第135話 時ノ廻(ときのめぐり)という街 -4-
どこかに飛ばされたのは確かだろうけれど、視界が晴れるまで、とりあえず大人しくしている。
「あ・・・」
徐々に視界が白から色付いてきて、完全に視界が晴れると、そこは山の中のようだった。
(・・・えええ)
木漏れ日がたくさん差し込んでいることから、今は日中なのだろう。
まあ、このまま時ノ廻にUターンすればいいだけだから、どこにいても問題はないのだけれど、場所もどの年代かもわからないから、蒼月さんに報告できないな、なんて呑気なことを考える。
そんな中、どこからともなく聞こえてくる鳥の声に癒されて、気持ちに余裕が湧いてくる。
すると、先ほど集めた本のページをギュッと握っていることに気がついた。
(失くさないようにしまっておこう・・・)
丁寧に折りたたんで、帯の中に差し込む。
(帰ろうと思えばいつでも帰れるっていうことだし、ちょっとだけ散策してみようかな・・・)
無駄に好奇心だけは強い私は、そう思って自然の中を歩き出した。
道はないけれど、草が生い茂っているわけでもないその場所から、ゆっくりと歩き出す。
歩き始めて気がついたのだけれど、特に傾斜があるわけでもない。
そんな中を数分歩いたところで、道のようなものに遭遇した。
(道・・・だよね?)
これを辿れば街にたどり着くかもしれないと思い、道なりに歩き始めた。
小鳥のさえずりが心地よくお天気が良かったこともあり、しばらく鼻歌を歌いながら道を進んでいたが、視線の先に座り込んでいる人影のようなものが見えて、一気に緊張感が高まった。
緊張しながらゆっくりと近づいていくと、相手も私に気がついたのか、立ち上がってこちらを見ているように見える。
(まあ・・・いざとなったら結界を張ればいいしね・・・)
相変わらず防御一辺倒ではあるものの、身を守れるのは心強い。今回は蒼月さんに助けは呼べないけれど、結界の中から元の世界に戻ればよいだけなので、問題はない。
だけど、その緊迫した空気は、比較的すぐに緩んだ。
(・・・子供?男の子だな・・・)
近くに来ると、明らかに私よりも背の低い、番所に来ているような子供であることがわかった。
(でも・・・椿丸くんみたいに変化するあやかしかもしれないからな・・・)
一定の距離を保ったまま、声をかけてみる。
「こんにちは。どうしたの?」
すると、男の子は素直に反応した。
「こんにちは・・・おなかが空いて動けないのだ・・・」
子供のくせに話し方が硬い笑
そして、おなかが空いて動けないなどと、かわいいことを言っている。
思わず母性本能をくすぐられ、距離を詰めてその子に近づく。
「いただきものだけど・・・干し芋、食べる?」
さっき天狗にもらったばかりの干し芋の包みを、その子の目の前で広げると、彼は目をキラキラさせて食い入るように干し芋を見つめた。
「どうぞ。召し上がれ。」
すると、おずおずと干し芋を1枚手に取り、ゆっくりと口に運ぶ。もぐもぐとゆっくり噛み締めながら食べる姿が愛らしい。
「美味しい?」
美味しそうな顔で食べているのを見ているけれど、つい聞きたくなってしまう。
「うん!美味しい!」
(か、かわいい・・・)
ふとみると、男の子は白いふさふさのしっぽをブンブンと振っている。
(かわいい!!)
さっきから、心の中でかわいいしか言ってないことには気づいている。けれど、本当にかわいいので仕方がない。
「全部食べてもいいよ。」
そう言って包み紙ごとその小さな手に持たせると、男の子は嬉しそうにその包みをそっと抱きしめた。
「それはそうと、キミ、一人?誰かと一緒じゃないの?」
そもそもこんなところに子供が一人なんて、いくらなんでも危ないのでは?と思い尋ねると、
「母上とはぐれてしまったのだが・・・先ほど伝書を飛ばしたので、じきに迎えにきてくれるだろう。」
おお、本当に子供の頃から普通に使っているんだな、と妙に納得してしまう。
「おぬし、人間だろう?ここで何をしておるのだ?」
「私は・・・旋風に巻き込まれて、飛ばされてきちゃったの。でも、そろそろ元の場所に帰ろうかなと思って。」
すると、男の子は私の着物の袂を摘んでこう言った。
「おぬしのことが気に入った。もう少し一緒に遊びたい。」
そんなかわいいおねだりに、胸がキュンとなる。
「じゃあ、お母さんが来るまで、遊びながら待とうか?」
どのみち子供を一人にしておくよりは、いくら強くないとはいえ、私と一緒にいた方が安全だと判断して、もう少しこの男の子と一緒にいることにした。




