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第200話 鏡の間 -11-

博識な小鞠さんが自信なさげに言ったのがとてもめずらしくて、思わず理由を尋ねてみると、小鞠さんは腕組みをして思い出すようなそぶりの後で、説明してくれた。


結構前の話らしいのだけれど、街の人が影渡かげわたりさんに『人間界と行き来していると、あやかしだとバレたりしないのか』と聞いた時、『人間相手なら記憶を消すことができる』と言っていた・・・という噂を聞いたことがあるらしい。

ただ、あくまでも噂で、小鞠さん本人が直接影渡(かげわたり)さんに聞いたわけではないから真偽のほどはわからない、とのこと。


「そうですか・・・」


仕事柄記憶力には自信がある私が記憶を消そうと思ったら、何かに頼るしかないと思ったけれど、影渡かげわたりさんにしかできないとなると、まあ、無理だなと諦める。


そうこうしている間にも、夕方には蒼月さんが戻ってきてしまうだろうし、とりあえず今できることは、やはり「なかったことにする」ことくらいだろうか。

本当は蒼月さんと会話した方がいいことはわかっている。だけど、それをしてしまったら、もっと心がぐちゃぐちゃになりそうで怖かった。


そんなことを考えていたら、小鞠さんと目が合った。


「なんじゃ、琴音殿。何か悩み事かえ?」


「あ、いえ、そういうんじゃないんですけど・・・」


つい口から出てしまった言葉で小鞠さんに心配をかけてしまったことを反省しつつ、


「妖術を勉強してたら、他にはどんなことができるのかなと思って。私、水と氷の練習帳しか持っていないので・・・」


こんな言葉で誤魔化せるとは思わないけれど、とりあえずそう言ってみる。すると、小鞠さんはなるほどという顔をして、


「そうじゃったか。まあ、錬金をすれば基本の妖術とはまた違った術も作れるゆえ、妖術は奥が深いぞ。」


そう言って、笑う。それから、


「かつ、長く生きれば生きるほど、扱える術も多くなる。しかし、記憶を操作するものは聞いたことがないゆえ・・・やはりなんでもできるわけではないのであろうな。」


と言った。


「私は氷の元素と相性がいいと言われました。」


話の流れに乗ってくれた小鞠さんに感謝しつつそう伝えると、


「せっかくだからいくつか見せてはくれぬか?」


と言われ、ほうとうを食べ終わった後、今度は小鞠さんに妖術を見てもらうことになった。


お茶とお菓子を持って、食堂から私の部屋に移動してきたのだけれど、小鞠さんが食べきれないほどのお菓子を持ってきたので、思わず笑ってしまった。


練習帳をおさらいしながら氷の妖術を披露していると、小鞠さんは感心したように、


「ほう。琴音殿、なかなか筋が良いな。」


と褒めてくれる。私はまだまだ初心者なのだけれど、褒められて伸びるタイプらしい。嬉しくなって高揚した気分のままで氷花円舞ひょうかえんぶを披露する。

これは、逃亡を妨害したい相手がいる時は、その対象を引き留めるよう作用するのだけれど、そうでない場合はただただ美しい氷の花の氷像を展開していく技だ。

ただし、対象不在のまま使うことがほとんどないので、認知としては逃亡妨害として使われることがほとんどだということだった。


「おお、これは見事じゃな。」


展開されていく氷の花たちを眺めながら、小鞠さんが感嘆の声を上げる。


「部屋もひんやりと涼しくなって、最高じゃ。」


確かに氷の氷像が広がることで部屋全体が涼しくなってきたのを感じる。さらに便利なのは、ドライアイスのように蒸発して消えていくので、溶けても水にならないところだ。


「美しいのう・・・」


小鞠さんがめずらしく頬をほんのり上気させてうっとりと眺めているのが嬉しい。


「琴音殿。この氷像群の中に鳥を飛ばせることはできるかえ?」


何気なく言われた言葉を受けて、鳥が飛んでいるところを想像する。すると・・・


「おお・・・!」


なんと、羽ばたく氷の鳥が現れて、優雅に舞っている。くじゃくのような不死鳥のような、尾が長く冠をかぶっている鳥だ。

実際のそれと違う点は一点だけ。そう、すべてが氷でできているという点だけだ。


「琴音殿、ここに雪は降らせられるかえ?」


再びのリクエストを受け、情景を想像する。すると、不思議なことに、ハラハラと雪が降り出した。


「むう・・・これは・・・」


上気した頬はそのままに、腕組みをして何かを少しの間考えたいた小鞠さんは、私を振り返ると、


「琴音殿、錬金をしてみぬか?」


と、言った。


ほむらくんからも聞いたことがある「錬金」を小鞠さんからもやってみないかと言われて、少し考える。

この前はまずは基本を、ということで練習帳を進めていったけれど、少し慣れてきた今言われると、興味が湧くのも事実だ。

元々妖力のない人間の私が妖術を使えているだけでもほぼ奇跡に近い(実際は守り水晶のおかげだけれど)のだけれど、さらに上級技術っぽい錬金にチャレンジできるなんて、ちょっと楽しそうだなと思ってしまう。


「私にできますかね・・・?」


恐る恐る尋ねると、小鞠さんはあははと笑いながらこう言った。


「できぬと思ったら言っておらんわい。琴音殿は想像したものを具現化するのが得意そうじゃから、できると思っての。」


小鞠さんにそう言われると、ほんの少しだけ自分を信じてもいいかもしれないと思えて、素直に、


「それであればやってみたいです。」


と答えると、小鞠さんは嬉しそうな顔をして、うんうんとうなずいた。

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