第260話 封印解除 -4-
娘がいてもお構いなし・・・いや、おそらくここにいるのが娘だということもわかっていないのだろう。
突然の先制攻撃だったものの、結界のおかげで私たちは身体的には無傷だ。
けれど、母親から相当の攻撃を受けた八重さんとしては、心理的に無傷とはいかないだろう。
攻撃を受けて、このゼリー状のドームのような結界の壁が、ブルルンと大きく揺れたのが見えた。ということは、相当の威力だったはずだ。
懐から輝夜石を取り出してこの攻撃の詳細を確認する。
——九重、蒼焔奪魄、1
(これまたすごい名前だな・・・)
技に名前がついているからか、昨日のように強さでの表示がない。
「・・・え?」
そんなことを考えながら見ていると、数字が大きくなっていく。
顔を上げると次から次へと攻撃は続いていて、その度に九重の身体が大きくなっていっている気がする・・・
(え?どういうこと?)
妖力を使い続けて身体が小さくなっていくならともかく、どうして妖力を消費しているのにどんどん大きくなっているのだろう・・・
(そういえば・・・)
技の情報が見れたことを思い出し、技の名前の近くにある「i」を見てみる。
『説明:青き妖炎による吸収術。この技の真髄は、単なる炎の攻撃ではなく、対象に炎が触れるたびに妖力を奪い、その力を自らの糧とする点にある。炎を浴びた者は、体内の妖力を徐々に奪われ、戦う力を失っていく。
技の効果: 妖力吸収。青き妖炎が触れたものから強制的に妖力を吸収する。触れた時間が長いほど、奪われる妖力の量が増加。吸収した妖力は術者の力へと変換され、さらに技の威力を増す。』
「そんな・・・」
思わず声に出してしまうほどの衝撃だ。
つまり、技を繰り出せば繰り出すほど、九重は妖力を吸収して大きくなるということなのだから。
(これは・・・勝ち目がないのでは・・・?)
守り一方の私と、どんどんと強くなる九重。そんなあやかしを相手に、どう戦えというのか・・・
そうこうしている間にも、輝夜石に記録されている技の回数はどんどん上がっている。
「ん・・・?」
状況的にはかなりまずいはずなのに、外の音が聞こえない、物理的な衝撃を受けるわけでもないため、外で起きているこの凄まじい攻撃さえ視界に入れなければ、比較的冷静に考え事ができる。
そのせいだろうか。ちょっとした疑問というか矛盾に気がついた。
(相手から妖力を奪うってことは、九重はこの静寂と癒しの結界に蓄積された妖力を奪っているということだよね?)
今、九重が攻撃しているのは、紛れもなく私だ。
他の誰でもない、この私。
だとすると、妖力を奪っている相手は私だということになる。けれど、私は妖力なんてほとんど持っていない。
念のために八重さんの様子を見てみても、震えてはいるものの、妖力が減っているような感じではない。
ということは、やっぱりどう考えても、この結界に溜まっている妖力を持っていっているのだとしか考えられないのだ。
だけど!
納得いかない私は、輝夜石をもう一度確認してみる。
——九重、蒼焔奪魄、7
(ちょっと、ちょっと、そんなに攻撃してきてるの?)
勘弁してほしいと思いながら、改めて外の状況を見てみる。すると、やっぱり九重は最初より大きくなっているのは確かで、その姿は膨張し続けている。
さらに、その背中越し、空高く遠くの方に黒悠之守が見える。
うっすらとベールに包まれているように見えるので、多分自分の周りにもう一つ結界を張っているのだろう。
(うまく逃げてるな笑)
今、黒悠之守が攻撃を受けて結界が破られて街にこの妖力が流出するのは避けたいから、逃げていてくれるのはありがたい。
で、ここからが納得がいかない点なのだけれど。
妖力を吸収されているはずなのに、記録だけ見た感じでは、静寂と癒しの結界は妖力を吸収し続けているように見えるのだ。
だって、吸収されたのだとしたら、おそらく数字は減っていくのではないか?そう思うのだ。
しかし、ここであることに気がついた。
——九重 10503
昨日、今日と吸収していた蒼月さんの妖力の暴走で記録された妖力の数値が減っているのだ。
「なるほど・・・」
ここから吸収しているのか・・・
であれば、謎は解けた。あとは、この数値がゼロになった後、どうなるかだ。
わずかに結界に残っている他の妖力や結界自身の妖力が削られていくのだろうということは想像ができる。
そして・・・それまでもがゼロになったら・・・
「結界が解けたら終わるな・・・」
ということは、時間との勝負。
「ふふふ・・・」
突然笑い出した私を見て、八重さんが声をかけてきた。
「どうしたのです?こんな状況で、なぜ笑えるのですか?」
自分でも同じことを思ったのだ。
なぜこんな状況で笑えるのか、と。
けれど、こんな状況で、一歩間違えたら死んでしまうかもしれない状況で、私は今、驚くほどのやる気に満ちている。
(守られるだけだったのに、守りたいと思うようになって・・・そして・・・今は・・・)
できるかどうかはわからない。
この「非日常の頂点」のような出来事で、アドレナリンが大放出されているのかもしれない。
厨二病みたいな技の名前を見て、妙なテンションになっているのかもしれない。
けれど、今、私は強くこう思っている。
(みんなは私が守る!)
そう心の中で言った後、何言ってんの?と自嘲する。
けれど、そう強く言い切ってしまえるほどの名案が不意に浮かんできたから、思わず笑ってしまったのだ。




