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第18話 耳の長い長老 -4-

美女に向かって、長老が声をかける。


「千鶴。こちらは琴音殿と言って、人間界からのお客様ぞ。しばらくの間、離れで生活してもらうので、身の回りを整えてやってくれんか?」


その言葉を受けて、千鶴と呼ばれた美女が私に視線を向けると、その場で畳の上に正座をし、


「これはこれは。人間界からのお客様とは、ほんまに久しゅうございますなぁ。」


目を細めて遠くを懐かしむかのように私を見つめ、


「千鶴と申します。こちらで琴音さんのお世話をさせていただきますえ。」


ふんわりと微笑んだ。


なんて雅で美しいのだろう。


それが千鶴さんの第一印象だ。


「あ・・・琴音と申します。お世話になります。」


一瞬見惚れていたけれど、慌てて先ほどと同じように、ぺこりと頭を下げてご挨拶をする。


それから私が顔をあげたのを見ると、千鶴さんは静かに微笑んで一礼した。


「こちらこそ、よろしゅうお願いいたします。それでは、まずは離れへご案内いたします。」


千鶴さんは優雅な動きで立ち上がり、私を促す。

私もゆっくりと立ち上がり、長老に一礼をしてその後に続き、広間を後にした。





広間の大きな引き戸が開かれ、そこから広がる庭が一望できる。


「どうぞ、こちらへ。」


千鶴さんは優雅な手つきで引き戸を開けると、私を庭へと導いた。広間の床から一段下りた縁側があり、そこから石畳の小道が続いている。


私は千鶴さんに倣って縁側に足を下ろし、サンダルに履き替えて彼女に続いて歩き始めた。広間から続く石畳の道は、手入れの行き届いた庭園へと誘う。


「この庭は、白翁様がほんまに大切にされている場所ですのよ。」


千鶴さんは歩みを進めながら、庭の手入れのことや、花々の名前を一つ一つ説明してくれる。


「ここにありますのは椿つばきです。冬に花を咲かせ、その鮮やかな赤が雪景色に映えますの。そして、こちらは紫陽花あじさい。梅雨の時期に見事な色彩を見せてくれます。四季折々の花々がこの庭を彩りますの。」


石畳の小道は緩やかに曲がりくねり、色とりどりの花々が咲き誇る美しい庭園を通り過ぎる。


私はその景色に目を奪われながら、千鶴さんの説明に耳を傾ける。石畳の小道はやがて離れの前にたどり着き、そこには静かな佇まいの建物が見えてきた。


「このお庭は、私が手入れしております。季節ごとに美しい花が咲きますので、どうぞお楽しみくださいませ。」


「すごくきれいですね。千鶴さんのおかげでこんなに美しいんですね。」


「お褒めいただき、光栄ですわ。さあ、こちらが離れです。」


千鶴さんに案内された離れは、広々とした和風の建物で、落ち着いた雰囲気が漂っていた。

彼女は私を部屋に通し、部屋の中を見渡す。


「こちらにお客様をお迎えするのは、ほんまに久しゅうて・・・」


何かを思い出すように懐かしそうに宙を見つめていた千鶴さんが、ふと我に返ってこちらを見る。


「あ・・・ここが琴音さんの新しいお住まいですけれど、このお部屋以外のお片付けをしなくてはならないので、お着替えの前に、まずは湯浴みとお食事などいかがですか?」


お荷物はここに、と、私が持っていたハンドバッグと引き出物の袋をそっと受け取ると、荷台にそれらを置いた後、私に鏡を見るように促した。

促されるままに、部屋の鏡に映る自分の姿を見る。


(こ、こんなにボロボロだったなんて・・・・)


髪はどうにかまとめているから何とか見れるものの、どう表現したらいいか分からないくらい悲惨な状態の自分を見て、思わずうなだれる。


「こんな状態を晒していたなんて・・・蒼月さんにも長老にも申し訳ない・・・・」


恥ずかしいを通り越して申し訳ない気持ちでつぶやくと、


「あら。蒼月さんとはもうお会いになりましたんやね?」


千鶴さんの何気ない言葉に、改めて墓場での恐ろしい体験を思い出す。

それなのに、そんな私の感情とは裏腹に、千鶴さんは口元に袖を当てて、何だか嬉しそうにふふふと笑っている。


「蒼月さんと千鶴さんは、お知り合いなんですか?」


その様子に思わず素朴な疑問が口をついて出た。


すると、一瞬ハッとした千鶴さんは、その後またすぐに笑顔になって、


「そうですねぇ。蒼月さんはよう長老のところにおいでになるので、お顔を合わせる機会は多いですよ。」


そう言うと、


「なので、琴音さんともまたお顔を合わせる機会があると思いますよ。」


ふふふ、ともう一度笑った千鶴さんは、


「さあ、湯浴み処へご案内いたしますわ。」


と、私を連れて、再び先ほどの本邸への道を引き返した。

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