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第176話 秘密の開示 -17-

蒼月さんから、妖力が九重ここのえの名前で記されていることについての説明は、少しだけ時間が欲しいと言われた。

わからない、ではなく、時間が欲しい。つまり、蒼月さんはその理由を知っている、もしくは心当たりがあるということだ。


でも、その代わりに私が一番気にしていたことの答えをくれた。

蒼月さんが私の知っている蒼月さんだ、ということ。それだけで、私の気持ちはだいぶ軽くなった。


そんな中、蒼月さんがコホンと軽く咳払いをした。


「ところで・・・」


ふと私から視線を外した蒼月さんのその仕草に、少しだけ違和感を覚える。


「いい加減、何か羽織れ・・・」


どこかバツが悪そうな声色と表情の蒼月さんが、私の方にちらりと視線を向けた瞬間、自分の格好に気がついた。


(ああ、これ・・・長襦袢が気になるってことかな・・・?)


思い返せば、実家で着物を着るときは、家族の前で長襦袢姿で歩き回ることも多かった。でもそのたびに母から「お行儀が悪い!」と怒られていたっけ。


「あ・・・すみません・・・」


慌てて周りを見回すけれど、さっき脱いだばかりのしわしわの着物しかない。しかも、布団も敷きっぱなし、夏用の上掛けも乱れっぱなしという最悪な状態だということに気が付いた。


「お恥ずかしい・・・」


輝夜石かぐやいしが転がり落ちたあたりからそれどころじゃなかったから仕方ない・・・というのは言い訳だけど、とりあえず夏用の上掛けを拾い上げて羽織ることにした。


「お見苦しいところをお見せして、大変失礼いたしました・・・」


そう言って座り直すと、蒼月さんは私をちらりと見てから、満足そうにうなずいた。


「まあ、よかろう。」


しかし、その一言で済むかと思いきや、次の瞬間、蒼月さんの口元に少しいたずらっ子のような笑みが浮かぶ。


「誘われているのかと思ったぞ。」


その言葉が耳に飛び込んできた瞬間、頭が真っ白になった。


「ち、違います!そんなつもりは・・・!」


慌てて立ち上がりかけたその瞬間、私を包んでいた上掛けがはらりと畳に落ちた。


(あああああ〜〜〜!)


なんだかもう、自分が一人で慌てて、一人で喜劇を演じているような気分になる。

必死で畳に落ちた上掛けを拾い上げて再度身体にぐるぐると巻きつけると、蒼月さんが低い声で笑った。


「違うのか。それは残念だな。」


その一言に、私の中の恥ずかしさがさらに膨れ上がり、


「もぉ・・・からかわないでください・・・!」


そう言い返すのが精一杯だった。


そんな私を見て、蒼月さんがフッと微笑む。その優しい眼差しは、まるで包み込むようで、どこか甘さを帯びている。


(こんなの・・・勘違いしちゃいそう・・・)


胸の奥がじんわりと熱を帯びていく。すると、私の心を見透かしたように、蒼月さんがそっと視線を逸らした。


(蒼月さんって、女性に慣れてる感がすごいんだよなあ・・・)


普段どちらかというと硬派だし遊んでいる風にはまったくもって見えない割に、たまに垣間見せる手練てだれっぽさに震える。

雪女の氷華さんといい、この前の女の人といい、結局どういう関係なのかはっきりしないし。

でも、お見合いしているくらいだから、特定の人はいないのかもしれないし・・・でも、この前のお母さんとの会話からすると、そもそも結婚する気がない可能性も高い。


(それとも・・・)


例の巫女さんのことが頭をよぎる。彼女のことがものすごく特別で、大切にしているのかもしれない。

そんなことを考えている間、蒼月さんも何も口に出さないから、ほんの少しだけ沈黙が流れる。けれど、


「ところで、おまえを訪ねてきた本題に入ってもよいか?」


急に発せられたその声にハッとする。すっかり忘れていたけれど、そういえばそうだった。何か用事があって訪ねてきたのであろう蒼月さんのことをすっかり忘れていた。


「はい。すみません。どうぞ。」


きちんと座り直して背筋を伸ばして蒼月さんをしっかり見据えると、蒼月さんはそんな私を見てフッと表情を崩した。


「いや・・・そんな改まった話ではないのだが・・・」


その言葉にやや肩透かしをくらう。


「今日はほむらが不在のため鍛錬は中止だと伝えにきたのと、それゆえ、おまえの都合がよければもう一度妖具屋に行かないか?という誘いだ。」


その言葉に思わず私も力が抜ける。


「ああ、そうなんですね。わかりました。妖具屋さんはぜひ!今日はゆっくり見れるといいなあ〜。」


実は、色々とめずらしいものがあってゆっくり見たかったものの、あんなことがあって早々に出てきてしまったのを少しだけ残念だなと思っていたところだった。

術を生み出すもの、術から守るものはもちろん、なんだか怪しげな薬の棚があって、すごく興味を惹かれていたのだ。


(惚れ薬とかもあったら面白いな・・・)


「では、決まりだな。俺は朝餉あさげの後、長老のところに行ってくるゆえ、その後共に出かけよう。」


「はい、承知しました!」


そんなやりとりをすると、蒼月さんは「ではまた食堂で」と言って部屋を出て行った。





蒼月さんを見送った後、鍛錬も中止となり残された私はポツンとそこに座ったままふと思う。


(わざわざ来る必要・・・あった?)


朝イチの鍛錬は庭掃除だ。どちらにしても身支度を整えて庭に出るだけなので、そこで言われたところで大きなデメリットはない。

昨日のうちに言われていたのであれば、寝坊ができるというのはメリットだけど・・・


(もしかして・・・心配して来てくれた?・・・いやいや、さすがに都合よく考えすぎか・・・)


実はもっと大事な用事があったのを忘れているだけなのかもしれない。まあ、私は朝から蒼月さんに会えて嬉しかったからいいけれど。

そんなことを考えながら、着替えてお布団を畳んだ私は、身支度を整えて、昨日は書けなかった日記を書くために文机に向かった。

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