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足音の鳴る山

 夕刻、ひとまず隠れ家に戻った玄々は、隠れ家でソファーにゆったりと座ったまま待ってくれていたノウェムに地獄街で聞いてきた話をすることにした。


「……足音が響くような音がする山……ですか」


 玄々の問いに、目を伏せて少しだけ沈黙する。これはノウェムが検索に集中しているときだ。ネットワークの海から大量の情報を集めたいときや難解なセキュリティを突破したいときなどはこんな感じに集中する。

 ものの5秒ほど集中したあと、ノウェムは目を開き玄々の方を向きながら集めた情報を話してくれた。


「色々と検索致しましたが、一番可能性が高いのは加茂勢(かもせ)山ですね」

「加茂勢山……? そんな山近くにあったっけ?」


 部屋の奥においてある小型の冷蔵庫から炭酸飲料を取り出し、ノウェムの近くの背もたれ付きキャスター椅子に腰掛けながら検索結果を聞いた。


「現在はポンポン山の愛称で呼ばれている山ですね」

「ポンポン山は聞いたことあるな」


 ポンポン山とは、京都府と大阪市の間にある標高678mの大きな山のことである。ノウェムの説明によると、一部で空洞のような音を確認できるらしい。また山頂は眺めがよく、観光地スポットとしてヒッチハイカーなどに親しまれているという。


「しかし、そんなところで霊薬生産とはなぁ……。説明を聞く限りその山って観光客が多いんだろう? 割とバレそうな気がするが」


 玄々は腕を組み、顔をしかめて唸った。

 ヒッチハイカーが多いということはそれだけ人が沢山行き交うということでもある。また、霊薬の生産量もかなり多いところを見ると、割と大きな施設もありそうなものである。


「私の推測ではありますが、人の行き交いが多いからこそ人が出入りしていても怪しまれないのではないかと思われます。木を隠すなら森の中とも申しますし。もしくは発見してしまった人間は口封じにあっているか……」

「口封じか……あんまり考えたくはないけど」

「または、施設を迷い家内部に作っているかですね。ただそうなると……」

「迷い家を生成できるほどの技術をもつ妖怪か、強力な人払いの結界を張ることができる人間の術師がいることになるねぇ……」


 ノウェムと話し合いながらも、玄々は大きなため息をついた。推測とはいったもののノウェムの考えは十中八九正解と言えるだろう。つまり強力な敵がいることになる。

 また、施設があると仮定した場合だと、施設を作れるだけの大きな組織がある可能性が高い。相手の戦力が未知数過ぎる上に情報がなかなか少ない。突撃するには危険すぎるか。

 ただ、情報を集めようにも足がかりがなさすぎるし時間もない。メンバーを集められるだけ集めて行くのが最善か。

 玄々は考えをまとめると、ノウェムに指示を出す。


「ここで足踏みしていてもしょうがないか。ノウェム、メンバーを招集してくれ。準備を整えて突撃する」

「分かりました。できる限り周辺の御庭番にも協力を仰いでみます」

 

 玄々の指示を受け、さっそくノウェムは目を閉じて作業を始める。各メンバーに連絡をとっているのだろう。こっちも今のうちに出来るだけ準備をしておかなければ。


 玄々は上着のポケットからスマホを取り出すと電話をかける。電話の相手はすぐさま出てくれた。


『はいはい、こちらよろず屋。ちょっとしたお菓子からスペースシャトルまで、お金さえあればなんでも取り寄せるで』

「あー、もしもし。御庭番の玄々だけど」

『おー、玄々さんやないの。珍しいなぁ。どないしたん?』


 電話に出たのは商人(あきんど)さんと呼ばれる人物だった。御庭番だけでなくいろんな妖怪相手に商売をやっている妖怪だった。

 その仕入れ能力は異常であり、ちゃんと代金を支払えるならば大体のものを入荷してくれる。本人曰く「仕入れることができぬものはほとんどない」らしい。


「今からいろいろ用立てて欲しいんだけど」

『かまへんよ。メールでもええから注文リスト送ってな。そしたらそっちに持ってくさかいに』

「あいよぅ。今から送る」


 商人さんとの電話を簡単に済ませると、玄々はすぐさまメールを送った。

 メール送信の完了画面を見てスマホをポケットにしまった瞬間、


「まいど、おおきにー!」


 突然天井の一部が外れて、中から1体の妖怪が降りてきた。

 ベージュ色のロングコートに身を包み顔が見えないほどフードを目深にかぶっていた。背中には自分の体なみに巨大な背負袋を背負っており、その背負袋から刀やら謎の棒などが飛び出だしている。

 フードの中から顔文字のような顔が玄々をじっと見つめていた。


「……ほんとに毎回思うけど、どっから出てくるんだ商人さんよぅ」

「素早く届けるのがウチのモットーやからねぇ」

「なるほど。全く答えになってないなぁ」

「ほんで、こちらが依頼された品や」

「会話が投げっぱなしジャーマン」


 商人さんはニコリと笑うと、背中の背負袋を床に下ろしてその中から様々な薬品をテーブルの上に置いていった。

 登場の仕方に呆れていた玄々は、気持ちを切り替えて届けられた品物を確認していく。


「これが丸薬、それから術札、手榴弾と閃光手榴弾……」

「助かるぜ。代金はあとで振り込んでおくから」

「これがウチの仕事やからねぇ。そんなことより玄々さんがウチを頼るなんて珍しいなぁ。そないなほどヤバい仕事でも入ったん?」

「ヤバい……っていうか嫌な予感がするからかな。ちょっと入念に準備しようと思ってね」


 商人さんの問いに玄々は少し曖昧に答える。

 実は玄々にもよくわかっていなかった。ただずっと嫌な感覚が胸の中に渦巻いているのだ。


 禍津神(まがつかみ)と対峙する時よりも、さらに嫌な予感を感じていた。


 こういった直感は常に玄々を助けてくれていた。できる限り従うべきだ。

 ふと、玄々が窓の外を見れば街中の向こう側に沈む夕日が見える。その光景がやけに恐ろしくみえた。太陽が沈むのが恐ろしく感じるなんて妖怪としてどうかとも思うけれども。

 作戦決行は準備が出来次第すぐに行うつもりだ。たぶん今夜になると思う。


「何事もなければいいけど……ってのはフラグかねぇ」


 柄にもなく緊張していることを自覚し、玄々は少しおどけるように呟いた。

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