第118話 不穏な予感 -6-
今までの事件を時系列に並べ、キーワードになる事象を書き加えていく。
さらにはそこに、書庫で調べたいことを追記していく。
「青い炎の柱はもちろんなんだけど・・・黒悠之守さんが言っていたことも調べられたらいいんだけどなあ・・・」
あれから黒悠之守さんとは会話できていないので、「未来に起こる有事」について何も知らないままなのだ。そのヒントになるようなことがないか、調べてみたいと思った私は、忘れないようにそれについても追記する。
それはそうと・・・こちらに来てからもう48日が経過したのか・・・
手帳の日記を振り返るとなかなか波瀾万丈な毎日で、ルーチンワークをこなすだけの毎日だ、とため息をついていたことが嘘のようだ。
(みんな、元気かな・・・)
こちらにきてからの日数を数えるたびに、毎回同じことが頭に浮かぶ。
(いつか人間界に帰ることができたら、この体験をもとに小説でも書いてみようかな。)
そんなことを考えながら再び手帳に目を落とし、今後のプランについての検討を再開する。
そんな中、いつの間にかうつらうつらしていると、時報せさんのお昼の時報が聞こえてきた。
(もうお昼か・・・)
運動も何もしていないのでお腹はあまり空いていないけれど、ノロノロと食堂に向かうと、蒼月さんがすでに席に着いていた。
「あ、おはようございます。」
蒼月さんと小鞠さんに挨拶をして、自分も席に着く。
いつもは朝からシャキッとしている蒼月さんが、今日はなんとなくぼーっとしているように見えて、少しかわいいなんて思ってしまう。
「ぐっすり眠れましたか?」
「んー・・・そうだな・・・寝たことは寝たのだが・・・」
そう言ってあくびをした蒼月さんは、失礼、と言った後、
「疲れが取れぬ・・・」
と、目をこする。すると、ちょうど大皿を運んできた小鞠さんが、
「おぬしにしてはめずらしいのう。」
と、少し心配そうな顔で蒼月さんの顔を覗き込むと、
「犯人の残した妖力を追うのに、俺もかなりの妖力を使ったからな・・・」
蒼月さんがポツリと言ったその言葉に、私は思わず反応した。
(俺って言った!!!)
いつも「私」呼びの蒼月さんの突然の「俺」呼びは衝撃的だ。おそらく、それだけ弱っているということなのかもしれない。
すると、小鞠さんが納得したような顔で続けた。
「ほう・・・それで焔もいないのじゃな。ここまでおぬしに妖力を使わせる相手もめずらしいのう。」
納得した感満載の小鞠さんに対し、私には何が何だかわからない。すると、小鞠さんはそんな私に気づいて、補足をしてくれた。
「焔は蒼月の使い魔じゃて、本体が疲弊しておるときは焔も休息が必要なのじゃ。」
なるほど。そういう事か。あれ?そこまで疲れているという事なら、あれが役に立つのでは?と思い、おもむろに口を開く。
蒼月さんがどう反応するか分からないけれど、何とかして少しでも彼を助けたいという思いで、ほんの少し勇気を振り絞った。
「あの〜・・・疲れが取れないという事であれば・・・一つ試してみてほしいことがあるのですが・・・」
ご飯をゆっくりと口に運びながら、黙ったまま何事だ?という視線を向ける蒼月さんに、
「私、毎日結構厳しい鍛錬をしているにしては、元気だと思いませんか?」
遠回しな私の物言いを、不思議そうに二人が見つめる。
「実は・・・秘密兵器があるんです。それ、後で試してみませんか?」
静寂と癒しの結界のウォーターベッドバージョン。あれを使えば蒼月さんの疲れなんてすぐに吹き飛ぶに違いない。
そう思った私は、相変わらず不思議そうに私を見つめる二人に、詳細を説明した。
話し終えると、箸を置いた蒼月さんが、興味深そうな顔をして、
「それはぜひ試させてもらいたい。」
と言ったので、まずは昼食を済ませた私たちは、そのまま居間へと移動した。




