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第22話 はじまりの朝 -3-

朝食を終えた後、長老から、今日からここであやかしの世界について必要最低限のことを学ぶように申しつけられた。

文字の読み書きやマナー、ルール、生活の仕方など、私本人はもちろん、この世界の住人たちがいらぬ脅威を感じないようにするためだという。


郷に入りては郷に従え、ということだろう。

長老の考えには全くもって同意なので、むしろその心配りをありがたく感じる。


そうして、一刻後に書斎に来るように告げた長老は、自分の部屋へと戻って行った。

少しの間、千鶴さんと月影さんとおしゃべりを楽しんだ私は、その後千鶴さんに本邸内を案内してもらう。

それから、約束通り今日からはお手伝いをさせてほしいと申し出て、朝ごはんの片付けと食器洗いという役務を得た。


誰もいない台所で片付けを終えた私は、朝の光がまだ柔らかい中、小さな木製の洗い場へと歩みを進めた。

洗い場は裏にある通用口に近い庭の隅にあり、精巧に組み立てられた竹の水路から冷たい清水が絶えず流れている。

木製の大桶が二つ、整然と並べられており、その一つには清らかな井戸水が満たされていた。


大桶のそばに腰を下ろし、桶のそばに置かれた小さな木の板に朝食で使った食器を並べた。

食器にはご飯と味噌汁の残りがこびりついているので、まずはそれらを水で満たす。

その後、隣の桶から一握りの灰を取り、食器の上に撒き、それから手にも灰をつけて食器を擦り始めた。

灰は自然の研磨剤として機能するということで、油汚れを効果的に落としてくれる。


次に、手桶を使って桶の水をすくい、食器にかけた。

水が食器の上で軽やかに跳ね、灰とともに汚れを流し去る。この作業を食器がきれいになるまで1回から数回繰り返すと、最後にもう一度清水でしっかりとすすいだ。


洗った皿は、洗い場の脇に設けられた木の棚に並べておく。そうすることで自然の風に当てられ、この季節なんかはすぐに乾燥する。

全ての食器をこのように洗っていくのだけれど、水しぶきが時折、朝日に照らされてキラキラと輝き、まるで小さな宝石のようだった。

初めての経験で何もかもが楽しく、私は次々と作業を進めた。


全てを洗い終え、手を水で洗い流し、ふと周囲を見渡した。

清々しい朝の空気と共に、私の心もまた洗われたように感じられた。


「くは〜!この充実感よ!」


腰をうーんと伸ばして、きれいに並べられて乾かされている食器たちを眺めて自分の仕事に見惚れる。

あとは、食器がある程度乾いたら、布巾で拭いて台所に持ち帰るだけだ。


そう考えながら布巾を片手で持ってぐるぐると回していると、ギィッ・・・という音がして、通用口から誰かが入ってくるのが見えた。


(誰だろう・・・)


通用口から本邸までは、必ずこの井戸の横を通る必要がある。


堂々と歩いてくる姿から、泥棒の類ではないことはわかる。

背は高く、黒い髪が光にあたって艶々と輝いている。


男の人だ・・・だけど、木々の葉っぱの影に覆われて、この距離からでは顔まではよく見えない。


(まあ、近くに来たら挨拶をして用件を聞こう。)


そう思って、その人が近づいてくるのを待つ。

すると、私がその人をしっかりと見据える前に、相手がこちらに気がついた。


「ああ、千鶴か。おはよう。朝からすまないが長老を呼んできてくれないか?墓場のぬえのことで報告がある・・・」


この人、千鶴さんと私を間違えてる・・・

そう思った瞬間、聞き覚えのある声だなと気づく。


そうして私が彼の顔をまじまじと見たのと同時に、相手もこちらをじっと見た。


「おま・・・え・・・・」


そう言って驚いた顔で立ち止まった男性を、さらにじっと見る。


(あれ?この人どこかで見たことあるな・・・この整った顔立ち・・・)


そこまで考えて、強烈な違和感を感じる。


「え?もしかして蒼月さんですか?でも・・・・」


そう。好みのお顔に低く響く声。目を瞑ったら(顔が見えなくなるけれど)蒼月さんに違いない。だけど・・・


「なんで・・・黒髪・・・?」


昨日のさらさらと風になびく銀髪とは打って変わり、からす羽色ばいろという表現がぴったりの黒髪を纏った蒼月さんが、目の前に現れた。

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