第109話 新たな絆の形成 -12-
どうしよう・・・
そんなことをゆっくりと考える間もなく、三人がジリジリと近づいてくる。
自分の中で沸き上がる不安を抑え込みつつ、今出来ることを考える。
(あ、そうだ!)
とりあえず今の私ができる唯一かつ最大限の防御、静寂と癒しの結界を張る。
思った通り、彼らは外からあれこれやってみているけれど、中にいる私には一向に響かない。
安全が確保できたのは確認できたので、あとはゆっくり何をすべきか考えることにする。
外からの音が完璧に遮断されるのも非常にありがたい。目を閉じてしまえば何も見えないし聞こえないので、恐怖に縛られずゆっくりと考えを巡らせることができるようになる。
そして、蒼月さんのお屋敷にきてからは瞑想の鍛錬もたっぷりしたので、集中することにも慣れた。
今まで習ったことの中から今使えそうなことを考えるものの、やはり攻撃ができないことには、ここでじっとしているか隙を見て逃げるかしかない。
「どうしようかなあ・・・」
ふと、悪者たちが静寂と癒しの結界に向けてあれこれやっていたのを思い出して、輝夜石のことを思い出した。
ペンダントとは別に、帯に挟んで携帯していた巾着袋から輝夜石を取り出し、左手でそっと握り、意識を集中する。
(あ・・・見えてきた・・・)
またもやキャビネットの映像が浮かんできて、3つの引き出しが光っているのが見える。
(さて・・・なんと書いてあるのやら・・・)
ゆっくりと1つ目から確認していく。
土蜘蛛、絶縛鋼糸、7
土蜘蛛、闇糸縛鎖、5
餓鬼、夢魘幻術、2
唐傘小僧、風影傘舞、3
(なんか、みんな技の名前かっこいいな・・・)
個体の名前がわからないと、あやかしの種類で書かれるらしい。
さらに、技の名前が厨二病っぽくて、思わず笑ってしまう。キャビネには名前しか書かれていないから内容は想像するしかないのが残念だ・・・
そんなことを考えながら見ていたら、端っこに「i」という文字が丸囲みされたものを見つけた。
(こ、これは・・・)
このビジョンが私の概念から成っているものなのであれば、もしかしなくても「詳細」の説明書だろう。
試しに一番想像しにくい「夢魘幻術」の「i」を見てみる。
『説明:餓鬼が相手に悪夢を送り込む強力な幻術。相手の心の中に入り込み、最も恐れていることや心の弱みを映し出す幻影を見せ、精神的に追い詰める技。悪夢の中では、時間が引き延ばされるため、現実の数分が何時間にも感じられる。
技の効果:夢の中で恐怖や苦痛を味わい続けることで、相手は精神的に疲弊し、現実の動きにも鈍さが生じる。』
(こっわっ!)
こんな恐ろしい技を使うのはどの妖怪だ?と、思わず目を開けて結界の外を見る。
「あれ・・・?」
しかし、私が自分の世界に入っている間に、悪そうな三人のあやかしは静寂と癒しの結界に埋もれてスヤスヤと眠っていて、おじいさんは何事かを叫びながら眠っている三人を杖でバシバシと叩いていた。
そんな様子を結界の中から呆気に取られて見ていると、私が目を開けたことに気づいたのか、おじいさんが怒った顔で私に向かって何事かを叫んだ。
ものすごく怒ってらっしゃるところ申し訳ないんだけど、何を言ってるかまったく聞こえないので、とりあえず口の動きを読もうとしてみるのだけれど・・・
そんな私の態度にますます腹を立てたのか、おじいさんは目を閉じて何かを唱えると、杖で地面を思いきり突いた。
その瞬間、杖を突いたところから地割れが発生して、私が張っている結界の下を通り、後方まで地割れが伸びていった。
「・・・・」
とりあえず整理しよう。
驚きの目でこちらを見るおじいさんのことは一旦忘れて、再び目を閉じる。
もう一つ増えたキャビネットに書かれているのは・・・
山爺、地砕拳、1。
なるほど、おじいさんの妖怪種別と今地面を砕こうとしているということだけはわかった。続けて詳細を確認すると、『大地の力を借りて繰り出す拳撃。地面に衝撃を与えると同時に地面が砕け、その衝撃で敵を吹き飛ばす。地面にひびが入り、周囲にいる者は立っているだけで震えるほどの力強さを感じる。』と書かれていて、静寂と癒しの結界の中にいなかったらやばかったな、と少し背筋が寒くなった。
目を開けて下を見ると、確かに地面は裂けていて、これはこの結界についての新しい発見なのだけれど、地面に接する部分もきちんと結界で覆われているっぽいのだ。確かになんの衝撃も感じないということはそういうことなのだろうけれど、今まで地面については気にしたことがなかったので気づかなかった。
それにしてもどうしよう。ものすごく怒っていて、怖い。
この静寂と癒しの結界は最強なのだけれど、攻撃ができないのでどうにもならない。
前々から分かってはいたことだけれど、怒り狂うおじいさんを見ながら、どうしたものかと頭を抱えてしまう。
(はあ・・・困ったなあ・・・・ずっとここにいるわけにもいかないし、日が沈むまでには番所に戻りたいんだけどなあ・・・)
途方に暮れて空を見上げた私は、
(蒼月さあーーーーーーん!こんな時はどうしたらいいんですか〜〜〜?)
聞こえるはずはないけれど、そう叫んでみた。
すると、顔を真っ赤にして怒っていたおじいさんがガクリと膝から崩れ落ちたので、びっくりしてそちらに目を向けると、蒼月さんが光る糸のようなものでおじいさんと悪者3人をあっという間に絡め取っているのが見えた。
 




