一件落着
「まずは一段落、だねェ」
辰砂はいつもののんびりとした口調で、紗月たちの帰る後ろ姿を見送る。帰宅に関してはもう大丈夫だろう。玄々と天翼も彼らの様子を見守っているはずだ。
辰砂としては、なにか変なのに出会うかもしれないと危惧はしていた。だからこそ自分もこの作戦に参加して様子を見に来ていたのだ。
ただ、予想以上にまずいものに出合わせてしまった。我ながら不甲斐ないと反省する。
紗月との会話の反応を鑑みるに、精神的疲労はあるかもしれないが彼女はたぶん大丈夫だろう。
問題は他の少年少女たちだ。
辰砂が速やかに帰宅するように促したのも彼らの精神状態を心配したからだった。
特に肩に傷を負った少年はかなりまずい。会話を続けてなるべくパニックを引き起こさないようにしていたけど、一度精神科に診てもらったほうがいいだろう。
後ほどすぐに知り合いに連れて行ってもらえるよう連絡しておかなければ。
あとは……、と辰砂は一つため息をついた。
「さて、浮かれるのはいいケド自制しなきゃダメだヨ?」
「しかしあれはもう……」
「相手は妖怪化しかけていタとはいえ生成り、つまりまだ人間の範囲内だっタ」
「……」
「威力の加減もまだ会得してないのに、それをキミの銃で撃ち抜けばどウなるか、わからないわけじゃないダロウ?」
辰砂は振り返り、肩を落としたまま黙って俯く義経を見た。恐らく自分を見失っていたことを反省しているのだろう。
辰砂は、そのことを咎めるつもりはなかった。
義経の経緯も知っていたし、妖怪になってまだ数年と若い。さらには今まで自分自身とのつながりの記憶が欠如していた主がその記憶を取り戻したとなればこの喜び様は至極当然というところだろう。
とくに妖怪になる前はかなりの忠犬だったと聞く。ならば気分が昂揚し天元突破しても仕方がない。
ただ、まあ……
「気持ちはわかるケド、羽目を外し過ぎちゃダメ」
「……ああ、わかっている」
「ヤッパリ、そんなに嬉しかっタ?」
「俺がいない間でも健やかに気高く成長し、そのお姿で俺の前に現れた時から気分が昂ぶるのをずっと感じていた。無論名前を名乗っても気付かなかったことには多少落胆もしたが、俺には些細な問題ではあったし出会えた幸運のほうが大事だと思ったのだ。我が主は俺の想像以上に強い魂を持っていた。もはやあれは宝石と見紛うほどの輝き。まさに至宝とも言うべき輝きと強さ。先程もあれほどの恐怖にさらされながらも揺るぐことなく仲間を案じるなどさすが我が主。やはりあれこそが俺が生涯を掛けて守ると誓った主なのだ」
「あーうん。ゴメン。そこまでは聞いてなかったナ」
常に口数が少なかった弟子が饒舌に雄弁に語る光景に辰砂は、あー、君ってそんな感じの子だったのかー、と心の中で義経への認識を少し改めた。あと、そろそろ体に刺さったままの包丁は抜いたほうがいいと思う。
だが、これは悪いことではなかった。むしろ良い傾向だった。
他者との縁というのはそれだけで力となる。それは人間でも妖怪でも同じだ。
とくに妖怪というモノはその力の影響を受けやすい。
「ボクとしては、君が慎重に頑張ってくれるナラ別にいいんだけどね」
「大丈夫だ。何があろうと主は守りぬくつもりだ」
「キミ、話聞いてないよネ」
堅い決意を胸に闘志を燃やす義経を見上げながら、本当に大丈夫なのかと一抹の不安を覚える辰砂であった。
「あ、特別指導はやるカラネ?」
「ぬぅ……」
辰砂のダメ押しに、苦悶の声を漏らした義経であった。




