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第125話 書庫での発見 -5-

静かな空間にページをめくる音だけが広がる。


黒悠之守こくゆうのもりについて私が調べたかったのは、どんな存在で、いつから存在していて、どんなことをする存在なのか、だ。

虫眼鏡を片手に、本を読み進めていく。


それによると、黒悠之守こくゆうのもりは、もう何千年も前から今の市ノ街がある地域で土地と魂を守る神様だった。

800年前に市ノ街ができた際、街の端にある天狗山に建てられた祠に移り住み、それ以降も街を見守る神様だった。

しかし、300年前、「未来に起こるあやかし界の有事」を察し、それに向けて妖力、体力を温存するために自らを天狗山の崖に封印した。

その封印を解除できるのは、「未来に起こるあやかし界の有事」の際に黒悠之守こくゆうのもりの力を借りてそれを静めることができるもののみ。


と、これはただの要約なんだけれど、実際、本に書いてある内容はファンタジーすぎて、小説を読んでいる気分になる。

なぜなら、封印を解除したのって、一応私なのだけれど、そんな実感がさっぱりないからだ。

しかも、何か厳かな儀式をしたわけでもなく、崖がうだうだと愚痴っているのが少しめんどくさく思えて、「自由になりたいなら自由になればいいじゃない」とポロリと本音をこぼしたことで封印が解けるなんて、誰が想像できただろうか。


さらに、この本を読んでいて、大きな疑問が一つ湧いた。

黒悠之守こくゆうのもりは私を「あるじ」と呼ぶけれど、神様に「あるじ」と呼ばれていいの?というか、神様より上の存在ってなに?

わからないことばかりで戸惑う。


また、本には「封印解除は、有事を静める適正を持つ者が、心の底から黒悠之守こくゆうのもりに自由を与える祝詞のりとを唱えることで達成できる」って書いてあるんだけど・・・祝詞?と、一瞬笑ってしまった。


他にも黒悠之守こくゆうのもりができることが書かれていたりするのだけれど、それは忘れないように手帳に書き記しておく。


ふと蒼月さんを見ると、蒼月さんは何やら分厚い本を真剣に読み耽っている。

私がそんなに分厚いわけでもない本を1冊読む間に、蒼月さんは別の分厚い本を1冊読み終わったようで、傍にはまだ2冊が積んである。

「封印された九重ここのえ」というものと「市ノ街 事件帖」というものがまだ読んでいないもののようだ。読み終わったっぽいものは「大封印の儀式」と書かれている。


九重ここのえってなんだろう?封印された、って書いてあるからあやかしの一人かな?)


そんなことを思って、つい興味からその本に手を伸ばす。


「これ、ちょっと見てもいいですか?」


本に集中していて私の声が聞こえないのか、反応がないので、ちょっと見るくらいならいいかな?と思って本を手に取り、そっと開いたその瞬間、


「きゃ・・・・っ」


結界の中で突然、音もなく、何本ものいかずちのような光が走る。と、同時に、


「何をしている!」


鋭い声と共に、蒼月さんがその本を私の手から引き離した。その一瞬の出来事に私は呆気に取られて身動きができない。

そして、さらに、目の前にいる蒼月さんは、その本を抱えたまま、顔を歪めてうずくまり、結界の中なのに身体からパチパチと電気が弾けていた。


蒼月さんの呼吸は荒く、彼の肩が激しく上下しているのが見て取れる。

苦しさをこらえているような表情に、私はどうしていいかわからず、ただただそれを見ているしかできない。


「蒼月さん!大丈夫ですか!!」


声をかけても反応がない。意識がないわけではなく、反応ができない状態のように見える。


(どうしよう、どうしよう、どうしよう!!)


誰かに助けを求めたいけれど、いつも助けてくれる張本人が大変なことになっている・・・


怖い・・・どうしたらいいの・・・


怯えている場合じゃない、と自分を奮い立たせるが、足が震えて動かない。


何か、できることはないのか。

結界を強化すればよいのか。

いや、そんなことをして意味があるのか。

それともとりあえず試してみるべきか。


そうだ、司書さんを呼んでこよう!でも、蒼月さんを一人にして大丈夫だろうか?揺れる思考をなんとか押し込め、私は震える足を動かして立ち上がろうとした。


すると・・・


「待て・・・」


微かな声が聞こえて、慌てて蒼月さんを見る。


「蒼月さん・・・髪が・・・」


目の前の蒼月さんの髪は、みるみるうちに黒から銀へと染まり、まるで別人のように見える。


「大丈夫だ・・・少し、待っていろ。」


蒼月さんはそれだけ言うと、今度はぶつぶつと小さな声で何かを唱え始め、それが終わると一瞬だけ身体が強く光った後、身体にまとわり付いていた小さな雷は、シュウっという音と共に消えた。


それから少しの間、蒼月さんの荒い呼吸だけが結界の中に響く。


声をかけるにかけられず、じっと蒼月さんを見つめていると、呼吸は徐々に落ち着きを取り戻し、うずくまっていた蒼月さんはゆっくりと姿勢を元に戻す。


そして・・・


「はぁ・・・」


大きく息を吐くと、抱えていた本をテーブルの上にそっと置いた。


それを見て、私はおずおずと声をかける。


「すみません・・・むやみに触っちゃいけない本だったんですね・・・」


この騒動のきっかけを作ってしまった自覚があるので、心から謝罪をすると、


「いや・・・最初に説明しなかった私が悪い。」


そう言って顔を上げた蒼月さんは、


「禁書の間の本は、このように危険なものも多い。次からは私の返事を待ってから触るようにしてくれ。」


と言って、もう一度大きく息を吐くと、


「だが・・・結界の中でこういうことが起きた場合の検証ができたわけだし、まあ、よしとするか・・・」


と苦笑いをした。

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