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嵐の前の静けさ

「……ごめん」


 玄々は心のそこから謝罪した。


「うーん、さすガにコレはボクでもフォローはできないカナ……」


 困ったように辰砂が唸った。


「玄々や。さすがにこれは少し……」


 紫朔も、少し呆れたように言葉を詰まらせた。

 玄々は前方の光景をただ眺めるしかなかった。


「ごめん。えーっと……その……やりすぎた」


 玄々たちの前方には砕け散った壁。そして、その向こうにあった部屋に白目を向いて横たわる、完全に気絶してしまったスキンヘッドの男が居た。

 向かってきたスキンヘッドの男の拳を玄々が屈むようにしてかわすと、そのまま体をひねってカウンターとばかりに裏拳を顔面に叩き込んだのだった。

 裏拳の直撃を受けた男は真横に吹っ飛び、壁をぶち抜いてあっさりと気絶してしまったのだった。


「貴重な情報源があっさりと沈んでしまったのう……」

「だって……あれだけ気合を込めて襲いかかってきたからよぅ。なんというかちょっと興がのっちゃって、思ったより力がはいっちゃった……んです」


 紫朔の困った様子に、玄々が慌てて弁明をいれる。ただ、玄々自身もやりすぎてしまったことは自覚しているため、どんどん尻つぼみに言葉が小さくなっていく。

 さほど下っ端のような感じはしなかったため、無力化して尋問すれば少しは情報が得られたかもしれないし、情報がえられなくても道案内くらいはさせることができたかもしれない。


 こちらのことを”妖怪”だとはっきり言ったのもやはり気になる。見た目ただの幼子である紫朔はともかく、角と尻尾が付いている玄々やツギハギだらけの辰砂は確かに異形ではある。だがそれでも人の姿をちゃんととっているため妖怪だと認識できるのは事前に知っている必要があるはずだ。情報が漏れた原因も早めに突き止めておきたい。


 しかし、気絶させてしまってはそういったことも聞き出すことはできない。しかも結構強めにやってまったからしばらく目を覚ましそうになかった。


「うん、とりあえず生きてはイルようだから大丈夫ダヨ。タブン、この施設で手に入れたッテ言ってた力のおかげデ身体的強度も上がっているようだネ」

 

 辰砂が壁に空いた大きな穴から部屋に入り、のびきっている男の脈を測ったり、体を触って命に関わる大きな外傷がないか調べながら言った。

 どうやら、気絶はしたもののさほど危険なほどのダメージは受けていないようだ。玄々はほっと安堵のため息をついた。


「さて、気絶してしまった以上こやつにかまう価値はないじゃろう。そろそろ別行動を開始するかのう」

「人間に対してはほんとに辛辣だねぃ……。まあ、紫朔らしいか。ともかく、まだどんなやつ残ってるかわからない。気をつけてな」

「うむ、また後でのぅ」


 紫朔は玄々の方を向いて頷くと、天井点検口の方へ糸を飛ばして素早く天井裏へと消えていった。


「それじゃあ僕は、コノ人をさっき見かけタ仮眠室のベッドに寝かせてカラいくよ。ココに置いていくのモかわいソウだし」


 辰砂はそう言うと、自分よりも大柄なスキンヘッドの男を一度うつ伏せにして抱き上げ、男の脇の下に首を差し入れて担ぎ上げた。そのまま男の片足を片腕で抱えながら同じ手で片手を掴む。ちなみにこれは消防夫搬送と呼ばれる方法。片手が自由に使えつつ運搬できるため救助にも役に立つのだ。


「あいよぅ。また後でな」


 玄々は仮眠室へと戻る辰砂を見送ってから、施設の奥を目指して進み始めた。


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