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第249話 共鳴 -1-

夏も終わりに差し掛かり、朝晩は随分と涼しくなった。


結局、黄泉よみの扉が黄泉比良坂よもつひらさかではないかという話になった後、その調査は煌月さんが引き継いだ。


理由は、現在あやかし界と人間界を行き来する術がなく、すでにある情報だけで調査を進める必要があるからだ。


その情報・人脈を煌月さんは持っているということで、ここから先は煌月さんに任せようということになったのだ。


人探しをしているかと思ったら、この前みたいに若者を連れて観光に来たりもしている。

いったいどういう仕事(と言っていいのかは分からないけれど)をしているのか興味が湧いて、蒼月さんに聞いたところ、「知らない方がおまえのためだ」と複雑そうな顔で言われ、ますます謎だ。


蒼月さんはというと、毎日番所に行き、見回りを再開しつつ、九重ここのえについての調査は続けているとのこと。

また最近街のあちこちでちょっとしたいざこざが増えているらしく、ほむらくんもお手伝いをしているため、私の鍛錬は一旦お休み。ただし、身体がなまらないようにと、自己鍛錬は続けている。


そして、その間に、隠鳥幽索おんちょうゆうさくの改良もしていた。

移動中は追跡できないことがわかったため、それができるようにした。詳しくは、時系列で探査を行なった際に、最後にいた場所からの妖力を追跡させるというものだ。

ただ、これは毎回必要な機能ではないため、一度戻ってきて地図に展開した後、必要な場合にのみ再度追跡探査をしてもらうことになる。


これはまだ実践していないので、どこかで機会があったら試してみたいと思っている。


そんなこんなで10日程経った訳だけれど、鍛錬がないため、蒼月さんとは朝餉あさげ夕餉ゆうげの時しか話せないこともあり、夕餉ゆうげの後、私の部屋の縁側でその日に起きたことについて話をするようになった。

星雨月ほしあめげつも終わりに差し掛かろうとしている今、夜になると流れ星を見る機会が増えてきて、それも楽しみの一つだ。


こんなにたくさんの流れ星はもちろん、夜空に広がる星の数も今まで見たことのない数だ。

私の知っている星座は、ない。同じ形の湖が存在する7つの別々の街の仕組みもだけれど、この世界はいったいどういう仕組みで成り立っているのだろうかと不思議でたまらない。


「蒼月さんはなぜ星を見るのが好きなんですか?」


「ああ・・・最初の使役に出ていた頃、夜になるとどうしても家に帰りたくなってな・・・幼かったからだぞ?そんな時、稲荷神に詣でて来た人間が空を見上げて楽しそうにしていてな。釣られて見てみたら、今まで知らなかった世界が広がっていて・・・そこからだ。」


ふふ、ホームシックにかかってた、ってことだよね?小さい頃の蒼月さんってどんなだったんだろう。


「その時は何年くらい人間界にいたんですか?」


「・・・70年くらいだな。その後こちらに戻ってきて、それからまた大戦争までの40年ほど人間界にいた。二つ目は大戦争で途中だったがな。」


スケールが違いすぎて全然実感が湧かない。それでも、その時のことを話す蒼月さんは、懐かしそうで楽しそうで、


「いつか蒼月さんにも人間界に遊びに来てほしいなあ・・・」


そんなことができるかどうかは別として、平安時代以前しか知らない蒼月さんと一緒に現代の日本を歩きたい。

ふとそう思って、夜空を見上げながら、なんとなくつぶやいた。


「・・・そうだな。」


だけど、思っていたのとは少し違う反応が返ってきて、思わず蒼月さんを振り返ると、


「戻れると、いいな。」


少しだけ寂しそうな顔で笑った蒼月さんを見て、もしかしたら勘違いをさせてしまったかもしれないと気が付いた。


例え人間界に戻れるようになったとしても、今の私はこちらの世界で暮らしたい気持ちが徐々に大きくなっている。

でも、そんなことを言って蒼月さんに変なプレッシャーをかけるのも嫌だから、なるべく言わないようにしているのも事実だ。


今の言葉も、人間界と行き来ができるようになったら、遊びに行きたいという程度の気持ちでの発言だったのだけど、多分言葉選びを間違えたのだろう。

蒼月さんに悲しそうな顔をさせてしまったことが、心の中に重く残った。


そうでなくとも、最近蒼月さんは少し疲れているように見える。

何度か聞いてみたけれど、「そんなことない」「今日は長く見回りをしたからかもな」と、なんとなくはぐらかされているような感じだ。


そんな中、私の発言の意図を訂正しようと、蒼月さんをじっと見る。


「蒼月さん・・・そのことなんですけど・・・正直、人間界に戻りたいのかどうか、分からなくなってきていて・・・」


と、そこまで口にした瞬間、蒼月さんが苦しそうな顔をしていることに気がついた。


「蒼月さん?」


声をかけてみたけれど、私の声が聞こえていないようで、蒼月さんは少しうずくまるような体勢になった。


え?どうしよう。どうしたら・・・


そんなことを考えていたら、蒼月さんの髪の毛が黒から銀色に染まっていくのが目に入った。

身体からはパチパチと小さな火花が放たれている。


(これは・・・・)


その様子が幽月湖ゆうげつこでの様子と似ていることに気がついて、すぐに部屋の中に結界でベッドを作る。


すると、


「蒼月様!」


廊下の向こうからほむらくんが水差しを持って駆けてきた。


ほむらくんは私を見ると、「大丈夫だよ」と言って蒼月さんを抱き起こし、水差しから直接何かを飲ませた。香りからすると、おそらく影葉茶だろうけれど、いつも飲んでいるものとは少し香りが違う。


ほむらくん。あそこに横になってもらいたい。」


そう言ってベッドを指差すと、ほむらくんはベッドを確認してうなずいた後、蒼月さんを抱き抱えて立ち上がらせた。


(え・・・?)


子どもの姿のほむらくんが戸惑うことなく蒼月さんを抱き抱えて歩かせているのを見て、思わず驚いてしまう。

ほむらくんはそんな私には目もくれず、蒼月さんをベッドに横たわらせると、フゥッと息をついて、


「これで少し様子をみよう。」


と言った。

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