二、腹黒悪女志願令嬢、王城への道中
【輝ける野望の末路】
私は痺れを切らし、腸が煮えくり返っています。
ですがそれを表には出さず、ただ冷気をまとった笑顔を貫いています。近づく奴は誰であろうと射殺してやる。
憂鬱なダンスパーティー(強制参加)に無理やり連れて行かれる羽目になりました。この世の終わりです。呪って憎んで恨んで、思い切り愚痴りたい。
こんなことなら過去に飛びたい……箱があるならそこに閉じこもりたぁい。もしくは箱に不満をぶつけたい。
今私はお人形さんのように、いいようにドレスを着せられてしまっています。フリルと薄ピンク、そしてパールが贅沢にあしらわれている。ふんわりすべすべ仕立て。無駄にごたごた飾りつけられてないから幾分マシとはいえ、子供っぽいかも。デザインは私を引き立てるようにした……って言いたそう。
家で着せ替え人形扱いされ、最悪だった。私は道具じゃありません。
莫迦兄は二人して、天使みたいとほざき挙げ句に王子に見せつけたいとかなんとか。自慢の妹だから可愛がってやってね、とでも言いたいんでしょうか。結局は私を利用して、王子とくっつけたいだけなのね。本当愚かしいにも程があるでしょう。気が散る、あっちに行きなさい!
助けてほしいなぁ。誰かにこの忌まわしき腕輪を壊してもらえたら、魔法も存分に使えて……いくらでも抗いようがあるのだけど。私は最上級の最終兵器を封じられてどうしようもない。
現在、立派な馬車で私が独り、運ばれています。私ってなんなのでしょう。心細いわ……。
不安感に溜息がもれます。外はすっかり夕暮れ。夜を迎えようとしています。日よ、もっとゆっくり沈んで! 勝手だけど! 結婚発表という名の、束縛の口実から私を遠ざけて! その時間から一刻も早く逃げだしたいの。
……馬車なんていつぶりかしら。外へ出るのも懐かしい気がする。でもその先に私を待つ友達はいない。こんな気持ちで外になんか来たくはなかった。
にしても揺れ過ぎて酔いそうだわ、この馬車。オンボロな気がするんだけど。居心地最低。
それだけじゃありません。馬車は軽薄そうな男が操っていました。まさか日雇いバイトなのかな、この感じは。
……さては、高級で見栄えのいいオーダーメイドのドレスにこだわって、大金をはたいてその他は金をケチったのね。
たぶん中古かレンタルの馬車ね、これ。雇われてる人も貧しそうだし、表情が険しいのが分かる。私だけ場違い感否めないわ。
うわー、屈辱だわー。遠回しに私を莫迦にしてるんだわ。ダンスパーティーに私を連れていければそれ以外どうでもいいってこと!?
そんな怒りを必死に堪え、私はただ王城到着まで揺れる馬車に身を任せるのみでした。
さて、完全に日が落ちました。そろそろ着く頃合い。確実に王城に近づいてきています。つまり生き地獄とも言える瞬間が間近に迫っているという訳でもあります。
救世主よ! どうか哀れな私をお救いください! 死のうにも死ねない悪夢の腕輪から開放して! この絶望的状況を変えるチャンスをください、お願いします。
そんな道の途中、私は馬車の窓からこんこんと音がしたのできょろきょろと見回しました。
そうしたら、奇跡が起こったのです。念が天へと通じたのか、異界の使者とでも呼べる存在が現れました……といっても。
手のひらサイズでしたけど。赤いコウモリの羽、ミケネコの体に、悪魔のような先が尖った尻尾。あら可愛い。なんの用かな?? つぶらな目のその子はすぐに姿を消し、見えなくなってしまいました。
でも期待して窓を覗き込んでいたら、ブレーキがかかったように急に馬車が止まりました。お、これはわくわくする。待ちに待った奇跡の予感。
……と思ったのも束の間でした。
なんてこったい! と思わず叫びました。暗い夜の森の道中、怪しげな集団に囲まれてしまったのです。もう察した……安全ルートじゃないってことは、日雇いさんはただ王城へ行けって頼まれただけなのね。はぁーーーーーーーーなんたる不運。誰かしっかり者がいればいいのに!! 私の周りにはまともな人間などいないの? バイトに任せちゃったせいよ、全て向こうの自業自得じゃありませんの!?
止まった馬車から早く逃げ出そうと、扉を思い切りけたぐって外へ。
集団はどうやら私を狙っているようね。視線がやらしいわ。しかも短刀を持ってるし物騒。今こそ、護身の魔法が役立つときなのに。なぜ。
「おぉ綺麗な嬢ちゃんだな」
「王子への捧げ物ってのはアンタかい?」
「その馬車に乗せられたが為に俺たちに見つかっちまった。諦めな」
え?? どういうこと?? この状況を誰でもいいから説明しなさい!
「さ、ベック。ご苦労だった、これは報酬だ。あとこれは口止め料だ、受け取れ」
つ、ま、り。
日雇いめーー! お前もグルだったのか!! 嬉しそうに賄賂を受け取ってトンズラとか許さない! 警備緩すぎとは思いましたけど、こんなことありますか??
そう思ったけどね、逃げ足の早いバイトのベックとかいう若者はその場から既に去っていました。
とにかくここに私を誘導したってことは、間違いないようね。
「嬢ちゃんはお金、持ってるかい? 持ってたら根こそぎ俺らが頂く」
「無いっていうんならしょうがねぇ、そのお高いドレスを剥ぎ取って売っ払わせてもらうぜ」
ぎゃぁぁーーーーー!! なんてこと! 酷い、酷すぎるわ、痛い目確定じゃない。内でも外でも、世界は危ない人だらけなの?
さっきの激かわ生物は私の現実逃避の幻想!? 所詮儚い夢物語だったというの!
くぅっ、どこもかしこも大莫迦揃い。私の意志とは関係なく物事を進めたせいよ……とりあえず運良くパーティー回避できたけど、こっちはこっちで絶対絶命大ピンチ!
奥の手は…………。うーーん…………(悩んでる場合じゃないのにぃ!)
もう、これしか無いわ!!
白旗よ! 降参、しまーす…………。(逃げたいけど、このヒールじゃ走れないし)
護る力はおろか護ってくれる人すらいないなんて、私もその程度ってことなのかな…………。
膝を折り、私は拳を握り込み、地を見るだけでした。でも、頭だけはこんな奴らには下げない。
しぶとく、切り抜けたらいいけれど。まあ、なんとかなるよね!! きっと……恐らく。
前言撤回、やっぱり無理だわ。今の私に為す術などないもの。
だとしても出来る限り最善の選択をしていかないと。時間の許す限り、策を練らなきゃ……下手すれば命を捨てることに。冷静さを欠かず、諦めなければ必ず勝機は来るはず……。
……大変なことに巻き込まれちゃったみたいね。もう最後の手段はお祈りくらい。流れに運命を委ねます……希望が訪れますよーに!!