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第252話 共鳴 -4-

そんなことがあり、実は、今、蒼月さんのご実家に来ている。


家出中は、蒼月さんのお兄さんやお姉さん、そのご家族とは交流があったけれど、ご両親とは結局一度もお会いしていない。

まあ、ご実家ではなく煌月さんの別邸でお世話になっていたので、わざわざご挨拶に行くのもなんか違うと思ったということもあるのだけれど・・・

とにかく、お母さんとはあの一回だけ、お父さんとはいまだにお会いしたことがない状態だ。


そして、今、私と蒼月さん、煌月さんの三人は、蒼月さんのお母さんの目の前に並んで座っている。

お母さんの横には風華ふうかさんが座っている。


そんな状況の中、煌月さんが人探しのこと、そしてそこから派生して見つかった黄泉よみの扉について説明を始めたところだ。


(なんか嫌な汗かいてきた・・・)


お母さんは何も言わずに時折うなずきながら煌月さんの話を聞いているだけなのに、空気が張り詰めているのだ。

そして、私はというと、なぜ私が呼ばれたのかも分からないまま、煌月さんの説明に耳を傾けている。


お母さんが現れた時に簡単にご挨拶はしたけれど、呼ばれた意図が分からないままこの空気の中に身を置いているのが非常にいたたまれない。


そんな緊張した状態でも一応煌月さんの話はちゃんと聞いていて、話をまとめるとこんな感じらしい。


影渡かげわたりさんと六条 影門かげとと一緒に行動している人物の正体が分かった。

あの男の名は、祝部ほうりべ 冬嗣ふゆつぐ。元人間。


そう、この「元人間」というところが非常に大事で、もともとは 人間だったが、ある時点で「異なる存在」になった。

彼はかつて、陰陽寮の要職に就いていたが、黄泉の扉を研究しその力に触れたことで、不老の肉体を得て「人間でありながらあやかしの領域へと踏み込んだ者」 となり、同時に人間としての本質を失った。


黒曜石の耳飾り は、「黄泉の力を制御する媒介」として彼が所有していたもの。

こちらの手元にあるものにはとある術式が組み込まれており、それはまだ解析途中であるものの、二つ揃わないと意味がないらしく、彼は必死に探しているはず。

あれだけ強い妖気を纏っているのに見つけられていないことから、何者かに隠されている可能性には気づいているかもしれない。


また、どのような経緯で黄泉の扉を研究し始めたか、何が彼にこのような行動をさせているのかなどは不明だそうだ。


そして、黄泉の扉については先日判明した「黄泉比良坂よもつひらさか」で間違いなさそうとのこと。

ただし、この世界からどのように人間界に行こうとしているかは依然謎のままで、前に目撃された影渡かげわたりさんが出現させていた異界の門のようなものは、分析の結果、それとは少し違うものだったようだ。


先日の地図の謎を解いた上で考えると、その行動を見られた場所が北斗七星をなすための点の部分に当たることから、他の星の部分にあたる地点でも同様のことをしていると思われる、と。

何か、人間界に繋がることができるような仕組みなのかもしれないが、こちらもいまだ不明とのことだった。


ここ数日は彼らの動きが鈍いため、準備が終わって何かを待っているのか、それとも何かしら問題があって停滞しているのかを注意深く監視しているらしい。


煌月さんがここまでを説明すると、それまで黙って聞いていたお母さんが、パタリと扇子を閉じる。

ただ普通に扇子を閉じただけなのに、その音が妙に大きく聞こえて、よりその後の沈黙が際立つ。


「状況は、わかりました。」


お母さんは、それだけ言うと、また口を閉ざした。その沈黙の重さを紛らわすように、お母さんの方を見ながら意識を少し宙に浮かせていると、急にお母さんと目が合って身体中に電流が流れるような感覚を覚えた。


思わず息を呑む。


心臓が跳ねるのが、自分でもはっきりとわかる。


「時に・・・琴音殿。」


「は、はい!」


背筋がピンと伸びたのを、自分でも感じる。


「黄泉の扉を見つけてくれたのはそなただと聞いております。遅ればせながら、御礼申し上げます。」


それなのに、突然お礼を言われただけでなく、頭まで下げられてしまって慌てふためく。


「いえ、そんな、お顔をあげてください!」


と言いながら困り果てて蒼月さんを見ると、驚いた顔をしているので、やはり普通の状況ではないのだろう。

幸いにもお母さんはそれから少しして顔を上げてくださったものの、ここからどうしたらよいのか、さっぱり分からない。


「この件は、我ら華月院かげついん家の一大事に繋がるやもしれぬことゆえ、家長自ら御礼を申し上げたかったのです。」


それを聞いてさらに恐縮してしまう。


「そんな・・・まだ見つけただけで何も解決はできていないので・・・」


お母さんからはお礼を言われただけなのに、なぜかものすごいプレッシャーを感じてきて、


「・・・」


思わず言葉に詰まる私を見て、蒼月さんが助け舟を出してくれた。


「母上・・・ここから先は危険ゆえ、兄上と私でどうにかいたしますので・・・」


すると、その言葉を聞いたお母さんは、煌月さんと蒼月さんに視線を送った後、目を細めてフッと薄く微笑んだ後、ゆっくりと言った。


「黄泉の扉はあなたたちではどうにもできないではありませんか。」


お母さんの言葉の意味がわからなくて首を傾げていると、お母さんは再び私を見てふと微笑む。そして、シャッと扇を開き口元を隠すと、


「万が一、異界の扉が開いてしまった場合、それに対処できるのは、琴音殿だけなのです。」


と、言った。

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