第105話 新たな絆の形成 -8-
お団子を待つ間、二人とも何も話さず、ただ静かに縁台に座っていた。
私はというと、ようやく座れたことで足の疲れが一気に和らいでいくのを感じながら、頬を撫でていく風を感じている。
少しして影葉茶とお団子が運ばれてきた。
「はい。お嬢さんは紫晶団子で、蒼月さんはエンシン団子ね。どうぞ、ごゆっくり〜。」
女将さんはそう言って、お店の中に入って行った。
「エンシン団子」と呼ばれたものは、入り口の台の上にはなかったはず・・・
そう思って見てみると、見かけは普通の白いお団子だ。
「エンシン、ってどういう意味ですか?」
謎すぎて聞いてみると、蒼月さんが説明してくれる。
「炎の心と書く。その名の通り、周りはひんやりと冷たいが、中心の餡は温かいんだ。火の妖術を使うものはこの団子が好きな者が多いらしいぞ。」
そう言って炎心団子を一口食べると、蒼月さんは少し嬉しそうな顔をした。
(ふふ・・・かわいい。)
この前の鬼だんごもそうだったけれど、蒼月さんは意外と甘いものが好きみたいで、番所への差し入れも甘いものが多い気がする。
ふふふ、と微笑みながら、私も紫晶団子を一口食べる。紫芋と黒ゴマの深い甘みがあり、しっかりとしたコクのある味でとても美味しい。
「美味しい・・・なんだか疲れが取れていくみたい〜。」
影葉茶とも相性がよく、2本のうち1本をペロリと平らげてしまった。
「気に入ったみたいでなによりだな。」
そう言って、蒼月さんも2本目のお団子を口に運ぶ。
「そういえば・・・私、こちらの世界に来てから外で何かを食べたの、初めてかも・・・」
夜市で差し入れで飲み物はもらったけれど、途中でだるま事件が起きてしまったこともあり、食べ物は食べていない。
「ふふ・・・なんだか嬉しいです。」
今度は私が2本目のお団子を口に運びながらそう言うと、
「そうか・・・こちらの世界には他にも美味いものを出す店がたくさんあるから、これからも見回りについてくるのであれば、少しずつ連れて行ってやろう。」
蒼月さんからのそんな思いもよらない言葉を聞いて、少なからず好意を持ってくれてるのではないかと勘違いしてしまう。
だって・・・嫌いな人や苦手な人とは何かを食べに行ったりしないよね?ましてや、誘うなんてもちろんしない・・・よね?
それがたとえば最大限に自惚れて「好意」だったとして、もちろん「特別な好意」ではないことは分かっているけれど・・・興味のない奴、から、食事を共にしてもいいくらいの知り合い、に昇格できているなら、こんなに嬉しいことはない。
そう思ったら顔がにやけてしまいそうで、一生懸命引き締める。
「お邪魔じゃないですか?今日だって、明らかにいつもより時間がかかってます・・・よね?」
勘違いして後々ショックを受けないように、慎重に言葉を選ぶ。
「いや?いつも単独行動だからな。たまには誰かとこうして話をしながら普通に見回るのも悪くないな、と思った。」
普通に見回る?その言葉が少し引っかかり、聞き直そうとしたけれど、それとほぼ同時に、
「そういえば・・・足の痛みはどうだ?」
と突然聞かれ、
「・・・気づいてました?」
(気づいてる素振りなんてまったく見せなかったくせに、気づいてたかあ・・・)
お団子の効果なのか、足の疲れはだいぶ取れた気はするものの、草履で擦れた部分はまだヒリヒリしている。
もしかしたら、私の足の痛みに気づいて休憩を取ってくれたのかもと思ったら、申し訳ない気持ちになった。
やや気まずい感じで蒼月さんを見ると、
「一生懸命隠したそうにしていたから言わずにおいたが・・・・まだ見回りも半分あるからな。どれ、見せてみろ。」
そう言われて一瞬、驚いた。
見せてみろって、どういうこと? と思う間もなく、蒼月さんは私の身体を自分の方に向けると、左足首を掴み草履を脱がせ、そのまま膝の上に私の足を乗せた。
「えっ・・・!」
驚きと共に身を引こうとした瞬間、蒼月さんの真剣な顔が目に入る。私がこんなに驚いているにも関わらず、対して蒼月さんはまったく動じておらず、今にも足袋を脱がせようとしている。その冷静さに逆に動けなくなってしまう。
(なに、この状況……)
不意に触れられたことで、心臓がドキドキと激しく鼓動を打つ。けれど、蒼月さんはあくまでも冷静で、動揺しているのは私だけだし、何が問題だ?とすら言いそうな顔で私を見ている。
そうなると、動揺している私が考えすぎに思えてきて、ほんの少しの違和感を覚えながらも、私は身を任せるしかなかった。




