとんでもないことをさらっと言われた気がして、思わず聞き直してしまう。そんな私を気の毒そうに見つめた影渡かげわたりさんは、


「今のままでは、そうなってしまいます・・・」


と言った。


情報量が多い。そして紛らわしい。


「それは・・・あちらに帰ってもこちらに戻って来れる方法もある、ということで合ってますか?」


「そうですね・・・あるにはあるのですが・・・ちょっと手続きが複雑といいますか・・・」


あるのはありがたい。けれど、影渡かげわたりさんの口調からすると、なんだか難しそうな予感がする。

そんな私の様子を見て、影渡かげわたりさんはまず、人間界とあやかし界を行き来することについて、説明をしてくれた。


「まず、こちらからあちらに行くのと、あちらからこちらにくるのでは管轄とルールが異なります。」


影渡かげわたりさんの説明によると、こうだ。


あやかし界から人間界に行くには、二通りの方法がある。

一つは、影渡かげわたりさんの承認を得て通行証を得る方法、もう一つは稲荷評議会からの承認を得て通行証を得る方法だ。


影渡かげわたりさんへの申請は、遠足、修学旅行、留学など様々な目的で申請がくるが、通行証の取得はそれほど難しくはない。ただし、犯罪歴があったり暴力的と判断されると却下されることがほとんど。


稲荷評議会の方は主に稲荷神への使役のための通行証および評議会の運営・調査のための通行証の発行がメインであるため、個人の希望では発行されない、かつ、最終的には影渡かげわたりさんへの申請も必要である。(基本承認される)


このように、あやかし界から行く場合は、使役や留学といった目的もあるため、比較的長い期間の滞在が認められており、複数回往来可能なものもある。また、戻ってくる際にいつの日付に戻ってくるかを決めることもできる。(ただし、出発日より過去は不可)


逆に、人間界からあやかし界に来るためには、陰陽院からの通行証が必要となる。

こちらはあやかし界から行くものと比べて許可される条件が厳しい。


なぜなら、人間界は科学とともに文明が発達していった関係上、自然の力を源とした妖力への理解が乏しく、あやかしの存在自体を否定する社会となってしまっているから。

そんな観念を持った人間があやかし界に来ても、混乱しか起こらず、双方にとってなんのメリットもないことから、通行証の発行は非常に厳格かつ限定的に行われているとのこと。

なので、主に学術的な目的での調査の場合にしか発行されない。


また、発行される通行証の有効期間は最長一ヶ月程度となっており、一往復しかできない。そして、こちらは必ず戻りの日付を決めてから出発しなくてはならない。(有効期間同様、最長一ヶ月)


と、まあ、人間界からやってくる方が厳しいことがよくわかった。

つまり、人間界からやってくる場合は、民俗学を研究していたり、陰陽師系の家系の人くらいしか許可されないのではないだろうかと思われる。


「なるほど・・・確かにこれを聞いた感じでは、一度戻ったらもうこちらには来られなそうですね・・・」


そう言って肩を落とす私を見て、影渡かげわたりさんが伏目がちに言う。


「そうなんですよ・・・ただ・・・」


「ただ・・・?」


「はい・・・あまり公にはお勧めしづらいのですが・・・先ほども言った通り、方法がないわけでは、ないんです。」


そう言われたら聞かずにはいられない。


「教えてください!」


すると、一瞬戸惑った顔をした影渡かげわたりさんは、コホンと軽く咳払いをすると、


「こちらでどなたかと正式な婚姻の契りを結ぶことで、こちらからの通行証を発行できるように、なります。」


と言った。

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