研究室にて
紫朔は、一旦男から視線を外し辺りをゆっくりと見回した。
不思議な色の液体が詰まった機械やらへんてこな装置やらが所狭しと並んでいる。おそらくここは何か研究をする場所なのだろ。
正直、自分が見ても全くわからない。このあたりはノウェムの専門分野である。彼女に任せればいい。自分は自分ができる仕事をしよう。
紫朔は、再び視線を男の方に戻す。
「さて、連行する前におぬしには警備室に案内してもらうぞ」
「け、警備室? なぜ?」
紫朔の言葉に、眼鏡をかけた男は首をかしげる。若干声が震えているのは恐怖心からか。はたまた未だに天井から吊り下げられているからか。
「どうやらこの施設の詳細な地図が欲しいらしくてのう。迷いやすい構造ゆえ、調査するためにも地図が欲しいのじゃ」
「なぜわたしがそんなことを――」
「断っても良いが、その場合うっかりまゆ玉にしてしまうかもしれん。言っておくがおぬしの生死などわしはあまり気にしておらんぞ」
男が断りそうな雰囲気を出していたので、紫朔はうっかりという部分をことさら強調して吐き捨てるように言い放った。
紫朔の物言いに、ふたたび男は言葉を失ってしまった。
しかし、嘘は言っていない。紫朔にとっては本当に生きたまま連行しようが死んだ状態で連行しようがさほど興味は毛頭なかった。玄々が悲しむのを見たくないために生かしている程度である。
「そんな……脅しには……わたしは……」
「わしが冗談を言うような妖に見えるのであるならば、その眼鏡の度が合っていないやもしれんのぅ」
断ろうとする男の言葉を遮るように紫朔はさらに言い放った。若干の苛立ちを募らせながら。
紫朔としては、こんな無意味な問答に時間をかけたくなかった。玄々や辰砂が少し心配である。あの2体のことだからとくに問題はないとは思うが、大きな戦闘音もしていたし万が一ということもある。あと、こんな得体の知れない場所に長居などしたくない。
「……」
「諦めが悪いのは悪いことではない。じゃが、時と場合にもよるということを知ってもよいのではないかのう?」
「……わたしの……研究が……諦めるわけには……」
「……はぁ」
紫朔が諭すように話しかけても、心ここにあらずという風に男は何やらぶつぶつとうわ言をつぶやき始めてしまった。人間は肉体は脆弱だとは思っていたが精神すら脆弱なのか。
紫朔は、呆れすら通り越してもはやため息しかでなかった。




