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第123話 書庫での発見 -3-

質問をさらりと流した蒼月さんに、小雪さんはにやりと笑ってみせると、


黒悠之守こくゆうのもりについての文献は、禁書の間じゃ。入ってすぐ、右手の棚の上から三段目にある。」


と言った。しかし、その回答が予想外だったのか、蒼月さんは少し驚いた様子で小雪さんに聞き返す。


「なぜ禁書の間に?」


「自ら移動した。」


小雪さんのその言葉は、私には何を言っているのかさっぱり理解できないけれど、蒼月さんは「そうか・・・」とあっさり納得した。


(どういうこと!?)


首を傾げる私にはお構いなしで二人の会話は進む。


「あと、青い炎もしくは強力な狐火について書かれたものも探しているのだが・・・」


「青い炎か強力な狐火・・・どこかで見たが・・・ちょっと待っておれ。」


そう言って目を閉じて手を広げる小雪さんをじっと見つめる。

少しして小雪さんは目を開けると、


「こちらも禁書の間にあるぞえ。」


と言うと、ワンピースのポケットからメモ帳とペンを取り出して、本の在処らしきものを書き、蒼月さんに手渡した。

その仕草にふと違和感が生じるが、その正体が見えない。


「琴音を禁書の間に連れて行くが、良いか?」


「おぬしがおるなら問題なかろう。」


そんな会話を聞きながら、


(問題ってなんだろう・・・もう、この書庫、意味がわからないな・・・)


と、軽く洗礼を受けていると、


「すべて禁書の間にあるようなので、行くぞ。」


蒼月さんはそう言って、小雪さんに軽く挨拶をして部屋を出て行こうとする。

そんな蒼月さんを見て、私も慌てて小雪さんに軽く会釈をすると、蒼月さんの後を追う。

こうして私は、先ほどから頻繁に出てくる「禁書の間」といういかにもな名前の部屋に、有無を言わさず連行されることになった。


広間の入り口、開放された扉の前に戻ると、広間から玄関に向かって右側の廊下を進む。


「あの〜・・・禁書の間って・・・」


廊下を歩きながら前を行く蒼月さんに声をかけると、


「一般開放されていない、限られたもののみが入室を許可された間がある。」


はい、それはなんとなくわかります。そうではなく・・・


何やら会話が物騒だったと言おうとしたちょうどその時、広間の扉とは比べ物にならないほど頑丈そうな扉の部屋に到着した。




禁書の間のドアに手を掛けた蒼月さんの動きが、一瞬、止まり、その瞬間、彼が小さくため息をついたのを見逃さなかった。


「・・・中がやや騒々しいが、すべて無視でよいからな。」


彼の低く抑えた声に、何が起こるのだろうかという不安が胸をよぎるが、私はこくりと黙ってうなずく。

それを見て、蒼月さんはゆっくりと扉を開けた。




しかし、私が予想していた「騒々しさ」とは異なり、部屋の中からは何の音も聞こえてこない。


(・・・さっきのは一体?)


蒼月さんの後に続いて部屋に入るが、やはりそこには誰もいない。部屋の静寂が一層際立つように感じられ、私の耳には自分の心臓の音さえ聞こえる。

蒼月さんは躊躇なくドアを閉め、静かに周囲を見渡すと、淡々と本棚の方へ歩き始めた。


部屋の中は広間とは違い、薄暗い。窓はなく、数箇所に設置された行灯がほのかに揺らぎ、その灯りが古びた木の床や壁に踊るような影を落としている。その影は生きているかのように蠢き、まるで部屋全体が見えない力で息づいているかのようだ。


(これは・・・少し不気味な感じがするな・・・)


キョロキョロと辺りを見回していると、突然、どこからかささやき声が聞こえた。


(蒼月だ・・・)

(蒼月だ・・・)

(蒼月が来たぞ・・・)


思わずびっくりして身体が跳ねた。しかし、蒼月さんはまるで何事もないかのように、本棚の間を歩き、探している本を手際よく見つけていた。


女子おなごを連れておるぞ・・・)

(連れておるぞ・・・)

(人間か?)

(人間だ・・・)


不気味な声が、まるで風に乗って漂ってくるかのように次々と耳に入ってくる。姿のない声たちの主はまったく見えないが、その存在感だけはじわりじわりと空間に広がっている。


(子供だぞ・・・)

(子供だ・・・)


失礼な!子供じゃないし!

心の中で反論する。蒼月さんはまだ気にする様子もなく、無表情で本を探し続けている。


さっき騒々しいけれど無視しろ、と言ったのはこのことだろうなと、ようやく先ほどの蒼月さんの言葉に納得がいく。しかし、ささやきはさらに続く。


(こんな薄暗いところに女子おなごを連れ込むとは・・・)

(連れ込むとは・・・)

(蒼月も男だったんだな・・・)

(だな・・・)

(人間、何も知らずにこんなところまでついてきおって・・・)

(食われるぞ・・・)

(食われるぞ・・・)


なんというか・・・・鬱陶しい(笑)

そんなわけないでしょ、と思いつつ苦笑していると、


(しかし、蒼月は色恋にはもう興味がないと思っていたが・・・)

(思っていたが・・・)

(確かにな・・・)

(そんな欲が残っておるとは・・・さて、お手並み拝見・・・)

(お手並み拝見・・・)


と、とんでもないことを言い出した。すると、


「いい加減にしろ。うるさいぞ!こいつはただの弟子だ。」


呆れたような、うんざりしたような、そんな様子で蒼月さんが声を上げた。

その声は、低く鋭く、禁書の間に響いた。すると、声たちはピタリと止まり、再び静寂が戻る。


私が驚いて蒼月さんの方を見上げると、蒼月さんは淡々と本を抱え、無言のまま私の方へと振り返った。


「気にするな。あやつらはいつも騒々しい。おまけに下世話なのだ。」


彼の冷静な一言に、笑ってしまった。

静かな部屋に、再びあのささやき声が戻ってこないことを祈りながら、私は小さく頷いた。

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