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第142話 時ノ廻(ときのめぐり)という街 -11-

お土産の干し芋は、小鞠さんとほむらくんに大好評だった。


そして、安倍晴明あべのせいめいからの手紙!

蒼月さんから見せてもらったその手紙は、確かに人間界の言葉で書かれていた。

達筆すぎて全部は読めなかったけれど、一部は私にも何が書かれているのかがわかった。

特に、もっと早くに和平を結べていればよかったけれど、結果として強制的に扉を閉ざすことになって残念だと書かれていた。


異界の扉を閉じる、ということは、その後は人間界とあやかし界の交流ができなくなるということで、今まで良好な関係を築いていただけに、人種を超えた付き合いができていたのを辞めざるを得なくなったことへの遺憾が綴られていた。


(そうだよね・・・もしかしたら、いわゆる国際恋愛や国際結婚のようなものをしていた人たちもいたかもしれないんだよね・・・)


そう思ったら、争いが終わったのはよかったけれど、それによって断裂された関係もあったのかもしれない、と胸が痛んだ。

そして、そんなことが平安時代に起きていたなんて、まったく考えてもみなかった。


(あれ・・?でも・・・)


確か、影渡かげわたりというあやかしが行方不明になるまでは、行き来ができるようになっていたって言ってなかったっけ?

そうなると、大戦争で一旦断絶されたお互いの世界は、何かをきっかけにまた繋がることができるようになったという風に考えることもできる。

もしそれが正解なら、その時に別れざるを得なかった人たちが再会できていたらいいな、と切に願う。


そんな中、こちらの世界に来てまだ2ヶ月弱だけれど、私の中で蒼月さんの存在が日に日に大きくなっていることを自覚している。

最初はただのかっこいい人だった。

危険なところを助けてもらうという劇的なシチュエーションで、しかも、そのヒーローがイケメンだったら、心臓がドキドキしてしまうのも当然だろう。

そして、一度だけの出会いかと思ったら、その後もたびたび会う機会に恵まれて、その都度塩対応を受けてこっそりとショックを受けるものの、その後も何度も危ないところを救われるなんて、小説の世界でしか見たことがない展開を実際に体験することになるわけだ。

これはもう運命かも!と勘違いするには材料としては十分すぎる。


しかし、運命だというならば、その運命というのは意地悪なもので、いつまでもうわついてはいられない、色恋沙汰で浮かれてないで真面目に鍛錬に取り組もうと思った矢先に段々優しい面が見えてくる。

さらには私に対しての態度も心なしか以前とは別人のように優しくなっているなんて・・・


そしておそらくこれで勘違いをすると、それをまざまざと見せつけられるようにこっぴどく突き放されるに違いない。


そこでいつも浮かんでくるのが、あの巫女の話だ。

蒼月さんのあんな表情を見せられて、ただの知人や友人だとは思えないからだ。そんなこともあって、私は私で彼女のことが気になりながらも、深く知る覚悟ができないでいる。

私の知らない時代の、知らない人とどんな関係にあったのかなんて、気にするのもバカバカしすぎる。しかも、蒼月さんと私はただの師匠と弟子という関係だ。

同じ土俵に上げて考えること自体が烏滸おこがましいのだ。


命をかけて蒼月さんを守ろうとした人、人間対あやかしという壮大なスケールの戦争を終わらせた人。

蒼月さんの妖力を得たことで異界の扉を閉じるという誰にもできなかったことができるようになったということは、ある意味すごいことだと思うのだ。

仮に彼女が元々巫女の神通力としてのポテンシャルを持っていたとしても、それが他の能力と交わって特殊な能力を授かったということは、それは神様に認められた、託されたということに他ならないと思うのだ。


そんなすごい人が蒼月さんにとって特別な人だというのなら、何の取り柄もない、もっと言えば足手まといでしかない私は、蒼月さんに想いを伝えることすら憚られてしまう。


「はぁ・・・」


この一連の流れを、毎日毎日寝る前に反復して自制を促していること自体、もうだいぶ蒼月さんに本気になりつつあるのではないかと認識している。


自分でもよく毎日毎日飽きずにネガティブスパイラルを作り上げて落ち込んでるなとは思うけれど・・・静寂しじまと癒しの結界ベッドの効果なのか、朝はスッキリと目覚めてしまうので、毎日同じことを繰り返している。


「バカだなあ・・・」


そんなこんなで自嘲しながら目覚めた、ときめぐりから戻ってから3日目の朝。


一見普段の生活に戻った感じはするものの、実際私はいまだに一人での外出は禁止だし、蒼月さんは調査を続けているようで、いつも通り番所に出向き、帰宅後私の鍛錬に付き合ってくれている。


「いい加減・・・ちゃんとしなきゃ。」


十分すぎるほどの好意は認識しているけれど、これ以上この気持ちを膨らませてはいけない。

恋をするのは初めてじゃないから、どんなに自制しても恋に落ちる時は落ちるし、気持ちを止めることはできないということも知っている。

ここから去って会わなくなれば、こんな気持ちは徐々に薄れていくかもしれない。けれど、状況的にはそれもできない。


だから・・・


「ダメだよ、琴音!」


パチンと両頬を挟むように叩いて自分に喝を入れて、意識していくしかない。


今日からはなるべく恋愛を意識せず、ひたすら強くなることだけに専念する。

気になっている、気持ちが溢れそう、弟子のままでいなくちゃダメ。今までに何度もこの気持ちについて向き合ってきた。

もうこの気持ちを消すことは多分できない。

だから、これ以上大きくならないよう・・・別のこと・・・強くなることに集中しなくては、と改めて心の中で強く誓った。

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