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妖怪卓球

「さあ、いくよわんちゃん。首輪を付けない悪い子にはお仕置きだ」

()かせ阿呆烏(ばからす)。今日こそ貴様に引導を渡してくれる」


 天翼と義経が睨み合う。互いの間に見えない火花がバチバチと散っていた。卓球台を挟んで。


「さあ、第一回卓球頂上決戦。司会は私こと白銀玄々、解説には妖怪卓球研究の権威でもある紫朔さんにお越しいただいています。よろしくお願いします」

「うむ、よろしく頼む」


 卓球台から少し離れたところで、玄々と紫朔が謎のやりとりをしていた。


「では、互いに正々堂々戦ってください」


 卓球台の間では審判&点数管理のためにノウェムが立っていた。ノウェムの術でホログラムのように空中に点数が表示されている。

 そんな光景を、紗月はただ静かに傍観していた。もはやどこからツッコミを入れていいか迷っていた。

 そして今、そんな紗月の心境を完全に無視して、(かなりどうでもいい)戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。



「僕から行くよ」


 天翼が静かに球を持ち上げた。

 その瞬間、一迅の風が義経の横をすり抜け、わずかに遅れるようにコッという卓球台に球がぶつかる音が聞こえた。

 天翼は不敵な笑みを浮かべ、義経は驚愕に目を見開いていた。

 すかさず、玄々の実況が入る。


「ああっと、天翼選手の華麗なる神速サーブ炸裂! 目にも止まらぬ速さです。あれは反則じゃないんでしょうか?」

「妖怪同士の卓球じゃからのぅ。球に結界を張って壊れないように保護し、それを音速で打ち出したのじゃろう。とんでもない結界操作の精度じゃ。つまり実力なので反則ではないようじゃな」

「なるほど、超技術の無駄遣いってやつですね!」


 玄々の実況に、すかさず紫朔が解説を入れた。傍から聴いていれば完全に馬鹿にしているようにも聴こえるが。


「どうしたわんちゃん。このままサービスエースだけで決めちゃうよ?」


 再び天翼が静かに球を持ち上げ、一迅の風が吹き抜けた。また先程と同じようにコッっという球が卓球台を跳ねる音が響く。


 だが、次に目を見開いたのは、天翼の方だった。


 球は、天翼の後ろに転がっていた。音速を超える球を、義経が打ち返したのだ。


「初めは驚いたが、なんということはない。その速度は既に見切った」


 義経はぎらりと睨み、構えた。

 実力は互角。 


「なら、もっと速度を上げてあげよう」

「ならば、さらに反応速度を上げれば良いだけだ」


 次の瞬間、凄まじいラリーが開始された。




 常人には反応できないほどの球の速度。


 それに反応し打ち返し合う義経と天翼。


 互いに譲らぬ点数差。


 白熱する玄々の実況。


 必死に解説する紫朔。


 冷静にジャッジするノウェム。


 悟りを開いたような(いろいろあきらめた)瞳で眺める紗月。


 一進一退の攻防を繰り広げていたが、妖怪とはいえ集中力には限界がある。

 わずかに集中を乱した天翼に、すかさず義経はスマッシュを打ち込む。球は卓球台の隅ギリギリに当たり、天翼の目の端で跳ねた。


 ――目で追っては間に合わない。


 一か八か、天翼はラケットを持った手を伸ばした。

 果たして、ラケットに球が当たる感覚を天翼は感じた。そのまま打ち返すために力を入れる。


 その瞬間、天翼は己の失敗を悟った。


 ラケットの表面を何かが移動する感覚。

 何事かと天翼が目を走らせれば、球がラケットの表面を転がるのが見えた。

 義経は強烈な回転をかけていたのだった。

 もはや天翼が拙いと感じる暇すらなかった。


 コンッコンッ――と、球が床を跳ねる音が辺りに木霊する。


「俺の……勝ちだ」


 そう、義経が静かに告げた。




***



「くそぅ……もう少しだったのに」


 談話室で打ちひしがれる天翼。よほど悔しかったのか机に突っ伏している。

 謎の超次元卓球を終えた紗月たちは、今はまた談話室に集まって話している。夜もだいぶ更けて来た為か、今はほかの客は見当たらない。


「まあ、仕方ないさ。今回は義経の勝ちだね。また今度やればいいさ」


 そんな天翼の隣で玄々がそっと慰めていた。

 どれだけ悔しかろうと結果は覆らない。それでも、やはり悔しいのだろう。天翼はものすごく凹んでいた。


 そこへ、そっと義経が近づいてきた。

 いつの間にか、自販機で買ってきたのだろうペットボトルを天翼に差し出す。


「貴様にしてはいい球だった」

「義経……」


 天翼はゆっくり顔をあげ、ペットボトルを受け取った。

 少し目を閉じて何か考えたようだが、すぐに目を開け義経を見つめる。 


「ふっ……次は負けないよ、義経」

「望むところだ、天翼」


 そんな風に互いに不敵に笑う2人。

 そんな熱い友情(?)を交わす2人を紗月はそっと眺めながら思うのだった




 ――結局、なんだったんだろう。


 その疑問は、永遠に解決することはなかった。

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