第127話 書庫での発見 -7-
「市ノ街 事件帖」は街が作られた年から古い順に書かれていた。
当たり前だけど、登場人物がすべて妖怪だから、黒悠之守の本の時にも感じたけれど、普通に読んでいるとすべて小説のようだ。
「青い炎について書かれているページを探しているんだけど・・・」
つい、無意識に声に出してしまい、慌てて口をつぐむ。
虫眼鏡を使っているので私の知っている言葉で読み進むことはできているとはいえ、この分厚い本を1ページずつ読みながら青い炎についての記述を探していくのは、正直きつい。
冒頭から10ページほど読んだ後、どうしたものかとパラパラと無造作にめくっていると、ふとあることに気が付いた。
(なんか・・・所々、ページの端が硬い・・・?)
その数は全部で3つ。
あれ?最初からこんなだったっけ?と思いつつも、硬くなっているページの角を押さえて、パラパラ漫画の要領でページを送ってみる。
(ん?・・・んん?)
開いたページに目を通すと、そこにはこんな記述があった。
『蒼き炎の柱が立ち上り、瞬時に白狐の身体を包み込んだ。』
(ちょっと、待って・・・)
他にも硬くなっているページの角を押さえて、順番に見ていくと、どのページにも「青い炎」についての記述がある。
なぜこのページだけマーキングされているのかは一旦置いておき、内容を読み進めていく。
〜復讐の蒼き炎〜
永宙100年(700年前)、同族から裏切りにあった白狐・白麗が青い炎で命を奪われた。その怨念が残り、満月の夜になると、街に現れては、裏切り者の末裔に復讐しようとする。炎が灯る度、街は恐怖に包まれた。この現象は大戦争で裏切り者の末裔が絶滅したことをもって収束した。
〜蒼き炎の泉〜
永宙230年(570年前)、天狗山の奥深くに眠る「蒼き炎の泉」は、昔から街の妖力が溜まりやすく、満月の夜には青い炎を立ち上らせる。触れる者は力を得るが、記憶や魂を失う呪いがかかっている。また、この泉は別次元への扉となっており、魂を失わずとも、そのままどこかに転移して消えてしまうことが多い。この泉の場所を知るものはおらず、天狗山の天狗でさえも偶然にのみよって辿り着くことができる。運よくたどり着いたものがいても、記憶や魂を失ってしまうため、泉のことが公になることなく、今も満月の夜は泉が出現しているはずである。
〜大封印の儀〜
永宙300年(500年前)、九尾の狐・九重の妖力が制御不能に陥り、猛烈な狐火が街中を暴走した。狐火は触れるものすべてを焦がし、守護のために張った街の結界すらも脅かすほど強大になったため、見かねた長老会が九尾の狐を封じたが、場所や方法については厳重に保管され人の目に触れることがないようになっている。この事件が起こる数日前、街のあちこちで青い炎の柱が目撃されているが、詳細は不明。
ざっくりとまとめるとこんな話なのだけれど、なかなかすごい話ばかりだ。
でも、私が一番気になったのは、最後の「大封印の儀」だった。
(九重って、もしかしなくても、これのことだよね・・・?)
先ほど軽い気持ちで手を伸ばして大惨事を起こしそうになった本の表紙に目を向ける。
(九重というのは九尾の狐のことなのね・・・)
まあ、気になるのは、この妖力の暴走が起こる数日前に、今回と同じように街のあちこちで青い炎の柱が目撃されているということ。
今回の事件に関係するのは、これなのかな?
でも、詳細は不明と書かれていて、そこから話が進まない。
この青い炎の柱を出現させたのは、九尾の狐なのか・・・はたまた別のあやかしなのか・・・。
今回の事件でいうと、九尾の狐は封印されているはずなのだから、別のあやかしの仕業ということになる。
(あれ・・・?ちょっと、待って・・・?)
私を攫ったサイコな妖狐・・・私が身動きできないように縛り付けた炎・・・・それが青い炎だったことを思い出し、思わず声を上げる。
「サイコ!」
その声に、蒼月さんが顔を上げて私を見た。
「蒼月さん!私を攫ったあの妖狐、覚えてますか?滝のそばの!」
私の勢いに若干引きつつも、蒼月さんは何かを思い出すように少しだけ考えると、口を開く。
「ああ。あの狐がどうかしたか?」
「あの妖狐、青い炎を操っていました!」
大発見です!という感じで伝えた私に、蒼月さんはこともなげにこう言った。
「ああ、狐は青い炎を操るものが多いからな。」
・・・・・
・・・・・・・
「えええええ・・・・そうなんですね・・・・・大発見かと思ったのに・・・・」
しょんぼりと肩を落とす私に、蒼月さんはクスリと笑って続ける。
「いや、あんな状況だったにも関わらず、よく思い出せたな。なかなかの記憶力だぞ。」
慰めか、そう言って褒めてくれた蒼月さんの優しさが心に沁みる。
そうか・・・妖狐は青い炎を操るものが多いのか・・・。
ということは、探しているのは「ただの青い炎」ではなく、「巨大な青い炎の柱を出現させることができる何か」ということだ。
「なんか・・・すみません・・・出直します・・・・。」
そう言って本に視線を戻そうとすると、
「ところで、事件帖に目ぼしい事件は載っていたか?」
と、聞いてきた。




