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第23話 はじまりの朝 -4-

突然の再会に、心臓がドキドキと音を立て始める。


昨日長老から釘を刺されたばかりなのに、もうそんなことは忘れたかのように、胸が高鳴ってしまう。

1年前までは彼氏もいたし、職場でイケメンと呼ばれる部類の人に会うのも日常茶飯事。

だから、男の人と縁がなさすぎてなんでもよく見えてしまう、というわけではない・・・と思う。

それなのに、こんな思春期の乙女のような感情は久しぶりで、


(長老ごめんなさい・・・実は私、ダメと言われると燃え上がるタイプなんです・・・)


昨日は「全然そんなんじゃないんです!」なんて言っておきながら、時間が経てば経つほどに自分の中で勝手に気持ちが膨らんでくる。

関わるなと言われて、逆に気になってしまっているのもある。


わかってる。恋じゃない。

ただ、危険なところを救ってくれた人が好みのタイプのイケメンだったってだけのことだ。

一目惚れとか、そういう類のものでもない。

だって、出会った瞬間、星がキラキラ瞬いて〜なんてことはなかったもん。

・・・いや、眩しい光には包まれていたけど。あれは実在の光だから、違う。

例えて言うなら・・・推し!そう、推しよ!!


妄想を爆発させながら、じーっとその好みの顔を見つめ続けていると、


「おい。」


痺れを切らしたような蒼月さんの、


「長老を呼んできてくれないか?」


こちらの浮かれ具合とは対照的な冷めた声が、私を現実に引き戻した。


「あ、はい。」


我に返った私は、食器は一旦そのままで、勝手口まで蒼月さんと早足に戻る。


「私はここで待っている。」


そう言って縁側に腰掛けた彼の言葉を後ろに聞きながら、勝手口から屋敷に上がると、長老の部屋へ向かった。


朝食の後で千鶴さんに本邸を案内してもらっていたから、長老の部屋には問題なくたどり着けた。


「長老・・・琴音です。」


部屋の入り口で膝をつき、そう声をかけたのとほぼ同じタイミングで襖が開く。


(びっくりしたあああ・・・!)


正座したまま飛び跳ねなかった自分を褒める。


「蒼月か・・・」


私なんかが呼びにこなくてもこの人には全てお見通しなんだな、と改めて長老の凄さを見せつけられる。


「入れ。」


突然長老がそんなことを言うものだから、え?どこに?誰に言ってるの?と戸惑うも、それからすぐに姿を現した蒼月さんとともに長老は自室に入って行き、

思い出したかのように私を振り返ると、


「琴音殿。すまんが学びの時間は午後に変更させてくれるかな。」


そう言って、私の返事を聞く前に、襖をゆっくりと閉めた。




取り残された私は、とりあえずここにいても仕方がないので、置きっぱなしにしていた食器を取りに戻ることにした。


再び勝手口を通って洗い場に向かう。食器を手に取り、ふと庭の奥を見ると、千鶴さんが庭の手入れをしているのが見えた。

千鶴さんも、そんな私に気づいたようで、


「琴音さん、お疲れ様です。」


千鶴さんが優雅な動きで草木を整えながら、微笑みかけてくれる。

その笑顔に少し心が軽くなり、私からも微笑みを返すと、食器を持って千鶴さんに歩み寄る。


「千鶴さんもお疲れ様です。食器を洗っていたら蒼月さんが突然現れて、驚きました。」


「ふふ、そういえば、蒼月さんはいつも突然現れはりますなぁ。」


毎回の登場シーンを思い出したのか、何やらクスクスと笑っている。


「墓場の鵺のことで報告があるって言ってたけれど、鵺ってなんですか?」


蒼月さんからの伝言を思い出して、疑問を口に出す。


すると、千鶴さんは、


「鵺・・・頭は猿、胴体はたぬき、四肢は虎で尻尾は蛇というあやかしですわ。」


と、当然の知識のように説明してくれる。


うええええええ・・・・想像しただけで気味が悪い・・・

顔が猿で身体が・・・と、そこまで繰り返したところで、ふとあることに気がついた。


「昨日のあの変な獣!?」


私を襲った獣の顔が猿っぽかったことを思い出し、あまりの恐怖で他の部分については全く覚えてないけれど、おそらくあれが鵺だったのだろうと思った。



それから・・・


緊急事態ということで、あの後すぐに長老と蒼月さんが出かけてしまったこともあり、午後に予定されていた長老のレクチャーは中止となり、

時間の空いた私は、街に用事があるという千鶴さんに連れられて、ついでにイチノマチを案内してもらえることになった。

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