第236話 語られる真実 -5-
星華ちゃんと彗月くんの白狐姿は、もふもふでふかふかで、まるでぬいぐるみのようだった。
大人の蒼月さんが変化すると、どんな白狐になるのだろう。一度想像し始めると、見てみたい気持ちが湧き上がってくる。
「見たい・・・のか?」
「見たい、です!」
「本当に・・・?」
「本当に!!」
そんなやりとりをした後、蒼月さんは少しの間何かに葛藤している様子だったけれど、
「なんの変哲もない、ただの白狐だが・・・いいのか?」
そう言うと、(多分)目をキラキラさせながらうんうんとうなずく私に根負けしたのか、白狐に変化してくれた。
ポワンと音のしそうな煙と共に変化するその様は、とても興味深い。
「うわーーー!うわーーー!うわーーーー!」
思わずそんな声が出てしまうほどの美しさに惚れ惚れとしてしまう。
「な、撫でてもいいですか??」
子ども達のぬいぐるみ感とはまた違って、大人の色気というか艶というか、まあ、そのまんまサラサラツヤツヤの白い毛並みを撫でたくて仕方ない。
抱き上げて、抱きしめて、それからじっくりと撫で回す。
見た目サラサラのその毛並みは、撫でてみると想像していたよりも柔らかくてふわふわだ。
そうして、先日庭にいた狐と同様、頭から耳、耳の後ろから首、首から背中と撫で回してしまう。
撫でられている蒼月さんは目を閉じてされるがままで、気持ちよさそうな顔をしている・・・ように見える。
そこで、ふと2つのことに気がついて、手が止まる。
めちゃくちゃ好き勝手に撫で回しているけれど、この狐は蒼月さんだということ。
もう一つは、撫で回している時に、またしてもデジャヴか?と思ったということ。
「あのぉ・・・」
手を止めたまま、恐る恐る話しかけると、気持ちよさそうに撫でられていた狐が目を開けた。
「なんだ?」
「あ、やっぱり喋れるんですね?」
星華ちゃんと彗月くんも狐の姿でお喋りしてくれたから、そうだとは思っていた。
「なんか、すみません・・・興奮して撫で回しちゃいました・・・」
「いや・・・まったくもって構わんが?」
そう言われてクスッと笑いがこぼれてしまう。普段強くてかっこいい蒼月さんが、今はこんなに可愛らしい。
ぎゅっともう一度抱きしめると、耳元で狐の蒼月さんが言った。
「言い忘れたが・・・狐の時の方が人の姿の時よりも本能的ゆえ、あまり甘やかしていると知らんぞ。」
本能的?その意味がよくわからなくて、
「はーい。」
と軽く返事をして、再び撫で回す。それから、
「そういえば、お屋敷のお庭にも白い狐が遊びに来てましたよ。」
先ほど、新月の夜のことを思い出してデジャヴを感じたので、なんとはなしにそう言うと、
「ああ、それは俺だ。」
同じように、なんとはなしにそう言われ、
「あ、そうでしたか。」
と答えたのだけれど・・・
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「ええええええ〜!?」
あの夜、その狐に、色々恥ずかしいひとりごとを聞かせたことを思い出して、思わず声を上げてしまった。
「ははは。あの夜のおまえのひとりごとは愛らしかったな。」
みるみるうちに頬が熱を帯びてくる。
「俺のことを想い、憂う琴音。この姿でなければ、迷わず抱きしめていたな。」
言葉で追い打ちをかけてくるのは絶対にわざとだ。こういう時の蒼月さんは、容赦ない。
このままでは完全にやり込められてしまうのは目に見えているので、
「その手には乗りませんよ!」
そう言って狐の姿の蒼月さんを抱っこすると、多分気持ちが良いだろうと思われる、耳の後ろ、首元、喉元を優しく撫で続ける。
すると、あっという間に蒼月さんが先ほどと同じように目を細めて気持ちよさそうな表情に変わったのを見て、
「ほらほら、抵抗できるならどうぞ!」
私は得意げに勝利宣言をしたのだけれど、その言葉にパチリと目を開けた蒼月さんが、
「ふ・・・では、今度は俺の番だな。」
と言い終わるのと同時に、再びポワンと煙が浮かんだ。
「・・・え?」
そうして、煙が晴れた時に私の視界に映ったのは、天井と、私を見下ろす『人の姿』の蒼月さんで、
「あ・・・・の・・・・?」
自分が畳の上に押し倒されていることに気づく頃・・・
「さあ・・・どうやって可愛がろうか・・・」
私にそっと覆い被さった蒼月さんは、あの、甘く低い声で、私の耳元で楽しそうにそうつぶやくと、
「琴音は・・・どこをどんなふうに撫でたら気持ちいいのだろうな?」
と、とんでもないことを言いながら、するりと手の甲で私の頬を撫であげ、
「ひゃ・・・」
私の首筋を唇で喰んだ。
(な、な、な・・・)
ふと交わった視線から、壮絶な色気を感じて動けなくなる。
「ここか・・・?」
そう言っておでこに口付ける。
「それとも・・・ここか?」
まぶたから目尻、頬へと次々と落とされる口付けに、甘い痺れが止まらない。
「それ・・・撫でて・・・ない・・・んっ!」
「そうか?」
わずかに残った理性で抵抗を試みるものの、あまり意味がないことは自分でもわかっている。
「言ったはずだがな。狐の姿の時は理性があまり持たないから気をつけろ、と。」
(そんなの聞いてない!)
そんな私の心の叫びなんて届くはずもなく、
「ん・・・っ!」
再び首筋を甘噛みされて思わず声を漏らして身を捩ると、頭の上でふぅと息を吐いた蒼月さんは、
「・・・今日のところは、引き分けとしよう。」
そう言って私の上から身体をどかすと、そっと私の手を引いて、私の身体を起こした。




