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修練場

 ――もはや冷や汗しか出ない。


 多方向から来る骨でできた槍を回避しながら、義経は内心そう思う。

 後ろに跳び、相手から距離をとりつつ乱れた呼吸を整えようと必死に息を吸う。

 敵は強大だった。


 両手の拳銃を乱射して牽制(けんせい)する。

 これで少しでも怯んでくれればいいのだが、相手は骨で形成した盾を左腕に生やして全て防いでしまう。さらにその盾の向こう側から背骨のようにつらなった骨が幾本も伸びてきていた。先ほど攻撃を仕掛けてきた骨槍だ。

 先端には鋭い骨の刃がついており、まるで1本1本が別の生き物のようにこちらを的確に狙って射抜こうと襲いかかってくる。

 義経は相手の背後に回り込むように移動しつつ、襲いかかってくる骨槍を銃撃で1本づつ撃ち落とした。

 骨槍は何発か当てれば砕くことは可能だが、いくら破壊しても別の骨槍がすぐさま攻撃を仕掛け、その隙に壊れた骨槍が再生してしまうので全くもってキリがない。


 やるならば、本体に強力な攻撃を直撃させるしかないだろう。


 そう決心し、義経は小さく息を吸うと拳銃を機関銃の如く連射して幾本か骨槍を砕き、再生する隙をみて一気に間合いを詰める。

 敵の骨の盾を跳躍で飛び越えつつ、真上に着た瞬間体を回転させて拳銃を高速乱射。真下に向かって銃弾の雨を降らせ、そのまま移動時の慣性(かんせい)を利用して相手の背後へと着地する。 


 手応えはあった。何発かは直撃したはずだ。

 しかし、この程度で倒せる相手ではないことは義経は経験上からわかっていた。まだだ、まだ足りない。

 相手の背後をとったとは言え、盾の生成速度を(かんが)みるに遠距離攻撃は防御されるかもしれない。また威力においても若干の不安が残る。

 ならば、至近からの接射が一番有効打を与えやすいはず。

 瞬時に判断すると、義経は間髪入れずに獣の瞬発力を活かし超高速で相手に肉薄(にくはく)した。

 

 素早く接敵した義経は、銃口を相手の背中にくっつけて接射を行おうと引き金に力を込めた。


 しかし、銃弾が炸裂するよりも早く相手の背中が裂けた(・・・・・・)


 裂けた背中から肋骨(ろっこつ)に似た骨が鋭く伸び、義経を串刺しにしようと襲ってきたのだ。

 慌てて義経は後ろに身をひるがえし、攻撃を回避しつつ距離をとった。

 突然の攻撃で少し乱れた呼吸を、整える。視線は相手から絶対に外さない。

 既に何発か銃弾の直撃を食らったであろう相手は、しかしゆっくりとこちらに振り返り、にんまりとツギハギの顔で笑顔を作る。


 「やるようになったネ、義経。でも、ここからがホンバン」

 「そろそろ勘弁して欲しいものだな、師匠」

 

 力の制御目的の試合とはいえ、相手はわりと本気で攻撃してくる。さすがは特別指導だった。ものすごくつらい。

 ギザギザの歯で笑う辰砂(しんしゃ)に対して、義経(よしつね)は引きつった笑いを浮かべた。



 ***



「すごいなぁ」


 何度見てもそう思う。

 紗月(さつき)は、中央の試合用の舞台から少し離れた観戦用のベンチに座りながら義経(よしつね)辰砂(しんしゃ)の戦いを眺めていた。

 現在、紗月たちが居るのは神凪(かんなぎ)町から京都市内に向かって1時間くらい電車で移動した場所。そこのスポーツジムの店内からエレベーターで下りて地下へと移動した御庭番の修練場(しゅうれんじょう)だった。

 ちなみにスポーツジムの経営はちゃんと人間が行っているらしいが、妖怪のこともちゃんと知ってるとのこと。ちなみに筋肉もりもりの好青年だった。白い歯が眩しかった。

 人間社会から隠されてるはずなのにわりと妖怪を知ってる人間が多い気もするが、酒呑童子のことだ。たぶん理由があってのことなのだろう。

 どっかに人間と妖怪が共存している町もあるらしいし、いつか遊びに行ってみたい。

 

 しかしながら妖怪同士の戦闘というのは本当に熱いと思う。アニメから飛び出したかのような迫力のある試合を前にして紗月は胸が躍った。

 今までも妖怪同士の戦いは見てきたけど、どれも命の取り合いであって楽しめるような状況ではなかったけど、今はちゃんと試合であるため、安心してその迫力を体感できる。こういう試合とかを見ていると、なんだかポップコーンとかが食べたくなってくるのは私だけだろうか。


「よっ、楽しんでるかぃ?」


 そういって近くに寄ってきたのは玄々(くろろ)だった。自分用と一緒に買ってきてくれたサイダー入りのペットボトルをこちらに渡してきた。

 その後ろにいるのは酒呑童子だった。みんなで仲良く並んでベンチに座り観戦モードに入る。

 紗月はもらったペットボトルの蓋を開け、サイダーを一口飲みながら玄々に感想を呟く。


「義経がすごく強いのは知ってたけど、辰砂さんも強いのね」


 素直に戦いに見とれていると、玄々はサイダーを半分くらいまで一気飲みしたあとゆっくり教えてくれた。


「そりゃ戦闘訓練の教官だからねぇ。強いってーか、(うま)い、だな。内包する魂魄量的には実は私らのほうが多いんだ」

「へぇ……」

「簡単に言うなら格ゲーで弱キャラって言われてるのをあえて使って強キャラを倒す感じ?」

「一部の人にしか伝わらない説明をありがと」

「伝わったろぃ?」

「伝わったけどさ……」


 もう少し万人に伝わりそうな説明をしてくれてもいいのに。ただ、いつものことなので強くは言わない。

 

「けどさ、やっぱ骨系のちからを使った喧嘩ってかっこいいよなぁ」


 試合を眺めながら玄々が羨ましそうに呟いた。

 ちなみに試合は、蛇のような頭蓋骨をもつ巨大な骨を辰砂が作り出したところだった。あ、蛇に義経がパクッて食べられた。


「玄々って骨系の武器好きなの?」

「あの無骨な感じを残しつつも生物的な感じがね。私はああいった戦い方できないからなぁ。……かっこいいだろ?」

「……うん」


 確かに、骨を巧みに使った戦い方はすごくかっこいいと思う。

 ……思う、のだけれど。


「ただ、辰砂さんの戦い方はちょっと怖いかな」

「そうか?」

「うん。骨とかで戦うのは私もかっこいいなぁって思うけど、その……身体が裂けて出てきてるからちょっとグロテスクっていうか……」

 

 辰砂が骨で攻撃する際、たまに肉体の内側から出すのでちらっとではあるが赤色部分(・・・・)が見えてしまうのだ。血こそ出ていないし、紗月とてホラーゲームなどで耐性はあるものの、CGと生とでは不気味さは雲泥の差がある。怖いものは怖い。


「あー、初見じゃ刺激が強いか。あと、それ本人の前でいうなよ。それ聞くと……あ」


 玄々の言葉が途中で止まった。何かに気づいたらしい。

 玄々の視線を追ってみれば、そこには帰ってきたらしい辰砂とボロボロの義経が立っていた。たぶん試合が終わったのでこっちに合流しに来たのだろう。

 だが、義経は立ち止まって小さく頭を抱えていた。何か失言をしてしまったのだろうかと視線を下に移動させると、紗月は己の失敗に即座に気づいた。


 辰砂が硬直している。


 顔はいつも通りちょっと不気味だけど愛らしい微笑みをたたえているのだが、目が笑っていない。

 なんというか、完全に意気消沈(いきしょうちん)としている。


「辰砂……さん?」

「ん? ダイジョウブ、ダヨ。気にシナイ気にシナイ」


 完全に目が泳いでいた。絶対にダイジョウブではないと思う。


 だってすごい笑顔がひきつってるんだもん。 目もハイライトが消えてるレベルだし、なんか目が潤んできたっていうか体が小刻みに震え始めたっていうかめっちゃ涙溜まってきた。わーー! ごめーーん!!


「いや、辰砂さんの戦いっぷり凄かったっていうか初めて見たからすこしびっくりしたっていうかその……」

「ダイジョウブだよ、悪意がないくらいわかってル。初めてボクの戦いを見た人には、よく言われルからネ」

「ああ……ええっとその、ごめんなさい……」


 にっこりと笑顔でそんな風に許してくれる辰砂。でも涙目なのがすごく痛々しい。どうやら完全に凹んでいるようだった。

 紗月は慌てて立ち上がり、頭を下げる。もうひたすらに謝るしかなかった。


 ――こんなときどんな声をかけたらいいかわからないの……。


「やーい。紗月が泣かしたー。いーけないんだー」


 ……とりあえず、謎のポーズで私の周りを回って煽ってくる玄々に|コブラツイストをかけて締め上げておく。玄々がタップをしだしたけど、しばらくやめない。くらえこんにゃろう。


「ウーン。気味悪がられナイようにミントの香りする防腐剤入り石鹸使ったリ、戦ウ時もハリセン刀を使ってるんだケド、なかなか難しいネ」


 困ったように、そう語る辰砂。

 一人称が「ボク」だし、ツギハギの不気味な見た目からはわかりにくかったけど、辰砂だってちゃんと女性である。見た目を気にしたい気持ちは同じ女性として紗月にもよくわかるし、グロテスクって言われて傷つく気持ちもなんとなくわかる。

 だから、紗月はありのままの気持ちを伝えることにした。


「……私は人間だから、どうしても妖怪に対して怖いって感情を抱いてしまいます。でもそれは本能的な部分で怖いと思ってしまうのだと私は思います」

「紗月チャン……」


 紗月は、辰砂に静かに感じたこと話す。こういう時は無理に取り繕っても傷つけるだけだ。ちゃんと本心を話そうと思う。

 ついでに、ぽいっと乱暴に玄々を放す。あうっ、と玄々が床に倒れたけど紗月は無視した。


「それでも、辰砂さんを含めて御庭番の人たちには優しくしてもらってますし、怖いとは思っても不快に思ったことはありません。それに私も皆とは仲良くしたいと思ってますよ」


 しっかりと辰砂を見つめて紗月は言い切った。

 そんな紗月の言葉に辰砂は少し驚いたように目を見開くと、ちょっとツギハギで不気味だけどとっても愛らしい笑顔を向けてくれた。

 玄々は紗月の足元で倒れたままニカッと笑い、酒呑童子は紗月の後ろで小さく微笑むとゆっくりとお茶をすすった。


「ありがとう、紗月チャン。あとボクにも敬語じゃなくて普通に話しテくれると嬉しいナ」

「わかりま……じゃなくて、わかった。これからもよろしくね、辰砂さん」


 紗月と辰砂はそっと握手を交わした。

 辰砂の手はひんやりと冷たかったけど、不思議と嫌な冷たさではなかった。


 

 これからも、私はきっと沢山の妖怪と出会うだろう。その中にはきっと優しい妖怪だけでなく命を奪おうとする恐ろしい妖怪だっていると思う。

 けれど、私は妖怪を嫌いになることはないだろう。

 それは幸運にも、こんなにも素敵な友達に出会えたからだと思う。

 たまに変なことにも巻き込もうとする、謎だらけでおかしくて不思議な友達(おに)もいるけど。


 ――それでも、これからもずっとこの幸運に感謝していきたい。


 

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