邂逅(かいこう)
神凪駅。
田舎街とはいえある程度は発展している神凪町の中心あたりにある、わりと大きな駅。新幹線はさすがに乗ることはできないが、都市部である京都市内へは乗り換えなしの1時間足らずで行くことができる。
電車は30分に1本ほどのペースで準急がくる程度なのだが、もっと遅いペースで来る町もあるらしいし、利便性は悪くはない。
紗月は自動改札機に電子マネーカード『MANECA』を通し、駅の構内へと入る。構内は8月の半ばということもあり、そこまで人は多くはなかった。
「えーっと、次の電車は……」
紗月が駅のホームで時刻表を調べると、どうやらあと少しで次の電車が来るようだ。なので大人しく待っていることにする。
のんびりと待つ間、ふと見上げると夏らしい雲一つない快晴がホームの屋根と屋根との隙間から見ることができた。
なんというか、こうしてのんびりしてるのが久々のような気がしてくる。
4月からの4ヶ月があっという間に感じられた。思えばカリィ・カチュアに襲われて、禍津神が作り出した異界に巻き込まれて、昨日は怪異に襲われた。
今までも何度か変なものに付きまとわれたことはあったが1年に数回あるかないかだったし、年齢を重ねるにつれて段々と襲われる回数も減った。去年は1度も襲われなかった気がする。それが今年は濃縮され過ぎである。
ウソ……私の人生、波乱万丈過ぎ……?
冗談はさておき、この街になにかが起きているのか……とか考えたこともあるけど、たぶん玄々と友達付き合いを始めたのが原因のような気がする。元々事件は日常的に起きていて、今まではそれを知らずに過ごしていた。それが御庭番と繋がりができて浮き彫りになった。たぶんそれだけのことだろう。彼女は御庭番なのだから危険に飛び込まなければいけないのは仕方のないことなのだから。
これから平和になりますように、なんて淡い思いを抱きながら電車を待っていると電車がホームに入ってくるのが見えた。
電車の中は外から見てもわかるほどに空いており、田舎の夏休みであることを思い知らされる。ゆっくり座れるから別にいいけれども。
電車が止まり、扉が開いたので乗り込もうとすると、降りようとした人とぶつかりそうになってしまった。
「あっとと、すみません」
紗月は慌てて扉の脇に避けて道を空ける。降りる人が先なのはマナーである。じゃないと満員の時、乗るスペースがなくなっちゃうからね。
「ああ、ありがとう人間。俺も少し惚けていたよ」
そういって、長身の男性は電車から降りていった。紗月は男性と入れ替わるようにして電車に乗り込み、ふと感じた違和感が気になって男性の方へと振り返る。
しかし、青年の姿はどこにも見当たらなかった。
どこかおぼろげで、顔を思い出そうとしても、両手で掬い上げた砂が指の隙間からこぼれ落ちるように、時間が経つにつれてどんどんはっきりと思い出せなくなっていく。なんとも不思議な青年だった。
でも何か、どこか気になるような――何か気になったような気がする。何が気になったんだっけ?
――あれ? なんで気にしたんだっけ?
電車の扉が閉まる音に、紗月は我に返る。少しの間ぼーっとしていたようだ。
紗月は、出口近くの空いた席にさっさと座った。ここから電車で一本、ゆっくり揺られるだけだ。そしたらすぐに京都市内につく。
「修練所ってどんなとこだろう」
あのすごく強い御庭番たちが鍛える場所。考えただけでもワクワクしてくる。
さらに言うなら酒呑童子に直々に招待されたのだ。せっかくなのでしっかり楽しませてもらおうと思う。
「……あ」
そこまで考えて、ふとあることに気がついた。
「酒呑さん、待つの忘れて先に乗っちゃった」
あとで来ると言っていた酒呑童子をホーム内で待つつもりだったのに、紗月はすっかり忘れて電車に乗ってしまったのだった。
そして、おぼろげな男性との出会いも、すっかり忘れてしまっていた。




