表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/79

遊戯失踪

 神凪(かんなぎ)町。

 商店街もなく人口も少なからずも多からずな、のんびりとした田舎町ではあるが、大型ショッピングモールが建っているために生活にさほど不便がないという中々住みよい街である。

 ショッピングモールには服飾店や飲食店も多く入っており、日用雑貨から食料品までちゃんととり扱っている。

 もちろん、本屋やゲームショップなどの店舗もある。


 その中のゲームショップに向かう一人の少女。

 玄々(くろろ)はウキウキと上機嫌であった。

 なぜならば新作ゲームの発売日なのである。待ちに待った発売日なのである。


 ショッピングモールの自動ドアを抜け、服飾店を横目に通り抜け、エスカレーターを使って2階へと登る。そして、電気屋の隣にあるゲームショップへと入り、さっそくレジカウンターに居る店員に訊ねる。


「すみません。予約していた白銀ですけども、KISIN|(漢字書きは鬼神。龍の血を宿し不老不死となってしまった男が、謎の力で不死となり各地を支配する者たちを討つ和風アクションゲーム。難易度が高めで死にながら突破方法を探す、いわゆる死に覚え系のゲーム。)を受け取りに来ました」


 しかし、店員からもらったものはお目当てのゲームではなく、謝罪の言葉であった。


「申し訳ありません、お客様。そちらの商品は只今入荷が遅れていまして」

「……遅れてる?」



***


 御庭番総括本部。

 大江山(おおえやま)の山頂付近に隠されたように建つ御殿の奥、数多の部屋のうちの一つに酒呑童子(しゅてんどうじ)はいた。

 この部屋はいわば遊び部屋となっており、60畳|(約97平方メートル。余裕の3LDKレベル。つまりめっちゃ広い。)の広さがある畳が敷き詰められた部屋には、モノポリーやバトルシップなどのボードゲームや様々なテーブルトークRPGなどの書籍が棚に綺麗に飾られていた。

 それ以外にも50インチのテレビが複数台、さらに様々なゲーム機が複数づつ置かれていた。さらには部屋の隅にはなぜかゲームセンターに置かれているような筐体(きょうたい)まで何台か設置されていた。


 遊び部屋に佇む酒呑童子は、ウキウキと上機嫌であった。

 なぜならば、本日発売である新作ゲームがもうすぐ届くはずであったからだ。

 酒呑童子自身はあまり本殿からは離れられないので、玄々をお使いに出している。分霊(わけみたま)を宿した式神で買いに行くのもいいのだが、それをすると「御庭番の総大将がみっともない」と茨木童子にまた(・・)こっぴどく怒られかねないので今は大人しく連絡を待っているのである。

 ゆっくりと座布団に優雅に座ってお茶を飲みながら酒呑童子が待っていると、テーブルに置かれたスマホが着信を知らせた。

 はやる気持ちを抑えつつも、電話に出る。


「はい、こちら酒呑童子ちゃんですよー」

『ああ、酒呑さん。こちら玄々』

「玄々さん、お待ちしていましたよ。手に入りましたか?」

『それが……』


 電話の向こうの玄々は、なぜかどうにも歯切れが悪い。嫌な予感がする。

 はやる気持ちを抑え、酒呑童子は玄々に話の先を促した。 

 

「なにかありましたか? 玄々さん」

『残念ながら、手に入らなかったです』

「な、なんですと……」


 あまりに衝撃的な出来事に酒呑童子は目の前が真っ白になった。

 せっかく楽しみにしていたのにまさかいきなり売り切れるとは……っていうか予約してたのに売り切れとはこれ如何に。店側に文句を言ってやらねば。

 酒呑童子が心の中で狼狽(ろうばい)しているのをよそに、玄々は話を続ける。


『ああいや、店からの話によるとどうやら盗まれたみたいで』

「……ふむ。 もう少し詳しくお聞かせ願えますか?」


 なにやら事情がありそうだ。うろたえるのはもう少し後にしよう。

 素早く気持ちを切り替えると、酒呑童子はもう少し詳しく話を聞くことにした。



 説明を聞くこと5分ほど。

 玄々が店側から聞いた話をまとめると……。


「つまり、店に着く途中で積荷の一つが行方不明になったために入荷数が足りなかったと……」

『簡潔にいうとそういうことです』


 酒呑童子が内容をまとめ、玄々が肯定した。

 予想外の出来事に、酒呑童子は内心頭を抱えた。

 発売日当日に遊べるように予約購入したし、このために仕事も片付けた。1日全てをゲームに費やすためにめちゃくちゃ準備したのだ。にも関わらず、まさかこんな事が起こるなんて。


「これは、由々しき事態ですね」

『どうしますか?』

「決まっているでしょう。我々は御庭番(おにわばん)です」

 

 玄々の質問に、酒呑童子は即答する。悩む時間など有りはしなかった。

 決意を込めた眼を輝かせ、拳を握り締め高らかに酒呑童子は宣言した。


「全御庭番に告げます。只今を以て盗まれた積荷の奪還作戦を開始いたしますッ! 御庭番の総力を上げて必ずや積荷を速やかに奪還(だっかん)します。そして盗んだ不届き物に鉄拳制裁もといフルボッコにいたしましょうッ!」

「せぬわ、たわけが」

「ぎゃふん」


 高らかに宣言した瞬間、後頭部を叩かれる酒呑童子。

 涙目になりながら後ろを振り返ると、そこには茨木童子(いばらきどうじ)が仁王立ちしていた。額に若干青筋を浮かべている。


「何を騒いでいるかと様子を見に来てみれば……。何を私物化しようとしておるのだ貴様は」

「えー……だってぇ」

「ただでさえ正式な御庭番の人員は日本全土のみでも100名ほどしかおらぬのだぞ。それをこの程度のことで動かすことはできぬ。そのうち陰陽隊(おんみょうたい)が動くであろう。彼奴らに任せればよい」


 突然の説教に頬を膨らませる酒呑童子に、茨木童子は大きくため息をついた。

 しかし、酒呑童子とて簡単に食い下がりはしたくはなかった。

 こんなにも楽しみにしていたのだ。コントローラーだってフル充電したし、ゲーム機本体も分解して中の掃除もした。1日全てをゲームに捧げるために食べ物も飲み物も大量に買い込んだ。

 とはいえ、茨木童子の言葉は全て正論だ。ただでさえ少なくて全ての県に配置することもできていないのに、緊急そうなものでもなければそうそう大きく動かすことなどできない。

 2、3日経てば陰陽隊の耳にだって入るだろう。


 ――でも、だけど、ものすごく楽しみにしていたのである! めちゃくちゃ遊びたかったのである!


 口をへの字に曲げものすごい抗議の目で茨木童子を睨みつけると、今度は何かを諦めたかのように茨木童子はため息をついた。

 そしておもむろに、酒呑童子から電話を取り上げる。

 そのまま、電話を代わった。

 

「茨木童子だ。御庭番、聞こえるか?」

『はい、こちら玄々』

「貴様と動ける数名で捜査にあたれ。できる限り速やかに解決しろ。回収班、諜報班などの後援メンバーも好きに使え」

『……御意』


 茨木童子は短く要件を伝え、玄々の返事を聞くとそのまま電話を切った。 


「全員は無理だが、数名なら動かしても異論はない。これで文句はあるまいな」


 酒呑童子の方へと向き、携帯電話を渡す。

 携帯電話を受け取った酒呑童子は満面の笑顔を向けた。


「ありがとう、茨木」

「ああでもしなければ貴様はテコでも動かぬであろうからな。では仕事に戻るぞ」

「はい、それじゃまた後で」

「何を言っている? 酒呑、貴様もだ」

「……え?」


 突然の茨木童子の発言に、空気か凍りつく。あるぇ? 私の耳がおかしくなったのかな?


「や、やだなぁもぅ。今日の分の仕事は終わらせてあるはずでしょう? 冗談きついんだから」

「だが、未だ仕事は山積(さんせき)している」

「で、でもね。仕事漬けとか良くないと思うのよねー。だってさ、人間息抜きは必要ってテレビでも言ってるし」

「貴様は妖怪であろう」

「う、うぐぅ……」

「盗まれたものが見つかるまでは暇であろう? その間に少しでも書類の山を減らしておけ。我の方でもある程度は処理してあるが、貴様の承認(しょうにん)が必要なものはどうにもできぬ」


 一言交わすたびにすごく圧が強くなっていく気がする。

 普段は口達者な酒呑童子であるが、なぜかこういうときの茨木童子には中々勝てないのだった。

 原因は、基本ど正論しかぶつけてこないのが原因だと思うけども。

 だが、こちらはできうる限り働きたくないのだ。逃げる口実を酒呑童子は必死に素早く頭を働かせた。

 そして閃いた。


「そう、私は本日は全休を頂いているはずです」


 閃いた言葉を高らかに口にする。

 何を隠そう、本日は全休なのだった。前々からしっかり予定を入れておいたのだった。

 この事実は茨木童子も以前から了承していたし、覆すことはできないはず。


――茨木童子の圧に、私は負けたりしないッ!


「そうか。ならば、仕事の共にと買ってきておいた洋菓子は自分で食べておこう」


 洋菓子という単語に一瞬ぐらつく。だが、私の意思はとても硬いのである。

 そんな美味しい物に、簡単に釣られは……。

 

「有名な高級チョコレートの専門店から買ってきたチョコケーキなのだが」

「仕事頑張ります」


 酒呑童子は即答するのだった。


――甘いものには、勝てなかったよ……。


 結局、この日は事件が解決するまで美味しいケーキという天国と書類の山という地獄を同時に味わう事になるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ