罠
「……うン? 今なにカ……」
なにか不穏な空気を感じ、辰砂はあたりを見回した。しかし、あたりは特に何もない綺麗な通路があるだけだたった。
辰砂は玄々たちと別れた後、仮眠室まで戻るとスキンヘッドの男を応急手当し、ベッドに寝かせた。手当してる間に気がついてくれたら良かったのだが、流石にそこまで都合良くは行かなかった。そして先ほど、辰砂は仮眠室から出たところだった。
少し出遅れたかたちになってしまったが、やはり放ってはおけなかった。近くに場所がないならともかく、安静に出来る場所があるならば敵であっても手当はしてあげたい。これは辰砂の性であり数少ないわがままの一つだった。
それに、玄々や紫朔が先行してくれているのも辰砂がこうしてゆっくり出発している理由でもある。彼女たちの方がこういった敵地への潜入には長けているだろう。
なので、通路をゆっくり歩きながら辰砂は少し考えをまとめる。
まず、外から見た大きさから考えてこの建物は3階建てだ。また、これだけ通路を進んでも仮眠室や休憩室などが多いことから1階にそういった部屋をまとめているのかもしれない。
そして、辰砂が疑問に思っているのはこの静けさと謎の広さだった。
非戦闘員は退避させているだろうとはいえ、ここまで異能者(※特殊な力を持った人間の総称。俗に言う霊能者とか超能力者とか。さっきのスキンヘッドの男も妖怪たちのとっては異能者)以外誰にも合わないのも不自然である。
また、外観からは想像できないほど中が広い。上に上がる階段すら未だに見つけられない。
術者が常に展開させている異界ならいざ知らず、ほぼ場所を固定化させて術者から切り離したはずの迷い家でこの広さはおかしい。まるで空間がねじ曲がっているようだ。
そしてこの道の入り組みようも、よくよく考えれば不自然だった。いくら侵入者よけとはいえ入り組みすぎな気がする。これでは作業員が使いにくすぎるのではないだろうか。
なにかカラクリがあるのかもしれないなと考えつつ、もう何度目かになる部屋の自動扉をくぐる。
ここは談話室。
ここは休憩室。
ここは給湯室。
ここは食堂室。
どれもこれも同じような作りで、かなりの部屋数を作っているようだ。
そしてここは、また仮眠室であった。
だが、ここだけは他と違っていた。すでに先客がいたのだ。
しかも、その先客は――。
「アれ?」
先ほど戦ったスキンヘッドの男だった。未だ気を失っているようで目覚める気配はない。
しかし、初めて来た場所であるはずのこの部屋に彼が眠っているということは……。
辰砂は、慌てて通路にもどり辺りを見回す。しかし、辺りは特に何もない綺麗な、同じ構造の通路があるだけだたった。
その事実に気づき、慌ててノウェムに連絡を入れようと耳のインカムに手をかける。
「ノウェムちゃん。ボクら敵の罠にハマって――」
だが、最後まで伝えることはできなかった。
背中から腹部にかけて痛みを覚える。こらえきれずに口から大量の血が溢れ出てしまった。辰砂が自分の身体に視線を落とせば、腹部から長剣の刃が生えていた。
背中から長剣で貫かれてしまっていた。
完全に不意打ちだった。
相手の姿も確認できず、そのままぐらりと辰砂の身体は傾き、血だまりの中で倒れ伏してしまった。




