潜入
霊薬の生産施設内部は白を基調とした装飾で施され、研究員の休憩所や仮眠室、医療室など様々な設備が整えられており、研究員たちはおそらくここで寝泊りしながら日夜霊薬を作っていたのだろう。
だが、現在玄々たちを辟易させているのはそこではない。
「……ここどこだ?」
施設の長すぎる通路を歩きながら、玄々は何度目かになる同じ言葉を呟いた。
施設の内部が圧倒的に広いのだ。しかも似たような部屋や通路が多く道が入り組んでおり余計にわかりづらい。設計者は本当にこれで使いやすいと思ったのだろうか?
もはや生産施設とか研究施設とかじゃなくて、ひとつのダンジョンである。同じ模様が続く通路とか一昔前の一人称視点の3Dダンジョンを彷彿とさせる。これで敵とエンカウントしたららBGMでも流れるんじゃないだろうか?
「見タ感じ、小規模の施設カラどんどん付け足すようにシテ拡大して行ったんダロウ。固まって動イテいると日が暮れそうダネ」
玄々の隣を歩く辰砂がのんびりとした口調で言った。
たしかに、通路がやたらと長いし分かれ道も多い。外からは分からないように上手くくっつけてはいるが、その分中がぐちゃぐちゃになってしまっているのだろう。
とはいえ、侵入者対策にわざとこのような設計にしているかもしれない。
『皆さん、先にこの施設のマップを入手してください。そのマップをもとに私が皆さんの案内をします』
「わかったヨ。けど、どこにアルかなァ?」
『私の予想では、警備室あたりにあるのではないかと思われます。また、そちらの施設は監視カメラの存在を確認できません。おそらくなんらかの別の方法で警備していると思われます。ご注意ください』
「わかっタ。じゃあ、ソノ警備方法を突き止めつつソコを目指しテみよう」
インカムを通してノウェムが助言し、辰砂が頷いた。
確かにこのまま闇雲に歩くよりはましだろう。
「ふむ、ならば別れて探索するべきかのぅ。ワシなら狭い通路も通れるじゃろう」
目的が決まったことを確認すると、ちらりと天井を見上げた紫朔が言った。頭上にはちょうど天井点検口(※読んで字の如く天井を点検するための四角い枠で囲われた入口。普通は、入ると天井が抜けて大変危険なので絶対に入ってはいけない)があった。
紫朔が天井裏へと移動しようと、糸を飛ばすために手を上げたその時、
「その必要はないぜ、侵入者ども。なぜなら今から俺がぶちのめしてやるからな」
前方の曲がり角から、喧嘩文句とともに一人の男が現れた。
タンクトップから除くがっしりとした筋肉、ジャージのズボンを履きスキンヘッドの頭がきらりと光った。いかにも厳つそうな男だった。
妖気を感じられないところをみるに、どうやら人間のようだった。
「お前さん誰だぃ?」
「てめぇらに名乗る名前なんてないぜ。どうせこれからてめぇらは死ぬんだからな」
「……そうかぃ。いきなり殺意マシマシとは無粋だねぇ」
スキンヘッドの男のやる気満々な態度に、玄々は肩をすくめた。
「ハッ、何が無粋だ。余裕こいていられるのも今のうちだぜ」
そういうと、男は両腕に力を込めた。力を込めた両腕がオーラを纏うように淡く発光する。
「俺はなぁ、この研究所ですんげぇ力を得た超人なんだよ……。てめぇら妖怪をぶっ潰せるくらいになァ!」
そして男は力を見せつけるように横の壁を拳で叩く。ドゴンッという凄まじい音とともに壁に大きな亀裂を入れてしまった。
そのなかなかのパワーぶりに、ヒュゥッと玄々は口笛を吹き感心する。
辰砂は特に臨戦態勢を取るでもなく、軽い口調でスキンヘッドの男に問いかけた。
「魔物とかジャなくてちゃんと妖怪って呼ぶってコトは、こっちの正体は知れ渡ってるんダネ?」
臨戦態勢のスキンヘッドの男に、まるで友達と話すような気軽さで会話する辰砂。緊張感の欠片もなかった。ちなみに紫朔もまた、特に警戒するでもなく成り行きを見守っている。
「その答えは、俺を倒してからするんだな。倒せるものならなァ!!」
男はそう吠えると、玄々たちに向かって拳を振り上げ突撃してきたのだった。




