第100話 新たな絆の形成 -3-
なんなの、なんなの、なんなの〜〜〜!?
蒼月さんにあんな破壊的な笑顔を見せられて、ドキドキが止まらない。
弟子入りしてから確かに壁が少し低くなったのは感じてたし、嬉しかったけれど、フッて笑う顔しか見たことがなかったから、今日の笑顔は本当に不意打ちで衝撃的だった。
それにしても、私も私だ。
なんで逢引きなんて言ってしまったのか・・・
今まで何かに誘われたことなんてなかったので、一緒にお出かけ!嬉しい!と舞い上がったのは仕方ない。
だけど、よりによってなんであんなこと・・・
今日は笑ってくれたから救われたけど、もし、前の蒼月さんみたいに、無反応だったり呆れられてたら、いたたまれないにも程がある。
「あ〜〜!恥ずかしい〜〜!」
部屋に戻って畳に置かれたクッション(小鞠さんに作ってもらった)に顔を埋めて足をばたつかせながら、顔の火照りがおさまるのを待つ。
こちらのお屋敷でお世話になり始めてからは特に、師匠と弟子であることを意識して、好意がダダ漏れにならないように気を付けていたのだけれど・・・
「も〜〜〜。私のばか〜!」
自己嫌悪だけが次から次へと湧いてくる。そんな中、入浴の時間を知らせるアラームが室内に響いた。
カポ〜ン。チョロチョロチョロ・・・。
時報せさんのアラームはとても多彩で、こんな音を流して欲しいとお願いすると、大抵のことは叶えてくれる。
このお風呂の時間お知らせアラームは、私が実際湯浴み処で出した音を使って再現してくれているのだ。桶の響く音、湯船にお湯が流れ込む音、お風呂から上がる時のザバァという音も流してくれる。
そんなアラームを、夕闇の刻開始後30分(つまり18:30頃)したら鳴らしてもらっている。
夕方の蒼月さんとの鍛錬後、蒼月さんが湯浴みを終えるのが大体この時間だからだ。
さて、そんなこんなで湯浴みを済ませてすっきりとした頭と身体で食堂に向かおうと湯浴み処を出たところで、蒼月さんと鉢合わせた。
当たり前だけど、同じ香りがしてドキドキしてしまう。
(せっかく頭冷やしたのに・・・)
けれど・・・
「今日の夕飯はなんですかね!お腹ぺこぺこです!」
と、さっきの話には触れず、かつ、動揺を見せないように無邪気に振る舞ってそう言うと、蒼月さんも食堂に目を向ける。
「何であろう、この香り・・・先日、おまえが小鞠殿に伝えていた・・・」
「ああ、ハンバーグですね!確かにこの匂いは多分それです。」
そんな会話をしながら二人で食堂に入ると、箸を一本ずつ両手に持ってウキウキと椅子の上で身体を揺らしている焔くんと目が合った。
そう、実は、小鞠さんから人間界で食べているものを教えて欲しいと言われ、数日にわたっていくつか紹介したものの一つがハンバーグだった。
材料が比較的簡単に手に入るので選んだのだけれど、思いの外みんなが気に入ってくれて、今日で3回目の登場だ。
「おいら、ハンバーグ大好き!琴音には感謝だな!」
そう言ってさらに身体を揺らす焔くんを、蒼月さんが、
「こら、焔。行儀が悪いぞ。」
と嗜める。
そう言われて、はぁーい、と言いながら箸を置いて座り直した焔くんを見て、親子みたいだなと微笑ましい気持ちになる。
それぞれの席に着き、いつもの通り主に小鞠さんと焔くんが話題を提供しながら食事が進む。
そして、食事も終盤を迎えたその時、蒼月さんが焔くんに言った。
「ああ、そうだ、焔。明日は朝餉の後二人で番所に出向くゆえ、朝餉以降の鍛錬は中止にしてくれ。」
「承知しました。明日は琴音と外出ってことですね。」
「いや、外出というか・・・」
そんな二人の会話に、小鞠さんが割って入る。
「そうか。逢引きか。」
その危険なワードに、飲んでいたお茶を吹き出しそうになる。
「逢引き・・・?」
焔くんがその言葉を繰り返すと、部屋の空気が一変した。
驚きを隠せない、という様子で目を見開いて蒼月さんをみる焔くんの視線を受けて、蒼月さんが少し困ったように眉を寄せて、
「・・・一つ聞いておきたいのだが・・・なんでも逢引きにするのが流行っているのか?」
と、今「逢引き」と発言した張本人の小鞠さんや焔くんではなく、私を見て言った。
「え!私!?今のは小鞠さんと焔くんの発言では・・・!?」
慌てて手を振りながらそう言った私を見た小鞠さんは、
「なんだ、やはり逢引きか。」
と、なぜかニヤニヤした顔で私と蒼月さんを交互に見ている。そして、それを見た焔くんまで、
「そうですか。逢引きですか・・・」
と同じようにニヤニヤして私たちを見る。
なんなの、この状況・・・小学生並みのこの状況にどう反応したらいいかわからず、
「いや!蒼月さんの見回りにお供させていただくだけです!」
となんの面白い返しもできないまま事実だけを告げると、
「ほう・・・」
と、小鞠さんが右眉を上げて予想外の反応を見せた。すると、それを見た蒼月さんが、
「鍛錬の一つだ。他意はない。」
といつもの調子で添えたけれど、
「ほう・・・」
再びニヤニヤと私たちを見た小鞠さんは、
「まあ、楽しんでくるがよい。打ち解けたようでなによりじゃ。」
とニヤニヤしたまま、お茶を淹れるために席を立った。




