第131話 書庫での発見 -11-
なんとなく・・・なんとなくだけど、私だけに聞こえた気がしてならない。
急に九重とのご縁が繋がってしまったような感覚に陥り、私の中で私の感情なのか、彼女の感情なのかわからないようなモヤモヤとした想いが渦巻く。
自分の中で、誰の感情なのかすら曖昧になるような悲しみや切なさ、孤独感が次々と押し寄せ、心が溺れるような感覚に囚われる。
「おい。」
ふと、肩を掴まれて我に返ると、蒼月さんが心配そうな顔をして私を見ていることに気が付いた。
「問いかけに無反応だったから心配になった。おまえがあんなにぼうっとするなんて珍しいからな。どうかしたか?」
そう聞かれて、首を振る。
まだ、確証がないのに、適当なことは言えない。
「あ・・・すみません。九重の事件を読んで、悲しくなってしまって・・・」
これは嘘ではない。今、私が言えるのは、これだけなのだ。
「ああ・・・そうだな。私も、封印された九尾の狐の存在は知っていたが、その背景までは今日まで知らなかった。」
そう言った蒼月さんも、どことなく憂いを帯びた表情をしている。
「私の方も書簡は全て目を通したので、今日はこの辺で帰ろう。」
本を重ねながら立ち上がる蒼月さんに釣られて、私ものろのろと立ち上がる。
「結界を解く前に、心の準備をした方がいいぞ。本当に騒がしいのでな・・・」
うんざりとした顔でそう言った蒼月さんを見て、重い気持ちが少し軽くなり、さらには少し笑ってしまった。
「はい。では、解きますよ・・・」
心の中で結界の解除を唱える。すると・・・
「やっと出てきおったわい!」
「出てきおった!」
「散々無視してくれたなあ、おい!」
「おい!」
部屋に入ってすぐくらいに騒いでいた、あの下世話な声が響き渡る。
それ以外にも初めて聞く声含め、それはもう騒々しいったらありゃしない。
それなのに、そんな声は完全に無視して、蒼月さんは黙々と本を棚に戻していく。
そうして、全ての本を棚に戻し終えると、
「部屋はきちんと掃除しておけよ。」
部屋を見回しながらそれだけ言って、口々に文句を言っている声にはそれ以上反応せず、
「帰るぞ。」
と、耳を塞いでいる私の腕を引っ張って部屋を出た。
禁書の間の扉を外から閉じると、静寂が戻ってきた。
「はあ〜〜・・・本当にうるさかったですね。」
苦笑いをしながら蒼月さんを見上げる私に、
「時間の経過とともに騒々しさが増すのだ。結界のおかげで助かった。禁書の間でここまで静かに過ごせることは滅多にないからな。感謝する。」
急にお礼なんて言ってくるから、照れて挙動不審になってしまう。
心なしカクカクしながら、目を合わせないように蒼月さんの前を歩くいていると、広間の入り口で小雪さんと鉢合わせした。
「随分とゆっくりじゃったな。あんな騒音の中、よく耐えれるものじゃ。」
私たちが今出てきたところだと知って、驚いた顔でそういう小雪さんに、蒼月さんはあの騒音を思い出したのか、苦笑いをしながら答えた。
「琴音の結界が特殊でな。騒音を遮断できるゆえ、今日はじっくりと読むことができた。」
すると、小雪さんがさらに驚いた顔で私を見て、
「なんと・・・それは便利じゃな。今度、おぬしらが禁書の間に行く時は、ぜひわらわにもお供させてもらいたい。」
なんて言うものだから、本当にあの部屋はいつも騒がしいんだな、と、思わず笑ってしまった。
私がうなずいて「喜んで。」というと、小雪さんは嬉しそうに微笑んだ後、真面目な顔に戻って蒼月さんを見上げた。
「して・・・知りたい情報は知ることができたのかえ?」
「ああ、おおよそあたりはついてきた。明日あたり、時ノ廻を尋ねてみようと思う。」
そんな会話を聞きながら、時ノ廻ということは、やっぱり九重関連だよね・・・と思いながら、またあの悲しい話を思い出していると、
「おまえも一緒に行くか?」
と唐突に聞かれ、
「ぜひ!」
と瞬時に答えた。
しかし、その言葉はまるで私の意思を飛び越え、口から勝手に出てしまったような感覚だった。
自分でも驚きつつ、何か見えない力に背中を押されたかのような、時ノ廻で何かが待っているような・・・そんな気がしてならない。




