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第11話 出会い -1-

古木の裏から伸びたくねくね道をたぬきに手を引かれて歩く。

あ、もうたぬきじゃないのか。


「ねえ・・・っていうか、君の本当の姿はどれなの?」


深緑のラフな着物にこげ茶の帯。腰には小さな袋をつけて、空いている方の手にはさっきのクッキーの袋を持った、ぱっと見は私より少し若く見える男の子。

小さな女の子の姿、たぬきの姿ときて今度はこれだ。

一体どれが本当の姿なのか、わかりゃしない。


フンフンと鼻歌を歌いながら私を引っ張るように歩く男の子にそう問いかけると、


「どれも俺。」


そう言ってイタズラっぽく笑う。


「そうじゃなくって!」


「だって俺が変化へんげしてるんだから、全部俺だろー?」


そういう話をしてるんじゃ、ない。


「あー、生まれた時の俺の姿を知りたいってことか。そんなん知ってどうすんだ?って思うけど、うまいお菓子もらったからな。教えてやるかー。」


立ち止まって振り返った男の子は、ポンッという音と煙と共に、またたぬきになった。


「これが生まれた時の俺。とーちゃんとかーちゃんもたぬき。家族揃っていたずら大好き。」


そういうと、すぐにまたポンッという音と煙と共に、男の子の姿に戻る。


「んで、これが普段生活してる時の俺。理由は特にないけど、人の姿の方が何かと便利だからな。」


なんでもないことみたいにさらっとそういった男の子は、


「そういえば、まだおまえの名前、聞いてないな。俺の名前は椿丸。いい名前だろ?」


大袈裟にパチンとウィンクして、私の答えを待っている。


陽気だな笑

本当に、この陽気さに助けられていると思う。


「私の名前は・・・・」


名前を言いかけて、ふと真実の名を知られると支配されるという類の妖怪話を思い出した。


「えっと・・・」


でも、今この子、自分の名前を名乗ったよな?と思い出し、恐る恐る名乗ってみる。


「私の名前は、琴音。楽器の琴に音という字で琴音。」


ドキドキしながら名前を告げると、


「へ〜、琴音か。そっちもいい名前だな!」


それだけ言ってまた歩き出した。


拍子抜けしてポカンと口が開く。

そんな私にお構いなしで、グイグイと手を引いて進んでいく椿丸くん。


「ねえ!妖怪に名前を知られたら支配されちゃう、みたいなことってないの?今、私、自分の名前を名乗るのに、すっごく勇気がいったんだから!!」


引っ張られながら文句を言うと、


「アホか。古い話の読み過ぎだ。」


バッサリ切り捨てられる。


「アホかってなによー!」


ついさっき知り合ったのに、前から友達みたいな空気を感じる。


「あー、でも、似たような話はあるかもなー。」


ちらりと振り返って椿丸くんが笑う。


「この世界では、婚姻の契りを結ぶ時まで、誰にも知られてはならない真名と呼ばれるものがある。」


なにそれ、ちょっと興味深い。


「婚姻が支配だとしたら、琴音のいうことも甚だ作り話じゃないかもなー笑」


人間の男の子と同じこと言ってるな、と二次会で新郎の友人が言っていたことを思い出して笑えてくる。

笑いながらも、その真名の話に興味があって、その話詳しく!と言おうとしたその時、


「椿丸〜!!」


どこからか女の人の叫び声が聞こえてきて、その瞬間、彼は私の手をぱっと離した。

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