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第251話 共鳴 -3-

しばらく思考停止したままでいたけれど、蒼月さんの軽い咳払いで我に返った。


「ちょ・・・っと、蒼月さん。いくら具合が悪いからって、冗談でもそんなこと軽々しく言っちゃダメですよ!」


「・・・冗談?」


「なんてな、って言ったでしょう?って・・・え???」


「あ、ああ。そうだな。すまん。」


若干噛み合わない気がしつつも、この恥ずかしい状況をどうにかしたい気持ちが勝ってしまい、早口になる。


「とにかく!具合の悪い蒼月さんに、拒否権はありません!今日からこの部屋で寝ていただきます!!」


すくっと立ち上がって腰に手を当てた私は、蒼月さんを見下ろしてはっきりとそう言うと、


「同じ部屋なら離れてても結界で寝場所作れるので、私はこっち、蒼月さんはそっち!間にはこのソファとちゃぶ台を置く。これなら問題ないですよね!!?」


部屋の両端を指差しながら、一気に捲し立てた。


勢いよく言い切ったものの、じっとこっちを見つめてくる蒼月さんと目が合って、今さらになって自分の勢いを恥ずかしく感じてくる。


(ムキになりすぎた・・・)


この後どう言葉を続けたらいいかがわからなくて、ただひたすら蒼月さんを見つめたまま黙っていると、蒼月さんは弱々しく微笑んだ。


「すまなかったな・・・心配してくれているのに・・・」


そう言われて、私も首を左右に振りながら、ゆっくりと腰を下ろす。


「いえ・・・私こそムキになってすみません。」


ぺこりと頭を下げると、そこに蒼月さんの大きな手が乗せられた。


「いや・・・心配かけてすまない。」


そう言って手を下ろした蒼月さんは、顔を上げた私に向かってまだ困った顔をしていて、


「とはいえ・・・広めの部屋ではあるが、着替えなどもあるしな・・・」


少し何かを考えるように顎に手を当てる。それから何かを思いついたのだろう。


「後で衝立ついたてを別の部屋から運んでこよう。」


そう言うと、ようやく微笑んでくれた。


こうして蒼月さんとの相部屋生活が始まることになったわけだけれど・・・





「蒼月様、ずるい!!」


翌日の朝餉あさげで口を尖らせて猛抗議するほむらくんと、


「お堅い蒼月に相部屋を承諾させるとは、琴音殿もなかなかやるではないか。」


変なことに感心している小鞠さんに挟まれて、私はとても気まずかった。


とりあえず九重ここのえと蒼月さんの妖力のリンクのことは話さず、原因不明の妖力の暴走に対応するためということにしている。

実際、最近市ノ街では妖力の暴走が原因と見られるいざこざが頻発していることもあり、不自然ではないだろう。


「確かにここ最近の街の妖力の乱れはいささか異質ではあるのう・・・」


小鞠さんはそう言って何かを考えている。蒼月さんは、


「うむ・・・最近街で起きているいざこざに共通するのは、みな急に我を忘れたようになっているという点だからな・・・」


九重ここのえの妖力の暴走が近いのであれば、それを止めなければならない。

でも、その方法はわからない。

黄泉よみの扉のことは煌月さんが調べているものの、その関連性もわからない。


わからないことばかりの中、蒼月さんに現れている妖力の暴走の解決策が見出せないのも不甲斐ない。


まったくもって何の役にも立てていない自分がもどかしいまま、朝餉あさげを終えて部屋に戻る。蒼月さんが私の部屋にくるのは眠る時だけなので、今は一人だ。


この時間を利用して状況を整理しようと思い、ソファに座る。

そして、メモ用の紙に状況を書き出し始めたところで、蒼月さんがやってきた。


「すまないが、結界を張ってくれるか。」


何の話かはわからないものの、とりあえず言われるがままに結界を張ると、蒼月さんは、


「突然すまないな・・・」


と言いながら、私の前に腰をかけた。そして、


「おまえには色々と手伝ってもらっているのに、そういえばこの状況について白翁殿からの話があった以降、俺から何も説明していないことに気づいた。状況も状況ゆえ、一旦整理して伝えておいた方が良いと思ってな・・・」


状況が状況というのは、おそらく蒼月さんの状況のことだと理解した。

その言葉を聞いて、一気に不安に襲われたものの、なるべく顔に出さないようにしながら話を聞き続ける。


「実はな・・・今、俺たちが調べていることは、白翁殿からの依頼だけではなく、母からの依頼でもあるのだ。」


そう言われて、驚いたような納得したような、そんな気持ちだった。

煌月さんはお母さんから人探しを依頼されていると言っていて、そのターゲットは長老が探している人たちと一緒だったわけだし。


その人探しが何のために行われているのかまではわかっていないけれど、ただの狐の事件の調査ではないのだろうなということだけは理解した。


そんなことを考えながらも黙って蒼月さんを見つめていると、蒼月さんは表情を変えずに言った。


「さっき兄上から連絡があり、調査に少し進展があったから報告を聞きに来いと言われた。」


その言葉を淡々と聞く私。そして、それを見て同じように淡々と言葉を続ける蒼月さん。だけど、


「で・・・ここからが本題なのだが・・・」


急に口ごもって小さくため息をついた蒼月さんが次に言ったのは、


「母が・・・琴音も連れてくるように、と言っている・・・らしい。」


という、予想外の言葉だった。

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