表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/79

今を行く妖怪

――ギャアアアアアアアアアアアアアア!


「……陰山の悲鳴!?」


 通路の奥から聞こえてきた強烈な悲鳴に、青年――旭緋(あさひ)はわずかに反応する。確か、陰山は侵入してきた妖怪を迷わせて足止めしていたはずである。

 その彼がこれだけの悲鳴を上げたということは、緊急事態なのかもしれない。


 助けに行きたいが、こちらもそれどころではなかった。


「せいやぁ!」


 気合の声とともに、物体が旭緋に向かって猛スピードで突撃してくる。

 それを、ギリギリのところで辛うじてかわす。

 代わりに、突撃してきた物体はそのまま部屋の壁に激突。壁を木っ端微塵に吹き飛ばした。


「……このっ!」


 旭緋は物体の方へと素早く視線を向けると、すぐさま両手を勢いよく合わせる。

 その瞬間、崩れたガレキが勢いよく物体へと殺到していった。

 一般の生物ならばこれで圧死。良くても体のいたるところを骨折して重症に追い込む事が出来た。だが、目の前の物体の耐久値はそれらをはるかに凌駕していた。


「ぬんっ!」


 物体が力を込めて身体を無理やり広げた瞬間、殺到していたガレキ類が木っ端微塵に砕けて周囲に飛び散った。

 もうもうと立ち込める粉塵の中で堂々と立つ物体――尻尾をもつ鬼はにやりと笑った。


「驚いたよ。おれのサイコキネシスにここまで耐えられる奴はほかに見たことがない。結構自信あったんだけどな」


 旭緋は、素直に相手を賞賛した。

 旭緋は今まで人間や猛獣、この研究所で強化された能力者と戦ったことはあるが、純粋な妖怪と戦うのはこれが初めてだった。

 そしてここまで耐えることができた存在は、今まで戦ってきた者たちの中にはいなかった。

 妖怪というものがどれだけ規格外なのか改めて思い知らされ多様な気分だった。

 もはや冷や汗しか出てこない。

 

「なるほどやっぱり念動力(ねんどうりょく)か。想像してたよりもパワー型なんだねぇ……。シビれるねぇ」


 鬼もまた、何かに納得したように軽く頷いた。


「本当はもう少し現代風味の鬼退治と洒落込んでもらいたいとこだけど……。そろそろちょいと本気でいくぜ」


 鬼は言うと身をかがめて構えた。


(来るか……!)


 旭緋は突撃を予感し、回避のために集中する。

 集中した、はずだった。

 

「!?」


 決して目を離していたわけではなかった。瞬きすらしていなかったはずだ。

 それでも、鬼はすでに目の前にいた。

 凄まじいスピードだった。

 物語や伝承などでなんとなく知っていた鬼とは全く違った。


 どれだけ予想を超えれば気が済むのだ、この鬼は。


 すでに鬼は拳を構え、今にも打ち込もうとしていた。これでは回避は間に合わない。

 旭緋はすぐさま判断すると、とっさに両腕を交差させ、力を前方に集約させてサイコキネシスの障壁を張った。これで大抵の攻撃は防御可能だ。


 一度でも防御できれば間合いを離すこともできるかも知れない。

 幸い、この鬼は見事なまでに近接攻撃型だ。

 間合いさえ離せばまた反撃への隙も見つけられる。


 しかし、つぎに感じたのは信じられないほどの耐え難い衝撃だった。

  

「がはっ!?」


 鬼は、あろうことか旭緋を障壁ごと殴り飛ばしたのだ。

 あまりの衝撃に耐えることができず、旭緋は苦悶の声を漏らして後ろの壁に叩きつけられた。

 骨が軋み、内蔵がシェイクされたような不快感を覚える。

 視界がチカチカとまたたき、意識が一瞬飛びそうになる。

 思考が混濁する。

 次の一手が考えられない。


 これは、本当に生き物が出せるパワーなのか?


 まさに、バケモノ。


 旭緋の意識が飛びかけている隙に、目の前に移動した鬼が拳を構えていた。避ける暇も、防御する暇も、何もなかった。

 死の恐怖を感じる時間すらもなかった。

 そして、繰り出された不可避の追撃の拳は旭緋の横を抜け、後ろの壁を木っ端微塵に砕いた。


「……まだ、続けるかい?」


 爆風が吹き抜ける中、鬼は静かに訊ねた。

 そしてそれは、言外(ごんがい)に「次は当てる」と言っていた。


 旭緋はその言葉を聞きながら、ゆっくりと自分の後ろを振り返る。

 旭緋の後ろにあった壁は完全に崩壊し、その向こう側にあった通路の壁や、通路に隣接していたもうひとつの部屋すらも破壊していた。

 たった一度の攻撃の衝撃波が部屋を貫通して崩壊させたのだ。 


 それは、抗うことすら許されないほどの圧倒的な力の差だった。

 旭緋がそれを自覚したとたん、自分の中から気力という気力が抜けていく。

 旭緋はそのままその場にへたりこんでしまった。


「……ひとつだけ聞かせてくれないか? ……なぜ、そんな力があるのに……最初から使わなかったんだ?」


 全身の力を抜き、息も絶え絶えに旭緋は鬼に訊ねた。それは旭緋が抱いた純粋な疑問だった。これほどの力を持っていたのなら、最初から圧倒できたはずなのに。

 それほどの力を持っていたはずなのに。


「んー。……なんて言ったもんかねぇ」


 鬼は少し視線を空に上げて考えると、旭緋に目線を戻しにこりと笑った。


「強いて言うなら、お前さんたち人間が”好き”なんだよ」


 鬼は旭緋の質問に丁寧に答えると、旭緋に「そこで大人しくしてろよぅ」と声をかけ、歩いて行ってしまった。きっとほかの妖怪と合流するつもりなのだろう。

 旭緋はただ、その後ろ姿を見送ることしかできなかった。


「……あれが、現代に生きる妖怪……か」


 そうつぶやくと、旭緋は痛みと疲労からかそのまま気絶してしまった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ