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小瓶

 奈良県のとある場所。時刻は21時を回ろうとしていた。

 国道を進み、街中から少し外れた場所に位置するこの建物は、すでに所々の塗装が剥がれ老朽化(ろうきゅうか)が進んだまま放置されていた。

 もともとこの建物はパチンコ屋だったのだが、経営難により閉店。そのまま放置されてもはや廃墟(はいきょ)と化していた。


 だが、そんな建物にそっと入っていく者がいた。


 歳は10歳前後くらいで、桜色の髪をハンチング帽子の中にまとめてあり、目深にかぶっている。長袖のTシャツの上から少し大きめの半袖のTシャツを重ね着しており、デニムのズボンを履いている。

 小さな侵入者は、銀色の目を忙しなく動かしてあたりに人がいないことを確認するとこそこそと建物の中に入っていく。

 ガラス張りのドアを押し開けて中には入り、電気の点っていないホールへと進む。

 かつて様々なパチンコ台やスロット台があったであろうホールは、今はもぬけの殻となっておりただただ広い空間が広がっていた。

 そんな真っ暗なホールをまっすぐ歩き、迷わずスタッフオンリーと書かれた部屋へと向かった。

 スタッフオンリーと書かれた扉を開け、急に差し込む明るさに侵入者は目を細める。


 部屋の中は、すでに放置された廃墟とは思えないほど綺麗であった。

 数多の蛍光灯が明るく照らす部屋には、沢山の机や椅子が乱雑に置かれており、机には飲み物やお菓子が沢山置かれ、これまた沢山の人間が騒いでいた。

 何よりも、その広さが通常ではありえないほど広かった。

 

「来たか、ガキ」


 部屋の奥の大きな椅子に、まるで玉座の如く座っている人物が入ってきた者に声をかけた。

 ガキと声をかけられた侵入者は、周りの人物には目もくれずに部屋を横断する。


「ちゃんと金は持ってきたか?」

「……はい、今日の稼ぎです」


 そう言って、侵入者は震える手で数枚の万札を玉座の男に手渡す。

 男は下卑(げび)た笑みを浮かべながらお札の数を数え、満足すると玉座の横に置かれていたスポーツバックの中から小瓶を1つ放り投げる。


「ほら、約束のもんだ。もっとほしけりゃもっと金を持ってこいよ。薬もタダじゃねぇんだからよ」

「……はい」


 男の言葉に小さく返事をして、小さな侵入者は受け取った小瓶をポケットの中にしまった。

 そのとき、侵入者が入ってきた扉がいきなりバゴンッと吹き飛んだ。


「はーい、お邪魔するぜぃ!」


 扉を蹴り飛ばしたのは、ショートカットの銀髪に燃えるような赤い眼、褐色肌の少女であった。

 白銀玄々(しろがねくろろ)だった。

 今回は、ゲームを盗んだのが妖怪だと踏んでいたので角と尻尾は隠さずに突入したのだった。

 しかし……。


「……ほぼほぼ人間だけだねー」


 玄々の後ろから扉の無くなった入口を、背を若干かがめながら入ってきた鬼燈(ほおずき)が緊張感の欠片もない口調で感想を漏らす。 

 その感想には、玄々も内心で同意した。

 ざっと見た限りではあるが、人間ばかりなのだ。

 とはいえ、部屋の奥にふんぞり返っている野郎からなかなか大きい霊力を感じる。部屋から感じる感覚から察するにこの部屋は『異界』になっているようだった。生成したのは部屋の奥の男だろうか?

 人間だって異界の生成はできないことはない。けれどあんなにふんぞり返ってる奴がこんな殺風景な異界を作り出すだろうか? ……色々疑問は残るけれど、とりあえず任務をこなそう。


 ちなみに、鬼燈がここにいるのは酒呑童子との面会の予定が明日なので、暇つぶしに任務を手伝ってくれるとのことだった。頼もしい限りである。


「3分間待ってやる、(ひざまず)いて命乞いをしろ。お前さんらは完全に包囲されている。全員、床に伏せて、頭の後ろに両手を乗せて、足を交差させろぃ。親御さんは泣いてるぞ」

「それなんかいろいろ混ざってるなー」


 玄々の横に並んだ鬼燈からツッコミが入った。でも気にしない。


「ちっ。後を付けられやがったな、役立たずが。……なんだてめぇらは」


 突然の乱入者に静かになった部屋の中で、奥の椅子に座った男がゆっくりと立ち上がる。先に入ってきたハンチング帽の者をひと睨みすると、こちらを威嚇するように話しかけてきた。


「ほほぅ、いきなりの突入にうろたえないとは中々豪胆だねぇ。お前さんがリーダーかな?」

「……なめてんのか? クソ(アマ)

無礼(なめ)てはないさ。今回はガムも噛んでないぜ」

「なめてるだろ、てめぇ」


 玄々の言葉に、男は額に青筋を浮かべる。どうやらすぐ感情的になる性格らしい。戦闘するなら御しやすいタイプだが、逆にいえば言葉での解決が難しいタイプでもある。というか既に相手の顔は怒りの形相に染まってるし、もう戦闘する気マンマンのご様子。

 まぁ、こういう相手は遅かれ早かれ敵対状態になっただろうし、大勢の一般人に迷惑かけてドヤ顔してる奴とあんまし仲良くする気は毛頭ないので特に問題なし。


「決めたぜ。おい、お前ら! 横の男は殺して女は生け捕りにしろ。二度と舐めた口きけねぇように俺のおもちゃにしてやる」

「……その言葉、うちの天狗が聞いたらキレそうだ」

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