女友達に嫉妬した元カノがいろいろ訴えかけてくる話
『僕は学校一の美少女と今日も言い争う』というお話の後日談です。この短編読むのにそれ読んでなくても問題ないです。
「碧斗くん! 一緒にお昼たべよ!」
昼休みが始まりすぐ、この女――春野鈴香はやってきた。
「いやだ」
「えー! なんで!?」
「君といると本が読めない」
「いいじゃん読めなくて」
「よくない」
鈴香は頬を膨らませる。そんな顔したって、僕は昼休みを読書に費やしたいんだ。君はずっと喋るじゃないか。
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
僕らの友達である天音が仲裁に入る。
「碧斗くん、一緒に食べてあげてもいいんじゃない? ほら、まだ仲直りして日が浅いし、絆を深めるってことで」
「……もう仲直りはした。それ以上はなにもないよ」
僕――仁藤碧斗と春野鈴香の関係は少々複雑だ。まず、僕と鈴香は同じ中学であり、恋人同士だった。しかし2年前、僕が海外に引っ越すことをきっかけに大喧嘩。僕は恋人という関係を解消して海外に行き、高校入学のタイミングで帰国した。海外にいる間色々あって、あの喧嘩の非は自分にあると認めた僕は、この前鈴香に謝った。それで、仲直りはしたんだけど、僕はそれ以上を求めていない。また恋人同士に戻りたいなんて、これっぽっちも思っていないね。ああ、ほんとうだとも。
「……今日だけだからな」
「やった!」
鈴香は嬉しそうに席に着いた。それから、僕と鈴香と天音の3人で弁当を広げる。ちなみに、天音も僕らと同じ中学だ。中学のころも高校に入ってからもかなり世話になって、結構感謝してる。
とそこで、一人の女子がやってくる。
「ねぇあおとー。今日あおとの好きな作家の新作発売日でしょ? 私も買いたいやつあるからさぁ、放課後一緒にいかない?」
彼女の名前は三雲奈由。友達と呼べるものが少ない僕であるが、奈由とはかなり気が合い、結構話をする。
「いいよ。僕も行くつもりだったし」
「じゃあ決まりね〜。また放課後に」
そう言って奈由は自分の席へと戻っていった。お弁当を食べようと視線を元に戻すと、向かいに座っている鈴香と目があった。鈴香はじっとこちらを見ている。そして、静かに口を開いた。
「……碧斗くん、あの子と仲いいの? 一緒に買い物に行くくらい。それに、呼び捨て、だったけど」
「……まあ、気があうから」
「へぇ……」
鈴香の機嫌が目に見えて悪くなっていくので天音に助けを求めるが、困ったように笑うだけ。自分でなんとかしろとでも言うように。
「……碧斗くん」
「なに?」
「……今日の放課後、私もついて行っていい?」
「まあ、奈由が良いって言ったら……」
「行くっ! 絶対ついてくからね!」
そう言って鈴香は弁当を片付け、自分のクラスに戻っていった。
「あんまり鈴香の機嫌悪くしないでよ? 迷惑被るのは私なんだから」
「……善処する」
残った僕と天音は、そんなことを言うのだった。
◆
「春野鈴香です! よろしくね!」
「三雲奈由。よろしくね」
放課後、奈由にことの次第を話すと構わないと言ってくれたので、鈴香を連れてきた。僕らは近くのショッピングモールにある本屋に向かう。鈴香と奈由は初対面だけれども、仲良く会話している。鈴香は知らない人に質問しまくる性質がある。相手のことをよく知りたいのだろう。誰とでも仲良くなれる所以だ。
「あおとー、この本読んでよ」
本屋につき目的のものを買ったところで、奈由が一冊の本を差し出す。
「くれるの?」
「うん、おごり。終わったら感想聞かして〜」
「了解」
「じゃあ私は帰るね。あとは二人でごゆっくり」
変な気をまわしたのか、そそくさと退散する奈由。僕と鈴香だけが残される。といっても、二人でいてもとくにやることもないし、帰ろうかと思っていた時、鈴香が口を開いた。
「ねぇ、あ、あお……」
「?」
「……あおと! 暇だし、ゲーセンにでも行かない?」
「なんで呼び捨てなの?」
「べ、別にいいじゃん呼び捨てで呼んでも! 奈由ちゃんはいいのに私はダメなの⁉︎」
「いや別にいいけど」
「……それで、ゲーセンは?」
正直、ゲーセンはうるさくてあんま好きじゃない。だけど……鈴香は不安そうにこちらを見てみる。ここで断ったら鈴香の機嫌は悪くなるだろう。そして機嫌の悪い鈴香が愚痴を言う相手は天音で、天音に文句を言われるのはこの僕だ。ため息をひとつつき言った。
「……行こうか」
鈴香の顔はぱあっと輝いた。
◆
「碧斗くんストップストップ! あー過ぎちゃった」
「言うのが遅いって! わかんないよ!」
「えー? じゃあ交代しよ!」
僕らはUFOキャッチャーで遊んでいた。片方が横からみて指示し、片方がボタンを押す。ここ数年やったことがなかったのだが、意外と楽しい。景品がとれそうでとれない。そのもどかしさについ財布の紐が緩む。
「落ちた! やったー!」
「僕の指示がよかったんだな」
「はぁー⁉︎ 私の目が良かったのよ!」
鈴香はゲットした大きなぬいぐるみを大事そうに抱える。
「碧斗くん、これ欲しい?」
「君が欲しいならあげるよ」
「やった!」
嬉しそうにする鈴香に、僕はさっきから気になっていたことを尋ねる。
「ところで、結局くん付けにするんだな」
「あ」
鈴香は少し硬直したあと、こほんと咳をひとつして言った。
「あ、あおと! それじゃ帰ろ?」
……ぎこちない。そんな呼びにくいなら呼ばなきゃいいのに。
◆
数日後の朝。
登校してる途中に鈴香に会い、一緒に行くことになった。
学校に近づくにつれ同じ制服の人が増える中、見知った顔を見つけたので声をかける。
「奈由」
「あ、おはよーあおと。それと春野さんも」
軽く挨拶を交わし、この前の本の話をする。しばらくしてやっと気づたが、奈由の髪型が少し変わっていた。
「奈由髪型変えた?」
「んー? よく気づいたね。若干変えたよ。どうよ、似合う?」
「うん」
僕がそういうと、隣から機嫌悪いオーラが出てきた。見てみると、鈴香が不機嫌そうに僕を見ている。付き合っていたときもそうだが、こいつは目で訴えかけてくることが多い。まあ、言葉にされないと分かんないし、僕はその視線を無言で受け流した。
翌日のことである。
鈴香が髪型を変えてきた。それも大幅に。前までは肩の長さまでの髪を一つに縛り、(客観的にみれば)可愛らしい髪型だったが、今日のそれはより男受けしそうなものになっている。編み込みがすごい。まあ、客観的に見て、かわいいと思わなくはない。飽くまで客観的にだが。
「お、おはよう、あおと」
「……おはよう」
鈴香は、何か僕に言って欲しそうな顔をしている。だけど、そんなこと僕にはわからないので、特に言うことはない。学校へ歩みを進める。
「……」
「……」
……だんだん鈴香が本気で拗ねてきた。そんな雰囲気だしても、僕が何か言う義理はない。もう恋人じゃないんだし。
学校に着いて、鈴香を見た時、僕はぎょっとした。泣きそうになっていた。鈴香はそれを自覚したのか、顔を見られないように慌てて走り去っていった。
……あいつは、ずるい。付き合ってたころからそうだ。あんな顔されたら誰だって罪悪感がわいてくる。
その翌日。教室でものすごく不機嫌な天音に捕まった。
「なんで私が怒ってるかわかる?」
「はい」
「昨日大変だったんだよ? 学校が終わるなり鈴香に泣きつかれて家でずっと愚痴を聞かされて私はそれを慰めてあげないといけないし」
「ほんとうにごめん」
「……あのさぁ、なんでそんなに鈴香に素直じゃないの? 中学のころは、もっとデレデレしてたじゃん」
「今僕は鈴香の恋人じゃない」
「じゃあ恋人になればいい」
「……」
「……まあ、いずれにせよ今日中に鈴香の機嫌直してね」
「わかってるよ。ほんとにごめん」
◆春野鈴香◆
私はいま最低最悪の気分だ。
あんなにがんばったのに、碧斗くんはなにも言ってくれなかった。碧斗くんが素直じゃないのはわかってる。わかってるけど、不安で胸がいっぱいになって、もう泣きそう。
2年前碧斗くんと大喧嘩して、その仲直りをようやくこの前できた。私はまだ碧斗くんが好きだ。また恋人になりたいと思ってる。碧斗くんは素直じゃないけど、中学のころみたいに時間をかけて絆していけばまた付き合えると思ってた。
だけど、あんなに仲良い女の子がいるなんて知らなかった。しかも呼び捨てで呼ばれてる! 元カノの私より距離近いじゃん! しかも髪型褒めた! 私と付き合う前は一切そういうこと言わなかったくせに!
だめだ……とられる。
そう思った私は頑張って碧斗くんに見てもらおうと頑張った。髪型変えてみたのもそうだ。碧斗くんが何か言ってくれるのを期待して変えたんだ。だけど……
帰り道。夕暮れ時をとぼとぼ歩く。
なんか付き合う前もこんな感じだったなぁ。
碧斗くん全然素直になってくれないから、私だけ意識してるみたいで、不安でいっぱいになっちゃう。
……今日はもうはやく寝よ。
そこで、忙しない足音が近づいてきてるのに気づいた。
「鈴香!」
名前を呼ぶ声に振り向く。
「碧斗くん⁉︎」
そこには、息を切らした碧斗くんがいた。
「その……鈴香。言い忘れたことが、ある」
「な、なに?」
「……髪、すごく……、かわいい、と思う……」
「……!」
……碧斗くんが、かわいいって! 私を! えっ、嬉しい! すごく嬉しい!
碧斗くんの顔は真っ赤に染まっていた。2年前、私に告白してきたときにそっくり。
「そうでしょ! 私頑張ったんだよ!」
「……ああ」
「嬉しいなぁ……ねぇ碧斗くん、もっかい言って?」
「……いやだ」
「えー言ってよー」
「やだよ! 僕はもう帰るから! じゃあな!」
顔を真っ赤にした碧斗くんは、走って行ってしまった。
えへへ、かわいいだって。久しぶりに言われたなぁ。
はぁ、やっぱり好き。素直じゃないとこもあるけど、そこもかわいい。ほんとに大好き。
はやく恋人同士に戻りたいなぁ。