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第275話 見慣れた神社 -2-

こんな夜更けに参拝する人って、どんな人だろう。

もしかして丑の刻参りとかしてるような人だったら怖すぎるな・・・

まあ、この人たちといれば問題はないんだろうけれど。


そんなことを考えながら思わずクスリと笑ってしまう。

そんな私を見て、蒼月さんが遠慮がちに聞いた。


「本当にこのままあちらに帰ってしまってよいのか?」


またすぐ来れる状況だということは分かって安心したのは確かだ。

ただ、そう言われると、万が一やっぱり戻れませんでした!となった時に後悔するかもしれないと、急に不安な気持ちになった。


「・・・手紙を。置き手紙をしてもいいですか?」


最近は会っていないけれど、ここの宮司ぐうじさん家族とは古くから付き合いがある。

手紙を書いたら私の家族に連絡を取ってくれるだろう。


「ちょっとコンビニで紙とペンを買ってきます。なんなら切手を一緒に買えばポストに投函できるし!」


と言った側から、お金を持っていないことに気が付いた。

思わず、「はぁ・・・お金持ってなかった・・・」とため息をつくと、蒼月さんは笑いながら記録帳を取り出した。


「妖力で書ける。今のおまえになら使えるだろう?」


こういう時、やっぱりあやかし界のグッズは最高だなと思ってしまう。なんだかあちらの便利な世界に慣れすぎてしまった感は多大にある。


「ありがとうございます。」


ここは素直に受け取って、手紙を書くためにみんなから離れて、少し明かりのある場所へと移動した。

それから、一度しゃがみ込み、ゆっくりと指先で文字を書き始めた。


——突然のお手紙、失礼致します。

——私は、宮司・桜宮の娘、琴音です。

——訳あって・・・


そこまで書いたところで、「ザッ」と擦れる音と人の気配を感じた。


「・・・琴音?」


その、懐かしくも温かい声に、すぐさま顔を上げる。


「・・・お母さん?」


すると、そこで驚いた顔で私を見下ろしている母と目が合った。お互い驚きすぎたのか、そのあとはただ沈黙したまま見つめ合う。

どれくらいそうしていたのだろう。

しゃがんでいた私がバランスを崩して尻餅をついた瞬間、


「こんなところで、何してるの?」


私を起こそうとしたのだろう。手を差し伸べた母の手に私も手を伸ばす。

しかし、行方不明の娘に久しぶりに会えた母親として、その言葉のチョイスは正しいのか?と問いたいくらいの質問を投げかけられて拍子抜けした私は、


「お母さんこそ、こんな時間に何してるの?」


親が親なら、子も子だ。


そう言われても仕方ない反応しか返せなかった。


「も〜、こんな時間に一人で出歩いたりして、危ないじゃない。」


そう言いながら立ち上がってパンパンとお尻についた砂を払っていると、急に目の前が暗くなった。


「よかった・・・本当に、無事だったのね・・・」


母とは思えないほど強く抱きしめられて、改めて心配をかけていたことを痛感する。


「心配かけて、ごめんなさい・・・」


そうして少しの間抱きしめられたまましんみりしていた私の中に、ふと強烈な違和感が生まれた。


「お母さん・・・?」


抱きしめ返していた腕を緩めると、母も同じように腕を緩める。

そうして再び見つめ合う形になると、母の瞳はほんのり潤んでいた。


だけど・・・それよりも気になったことがある。


「本当に、って・・・どういうこと?」


さっき母は、間違いなく「()()()無事だったのね」と言った。すると、


「その話、長くなるけど・・・今、聞きたい?」


と、謎にもったいぶってきた。


母とはもっと話したい。けれど、同時に社殿の裏手にいるみんなのことも気になって仕方がない。


「詳しくは帰ったら聞くから、今は手短にまとめて!」


そうして思わず急かすように言ってしまった私に、


「あら。またお出かけ?」


そんな呑気なことを言った母は、


「わざわざうちの神社まで『娘さんを少しの間お借りしますね。必ず無事にお返しします。』って白い狐さんが伝えにきたのよ。」


と、なんてことない感じで()()()説明してくれた。そして・・・


「でも、あの狐さんではなかったわね・・・」


私の肩越しにそう小さくつぶやいた母は、


「お友達、紹介してくれないの?」


そう言って、私の後方に向かってひらひらと手を振った。


その言葉に振り返ると、こちらに向かって一匹の白い狐がゆっくりと歩いてくるのが見えた。


(え!蒼月さん!?)


まさかの蒼月さんの行動に、心臓がバクバクと音を立て始める。

そんな私の焦る気持ちになんて気づくはずもなく、蒼月さんは私たちの足元までやってきた。


「こんばんは。琴音がお世話になっているようで、ありがとうございます。」


まるで友達に会ったような感じで何事もなかったかのようにそう言った母親に、


「ちょっと・・・お母さん?」


言葉にならない言葉をかけるものの、母は、


「それとも、あなたは・・・」


うふふ、という顔で私を見た。


(鋭い!鋭すぎる!!)


みるみるうちに頬が赤くなるのを感じて、どう誤魔化そうかを必死に考えていると、蒼月さんは母の足元に頭を擦り寄せた。

そして、まるで人間がそうするように頭を下げてお辞儀をする。


「あら、まあ。こちらこそ、よろしくお願いしますね。」


言葉なんて一言も発していないのに、会話が成立しているように見える。

蒼月さんはその言葉を聞いてピンと耳を立て、もう一度頭を下げると、私の横に戻ってきた。

すると、母はふと私を見て、


「そういえば、少し痩せたんじゃない?」


と尋ねてきた。


「あ、そうなの。ちょっと色々あって強くなる修行をしてたから・・・って、そういえば、私がいなくなってからどれくらい経ってるの?」


本来なら一番最初に聞くべき質問を、ようやく尋ねると、


「3日くらいかしら。お父さんにはお友達と旅行に行ったって言ってあるわよ。」


と、これまたなんてことない感じで答えてきた。


(まだ3日!?)


安心したような信じられないような、だけど、母がそう言うのだから間違いないのであろう。


「会社・・・から連絡きてる?」


お父さんはともかく、会社はどうなっているのか急に不安になって被せるように尋ねると、


「来てないわよ。そもそもゴールデンウィークでお休みでしょ?」


これまた当たり前のように言われて、そういえばそうだったと思い出した。

幼馴染の結衣の結婚式は、連休直前の土曜日だった。

そして、間の平日は有給取得奨励日ということもあって、長期休暇になっていたのだった。


なんたる幸運。


「あちらの世界で100日くらい経ってるから、もうダメかと思った・・・」


思わずそうつぶやいた私を見て、母はクスクスと笑いながら、


「・・・でも、またお出かけなんでしょう?連休明けたら会社どうするの?」


と、急に現実に引き戻すようなことを、言った。

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