表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/79

メリーさん人形

金髪の少女はきりもみしながら壁を突き破り、部屋から外へと吹き飛ばされた。


「げぶふっ!?」


 部屋から蹴り飛ばされた少女は、そのまま地面に激突し、人形のようにゴロゴロと転がった。

 転がりが止まると、小さなうめき声を漏らしつつも少女は身体を起こす。

 頭に強い衝撃を受けたのか、少女はフラフラとよろめきながらなんとか立ち上がった。

 怒りで顔を真っ赤にし、痛みで碧眼(へきがん)に少しばかりの涙を溜めながらも、金髪の少女は蹴飛ばした相手を睨んだ。


「おのれ……、御庭番(おにわばん)っ!」


 よろよろと立ち上がる少女の前に、少女を蹴飛ばし『御庭番』と呼ばれた少女が吹き飛ばした部屋から一つ跳びで降り立つ。

 健康的な褐色の肌に、ショートカットに揃えた銀髪をもつ彼女は、金髪の少女と同じく人ではなかった。

 ふわりと揺れる銀色の尻尾、そして銀髪から覗く2本の小さな角。

 それは"鬼"の妖怪――白銀玄々(しろがねくろろ)だった。


「よっ、久しぶりだな。カリィ・カチュア」


 玄々はまるで友人に声をかけるような気安さで話しかける。

 対照的に、カリィと呼ばれた少女は、苦々しげに玄々を睨み返す。


「毎度毎度邪魔して……妖怪の性分を忘れたこの外道っ!」

「妖怪の性分なら十二分にわかってるぜ。人間ビビらせる程度なら見逃してただろぃ?」

「なら何故ここまで邪魔をするのよ?!」

「いや、もう3人も病院送りにしただろう、お前さん。さすがに魂魄(こんぱく)を吸い取りすぎだね。何故そこまで魂魄を溜める必要があるか知らんけど、命を脅かすまでやるのは御法度(ごはっと)ってもんさ」


 責めるというより少し(たしな)めるというか諭すように玄々はカリィに話す。

 しかし、カリィはあっけらかんとした態度だった。


「別にー、命まではとってないもーん」

「いや、昏睡(こんすい)状態まで追い込むんじゃないよ。ギリギリじゃないか」

「人間が脆すぎるのがいけないのよ。私は悪くないわ」

「毎度ながら、豪気(ごうき)だねぇ」


 玄々は苦笑する。このやり取りも何度目になるだろうか。

 玄々はこの強気さが嫌いではなかった。むしろ好ましいとさえ思っていた。

 事実、カリィはむやみに人を殺めたりしていなかった。そのかわりなのか、相手を一週間以上昏睡状態にはさせるのだが……。


「とりあえず、これ以上被害を出すわけにいかないからさ、勘弁して退いてはくれないかねぇ?」

「んな要求のめるわけ無いでしょう、白銀玄々?」

「だよなぁ」

「当たり前よ」


 玄々はため息をつき、カリィは胸を張った。

 そんな様子を遠巻きに見ていた紗月は、恐る恐る歩み寄る。


「あの……話が済んだのなら帰ってもらっていいですか……?」

「あら、すっかり忘れていたわ。ごめんなさい人間」


 忘れてたのなら、そのままどっかに行ってくれたらいいのに……。

 紗月は内心そう思ったが、かろうじて口には出さなかった。


「さて、そろそろ本題に入るかねぇ。カリィ、"異界(いかい)"を解いてくれ」


 会話もほどほどに、玄々は単刀直入に言った。


「お断りよ」


 カリィは即答する。

 しかし、玄々は予想通りといった様子で、ただ肩を(すく)めるだけだった。


「わざわざ捕獲した獲物を、はいそうですかと逃すと思うかしら?」

「だよな。じゃ、しょうがない」

「しょうがなくない!」


 カリィの返答に玄々が納得し、紗月は反論する。

 紗月にとってはいろいろと訳のわからないことの連続だ。家も壊されてしまったし。


「誰だか知らないけど、私の家壊しておいてそんな――」

「ねぇ、人間」


 紗月がカリィにくってかかろうとすると、カリィは紗月の言葉を(さえぎ)るように話す。


「だいたい――」


 カリィの目つきが、変わった。


「私の"異界"の中で、人間が生意気に意見を言わないでちょうだい?」


 その瞬間、紗月は後ろに引っ張られた。

 咄嗟(とっさ)に玄々が紗月を引っ張ったのだ。


 紗月が辛うじて視認できたことは、自分がさっきまで居た位置に、黒い大きな牙を生やした口がガチンとその(あご)を閉じているところだった。

 空を噛んだその顎は、そのまま地面に溶けるように沈んでいく。

 玄々は紗月をお姫様抱っこで抱えながら、カリィから離れるように跳躍(ちょうやく)する。


「さて、交渉は決裂しちまったし、そろそろ退治と行きますか。お前さんは隠れてな」


 紗月を地面に下ろし、玄々が話す。

 そのまま紗月をかばうように、カリィに歩み寄る。


「こっからは、実力行使だ」

「私もまどろっこしいのは嫌いだわ。」

「やっぱシンプルが一番だねぇ」

「あなたはいささかシンプル過ぎる気がするわ、御庭番」

「お褒めに預かり至極恐悦(しごくきょうえつ)

「褒めてないわよ」


 軽口もほどほどに、玄々とカリィは集中する。

 空気が張り詰めていく。

 玄々とカリィの間の空気がどんどん重たいものに変わっていった。

 互いをよく知っているからこそ、絶対に油断はなかった。

 二人の殺気が鎌首をもたげ、膨れ上がり、ぶつかりあって交じり合う。


「私の異界内(テリトリー)からは逃れられないわよ。優雅(ゆうが)惨殺(ざんさつ)してあげる」


 カリィの影が(うごめ)き、空中で分裂して数多の球体となる。


「御庭番一番槍、白銀玄々。参る!」


 玄々は地を砕くほど踏み込み、突撃した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ