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第104話 新たな絆の形成 -7-

お散歩とは言っていたものの、実際に同行してみると、想像していたお散歩とは違っていた。


市ノ街は南北を繋ぐ大通りを挟んで東西に大きく2つの区画に分けられていて、さらにその中に幾つかの区画がある。

蒼月さんはそのすべての区画をくまなく「散歩」しているようなのだ。


午前中は東側、午後は西側、もしくはその逆など、見回る順番はその日によって違うそうだけど、なんだかんだ市ノ街全体を見回っているのだ。


「この広さをあの時間までに見て回れてるんですね・・・」


あの時間というのは、番所で授業が終わってのんびりお茶を飲んでいる夕映ゆうばえの刻(16時くらい)のことだ。

今日は東側から見回っていて、まだ西側には足すら踏み入れていないのに、足が疲れた・・・。

草履で歩いているからというのもあるのだろうけれど、まだ見回りを始めてから二時間ちょっとくらいしか経っていないというのに、だ。


(さすがに蒼月さんは全然疲れていなそうだな・・・)


涼しい顔で横を歩く蒼月さんをチラリと見上げる。

鍛錬の一つだと言われていることもあり、疲れていると悟られないようにしているものの、気持ちとは裏腹に足が痛い。


「そういえば・・・次の角を曲がったところに団子屋があるが、団子は好きか?」


私の視線に気づいた蒼月さんが、突然そんなことを言い出した。


「お団子!はい!大好きです!」


まさかの提案に、思わず二つ返事で答えると、


「そうか。では、少し休んでいこう。」


そう言って、お団子屋さんに連れて行ってくれた。


市ノ街の一角にある、少し古びた木造の店「狸印たぬきじるし 月見団子屋」。

暖簾には「狸」と大きな文字が染められ、風に揺れている。お店の前には石灯籠と2台の赤い布のかかった縁台が並んでいる。

かすかに甘い蜜と焼けた餅の香りが漂い、店の窓からは香ばしい煙がくすぶっている。


入り口にある台には、私の知っている団子とは違う不思議な姿の団子がいくつも並んでいて、見た目からはまったく味が想像できない。

透明なお団子、紫色のお団子、夜のみと書かれた銀色に光るお団子の横に薄緑のお団子がある。これはなんとなくよもぎっぽくて少し親近感を感じる。

そんな感じで私が興味深げにお団子を見ていると、お店の中から誰かが出てきた。


「さあ、どうぞ・・・って、蒼月さんじゃないですか!嬉しいわあ。」


そう言って蒼月さんに近寄って行ったのは、これまた美人さんだ。

蒼月さんより少し若く見える女の人で、愛らしく少し垂れた瞳に黒髪を綺麗に結い上げて、綺麗な刺繍がたくさん入った赤い着物を着ている。


「ああ、女将おかみ。確かに店に寄るのは久しぶりだな。」


会話から、彼女はこのお店の女将さんで、二人が顔見知りだというのがわかる。

その女の人はお団子を見ている私に気づくと、


「あらあ・・・今日は随分とかわいらしい人間さん連れて・・・こんにちは。」


とにっこりと挨拶をしてくれた。私も慌てて頭を下げる。


「こんにちは。美味しそうなお団子がたくさんあって迷っちゃいますね。」


すると、女将さんは並んだお団子について味や効能を説明してくれた。

聞けば聞くほどあやかしの世界独特のお団子ばかりで迷ってしまう。


「どれも食べてみたくて迷っちゃう・・・」


まったく決められる気配のない私に、女将さんが味の好みなんかを聞いてオススメしてくれたのは「紫晶ししょう団子」で、それは見た目は濃い紫色で、表面には細かいキラキラとした粒子がまぶしてあり、まるで宝石のように光を反射する団子だ。

食べると体に力がみなぎり、疲れが取れるらしいと聞いて、今の私にピッタリだと即決した。それから、


「蒼月さんはいつものでいいのかしら?」


女将さんは蒼月さんにそう問いかけると、うなずく蒼月さんを確認して店の中に入って行った。

私たちも続いて店の中に入るのかと思っていたら、蒼月さんは外の縁台を選んだ。

天気もいいし、確かに外で食べた方が気持ちが良さそうなので、私も後に続いて腰をかける。


「いつもの、っていうくらい来てるんですね。」


常連さんなのかと思ってそう尋ねると、蒼月さんは短くうなずき、


「昔はよく来ていたが・・・」


それ以上は何も言わず、少し遠くを見つめながら何かを思い出して懐かしんでいるような、寂しがっているような、なんとも言えない表情をしていたので、私はそれ以上声をかけることができなかった。

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