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第190話 鏡の間 -1-

目が覚めて、昨夜のことを思い出して、また布団にもぐる。


(わー!わー!わーー!どうしよう!!)


抱きしめられた身体全体に響くような、低くて穏やかな甘い声。思い出すだけで胸がきゅんと音を立てる。

布団の中で久々に頬をつねってみたものの、やっぱり痛いので、現実のようで安心する。


『今日からは、おまえが俺の彼女・・・だな。』


その言葉を反芻して、布団の中で悶える。それから、ふと我に返って、激しい羞恥に襲われる。


「はぁ・・・無理・・・」


恥ずかしさと嬉しさが交互に襲ってきて、平静が保てない。


昨日、抱き合っていた身体を名残惜しい気持ちで離した後、お互いなんだか気恥ずかしくなったのか、並んで手を繋いだまま、目も合わさずにしばらく庭を見つめていた。

感覚的にはとても長かったような気もしたけれど、おそらく実際は長くて10分程度のことだったと思う。


そんな中、蒼月さんがふと、


「夜も更けてきた。おまえも明日、早いんだろう?今日はここまでにして、またゆっくり話そう。時間はこれからたっぷりある。」


そう言って、ゆっくりと立ち上がった。その言葉に、私もうなずいて立ち上がった。すると、蒼月さんは私を見て優しく微笑み、一瞬だけそっと右手で私の左頬に触れると、


「じゃあな。おやすみ。」


とだけつぶやいて、自分の部屋へと帰って行った。私はというと、そんな背中に向かって、「おやすみなさい」というのが精一杯だったわけだけれど・・・


「さすが硬派・・・」


私は決して肉食女子ではないし、積極的でもない。

だけど、思わずそうつぶやいてしまうほど、なんの下心も見せず、かつ躊躇もなく去った蒼月さんに、妙に感心してしまった。


そうして、昨日のことを回想しながら少し落ち着いた私は、布団から出て朝の鍛錬の準備を始めた。




朝の鍛錬も終わり、朝餉あさげの時間がやってきた。

落ち着かず早々に食堂に入った私は、蒼月さんがきたら何事もなかったかのように挨拶をするためのイメージトレーニングを重ねていた。


それなのに、


「琴音殿。すまんが、入り口に置いてある布巾を取ってくれんか?」


小鞠さんからの依頼を受けて入り口に近づいた途端、中に入ってきた誰かと軽く衝突し、


「お・・・っと。すまない。」


その「誰か」は蒼月さんで、事故とはいえ、再びしっかり抱き止められた私は、


「あ・・・お、お、おはようござ・・・っ」


イメージトレーニングしてたことなんてすっかり忘れて、ふわりと香った蒼月さんのこうの香りと間近に迫ったお顔のせいで、ただの挙動不審な女になってしまった。


それなのに、蒼月さんの方はまったく動じていないばかりか、私が慌てて身体を離すと、


「なんだ。まだくっついていてもらっても構わないぞ。」


そう言いながら、はははと笑いながらおかずをよそいに行った。そんな様子を見た小鞠さんが、


「なんじゃ、蒼月。随分と上機嫌ではないか。」


と言いながら、出来たばかりの卵焼きを蒼月さんのお皿に乗せると、蒼月さんが、私をちらりと見た後で、


「ああ・・・小鞠殿にも伝えておこう。」


なんて言い出したから、


(ちょ・・・っと!?まさか・・・?)


私たちのことを言ってしまうの?と、思わず手にした布巾を落としそうになった。

いや、隠したいわけじゃないから別にいいのだけれど、心の準備がまだ・・・なんて焦っていると、蒼月さんが小鞠さんに言ったのは、


「今日は琴音を連れて白翁殿のところに行くのだが・・・どこから聞きつけたのか、例のふわっとした甘味が食べたいらしい。悪いが焼いてもらえるか?」


ということで、私がほっとして大きく息を吐くと、確信犯だったのだろう・・・私の方を見てクククと楽しそうに笑った蒼月さんは、


「そんなところに突っ立ってないで、中に入れ。」


と言った。


すると、ちょうどそこにほむらくんもやってきて、


「なんだよ、琴音。そんなとこ突っ立ってないで、中入れよ。」


なんて言ってくるものだから、主人あるじと同じこと言っちゃって!!と、ボウボウと燃える顔のほっぺを両方向から摘んで引っ張ってやる。


「イテテ、なんだよ〜!」


そうして、単なる八つ当たりを受けて痛がるほむらくんに、


「理由はご主人様に聞いてください!」


そう言って両手を離した私は、ほっぺをさすりながら「蒼月様〜。琴音がひどいんです〜。」って文句を言っているほむらくんを横目に、


「小鞠さん〜。はい、布巾。」


と、小鞠さんに駆け寄ると、おかずをよそって自席に着いた。


それから、みんなで手を合わせて食事を始めると、小鞠さんが味噌汁を一口飲んだ後で、


「・・・で?」


そう言って、私と蒼月さんを交互に見た。最初、私にはその意味がわからなくて、首を傾げて小鞠さんを見るだけだったのだけれど、


「無事、恋仲になったのか?」


突然のその言葉に、私は持っていた箸を落としてしまった。


「え・・・!」


と慌てる私に対して、


「・・・ああ、まあ、そういうことだ。」


と、一瞬だけ言葉に詰まったものの、何事もなかったかのように答える蒼月さん。そして、


「えええええええ〜〜〜!!!!!!」


と当人たちよりも騒がしいほむらくんの反応を見て、小鞠さんはまた一口味噌汁を飲むと、


「やれやれ、一件落着でよかったのう。」


にっこりと笑って、


「めでたいので、夕餉ゆうげは赤飯を炊こう。」


と言った。

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