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肝試し

 8月某日。

 時刻は午前1時過ぎ。

 人は既に家路に着いて寝静まっている時刻。


 気深(きぶか)神社とよばれる神社の境内。その奥地に、4人の少年少女たちが集まっていた。

 カラスが数羽飛び去り、雰囲気がいっそう怪しくなる。

 鬱蒼と茂った木々の中、わずかにできている獣道のような道を、LEDライト片手にゆっくりと歩いていく。


「うほほぅ! やっぱこえぇな。なんだか寒気すらしてきたぜ。今日は普通に暑かったってのによ」

「気持ち悪ぃ声出すなよ。でもまぁテンションは上がるよな」


古武の謎の気持ちが悪い声に、山田が静かに嗜める。とは言っても、山田も浮かれているのかあまり強くは言わなかった。

 そんな男子2人の後ろを紗月と笹本の女子2人がついて行く。


「そういえば、結局目的はなににしたの?」


 笹本が不意に質問した。これは学校にて、あとで山田が決めると言っていたものだった。いくら無計画とはいえこれは肝試し。ゴールがなければ意味がない。


「おう。考えてたんだけどな、この森の奥に池があんだよ。なんでも昔の巫女さんが(みそぎ)に使ってたらしくて。今は使われてないらしいんだけど。んで、その池を写真でとって帰ってくるって寸法よ」


 ウキウキした様子でデジタルカメラを取り出す山田。カメラはかなり新品なようで、さらに一眼レフの高価なもののようだった。


「性能悪いのだと、いざ心霊写真とか取れた時にただのピンボケとか言われかねないからな。超性能いいやつにしてきたぜ」

「うわっ。いつの間に買ったんだよそれ。たっかそー」

「実際高いぜ。お年玉とかいろいろ貯金貯めてたんだよ。今年の正月に買った新品だぜ」


 自慢げに語る山田のカメラを、古武はしげしげと見つめた。古武はカメラには詳しくなかったが、よくテレビに出てるプロカメラマンがもってそうなカメラってことはわかった。


「それで、その池までは遠いの?」


 笹本は、カメラには興味なさそうに話題を切り替えた。実際どうでもよさそうだった。そんなことは気づかずに、山田は普通に質問に応える。


「えーっとそうだなぁ。この道沿いに歩いて30分くらいだったかな」


 インターネットで調べた地図を思い出しながら、山田は応える。


「なら、もうそろそろ見えてきてもおかしくないわよね」


 そして、スマホの時計を見ながら笹本が疑問を口にした。笹本の言葉に、全員慌てて時計を見た。

 時計は午前1時35分を指していた。出発が1時前後だったため、約30分は経ったことになる。もし30分程で到着なら、確かに水の音などが聞こえてもいいはずだが。


「あー。ちっとゆっくり歩き過ぎたかな」

「どこかで道間違えたんじゃないか」

「んなこたねぇよ。道はずっと一本道だったし、ちゃんと道から外れてもない」

「んじゃ道の長さ間違えたとか?」

「いや、ちゃんとネットじゃ30分でつくって書いてあったぜ」


 笹本の疑問から山田と古武が少し言い争いを始めてしまった。心なしか声が少し震えてる気もする。少しずつ大きくなってくる二人の争い声。


――ぎぎぎっ


 その二人の声は、不意に聞こえた軋む音で唐突に止んだ。なにか、縄が軋むような音が聞こえたのだ。4人は、恐る恐る周囲をライトで照らす。

 そして、山田のライトが、木々の間に見える何かを照らしたのだった。


「な、なんだあれ……」


 木々の間に、左右に小さく揺れるものがあった。それは小さな人影にも見えた。山田の声に、ほかの4人もライトで照らす。


 木の間にあった人影はロープでつながっていた。頑丈だとひと目でわかるほどの太いロープの先に人影がぶら下がっており、その人影が静かな森の中で小さく左右に揺れているのだった。

 そして、その頑丈なロープが巻き付いている場所は――



 首だった。



「く、首吊り……」


 誰かの声が呟いた聞こえた。4人のうちの誰かがつぶやいたのだ。目の前の光景が鮮烈すぎて、もはや自分か誰かが喋ったことすらわからなくなっていた。

 4人全員、死体をみるなど初めての経験だった。誰ひとり、恐怖で動くことすらできない。

 そんな4人が見ている最中、突然ロープがちぎれ、死体がぐちゃっと嫌な音を立てて落ちた。


 そして――


「あ、アア……ぎギギギ……」


 死体特有の青白い腕が持ち上がり、地面を掻いた。


「アギ……ぎ……ニンゲン……うがー」 


 そして、死体は突然声をあげ、地面を這いずりながら4人に近づいて来たのだった。



「「「うわあああああああああああああああああああああああああああ」」」



 辛うじて悲鳴を上げた3人は、なんとか我に返り駆け出した。もはや、道から外れてしまったが気づかない。とにかく全力で逃げた。

 目の前で首吊り死体を見た。そしてその死体がいきなり動き出しこちらに向かってきたのだ。混乱しても仕方がない。ただひとりを除いては。



 青褪めた顔で逃げていく4人をゆっくり見つめていた死体は、視界から見えなくなるとゆっくり立ち上がり、自分の体についた泥を軽くはたいて落とす。

 そして、腰につけたポーチからスマフォを取り出した元・死体は、電話をかける。


「あー、もしもシ? 僕だヨ。うん、計画通り異界に引き込んデ脅かしておいたヨー。もう異界は解除したかラ、もうすぐソッチ行くと思う。あいー。またあとでネ」


 そんな風に、元・死体は、独特なイントネーションでのんきな電話をしたのだった。

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