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第278話 影渡の告白 -2-

お屋敷までの道すがら、私たちはなにも話さず、ただ手を繋いで歩いた。


けれど、気まずさや気の焦りはまったくなく、ただ手を繋いで歩く・・・それがとてつもなく贅沢なことのように感じた。



「おお、無事帰って来たか。」

「お帰りなさい!」


玄関を開けるとすぐ、小鞠さんとほむらくんがパタパタと小走りで現れた。


二人の様子からは心配と安堵が感じられて、そんな二人をみて、私は、


(ああ、帰って来たんだな・・・)


と、まるで実家に帰って来たような感覚になった。


「煌月からおおよその話は聞いたが、待てど暮らせど帰ってこないので、心配しておったのだ。」


いつもドンと構えて飄々としている小鞠さんがこんな顔を見せるのはめずらしい。すると、


「ああ、心配をかけてすまない。ところで、何日経った?」


蒼月さんがそんなことを聞いた。


(あ、そうか・・・)


こちらの100日があちらの3日だったことを考えると、今回人間界には数時間滞在しただけではあるけれど、こちらは何日か経過していることになる。


「おぬしらが麗華殿に呼ばれて家を出てから、丸々四日ほど経過しておる。」


「そうか。そんなに経っていたのか・・・」


蒼月さんはそう言って少し考え込むように廊下を見つめていたが、小鞠さんがそんな空気を吹き飛ばすように笑った。


「まあ、無事に帰って来たのじゃ。上がって何か食べるがよい。」


その一言に思わず胸がじんと熱くなった。


蒼月さんは小鞠さんの言葉にハッと顔を上げると、私を振り返って草履を脱ぎ、屋敷に上がる。私も後を追うように屋敷に上がると、いい匂いに誘われるように食堂へと向かった。





久々のきつねうどん。

出汁をたっぷり含んだお揚げが、疲れた身体に沁みる・・・


私も蒼月さんもただただ黙々とうどんを食べ進め、ようやく食べ終えたところで、小鞠さんとほむらくんがニコニコしながら私たちを見ていることに気がついた。


「あ・・・」


二人の視線を感じて、恥ずかしくなる。


「随分と頑張ったのじゃな。」


ニコニコしたままの小鞠さんに労いの言葉をかけられて、照れ臭くて俯いていると、


「今回、琴音は本当に功労者だからな・・・あの、墓場でぬえに食われそうになっていた女子おなごが、こんなに強くなるなんて、俺もまったく予想だにしなかった。」


そう言って笑う蒼月さんに、口を尖らせて反論する。


「あれは!こちらに来てすぐで、右も左もわからなくて・・・」


反論してるのに、蒼月さんまでなんだか優しい顔で見てくるから、またもやなんだかジンと来てしまって泣きそうになる。


「ありがとうな。」


蒼月さんが私を見つめたまま、そう言うと、


「まことにありがたきことじゃ。」


「ありがとうな!」


小鞠さんとほむらくんまでそんなことを言い出すから、恥ずかしさと嬉しさと安堵で頭の中がぐちゃぐちゃになってしまって、


「一人じゃなにもできませんでした・・・みなさんのおかげです・・・こちらこそ、ありがとうございました。」


そう言うのが精一杯だった。


そこにいる全員、なんだかしんみりしてしまって、誰もなにも言わずに時だけが過ぎていく。


そんな中、不意に小鞠さんと蒼月さんが何かに反応したようにピクリと眉を上げたのとほぼ同時に、静まり返った食堂に、遠くから声が聞こえてきた。


「いるーーー???邪魔するよーー!」


こんな言い方で勝手にお屋敷に上がってくる人なんて、一人しかいない。


「あ、いたいた。なに?きつねうどん?いいなあ。僕も食べたい!」


脳天気すぎて脱力してしまう。さっきまでのあのいい感じの雰囲気を返してほしい。

そんなことを考えながら煌月さんを見ていると、


「琴音ちゃんも無事で何より!」


そう言って、ぐいっと顔を近づけると、


「・・・で?こっちに残ることにしたの?」


と切り込んできた。


「近い!」


しかし、その顔はすぐさま蒼月さんに引き離されて、


「痛い、痛い!」


と言いながら、空いている椅子に腰をかける。そして、さらりとこんなことを言った。


「明日、白翁殿のところに行った後、こっちにも来てくれる?九重ここのえ親子も来るからさ。」


九重ここのえの話とか、秘密じゃなかったっけ・・・?)


ふとそんな疑問が湧いて、思わず煌月さんに視線を向けると、それに気づいた煌月さんは、私がなにを言いたいのかまで分かったようで、


「今回の件はもう機密事項じゃなくなったんだ。明日あたり、書庫の書物にも追記されるんじゃないかな。」


と言って微笑んだ。


(そうなんだ・・・)


どういう基準で機密になったりならなかったりするのかはわからないけれど、なるほどと納得する。


「二人は一緒に暮らせるんですか?」


まさか離れ離れになっていることはないと思っているけれど、念のために聞いてみると、


「うん。八重やえ殿も使役を終えることになって、引き継ぎが終わったらこちらで二人で暮らすってさ。」


使役云々については私はよく知らないけれど、二人が一緒に暮らせることになったのであれば、よかった。


すると、その話を聞いて気が抜けたのか、はたまたお腹が満たされて眠くなったのか、


「ふわぁ・・・」


不意にあくびをしてしまった。


「あ、すみません。」


慌てて私が謝ると、蒼月さんが口を開いた。


「いや、今日はだいぶ疲れているだろうからな。もう、休め。」


その言葉に素直に従おうと、うなずく。そして、


「これからのことも含め、またゆっくり話せるか?」


と、遠慮がちに聞いてきた蒼月さんに、


「もちろんです。私からもいろいろ相談させてください。」


とだけ答えると、そっと立ち上がった私は、みんなに挨拶をして自分の部屋へと戻ることにした。

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