表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/79

禍津神


 ドガンッ

 と、とてつもない衝撃音と共に、刀身が弾かれる。

 地を砕き、弾丸のように飛び出した玄々が、怪異の振るった大剣の刀身を真正面から殴り飛ばしたのだ。

 相変わらずの頼もしい破壊力である。

 その様子を目の端で確認しつつ、紫朔は呆然としている人間の体に糸で絡めて引っ張る。


「このたわけ。死にたいのか人間」


 自分の付近まで引っ張った人間(やくたたず)を紫朔は一喝した。


「き、貴様ら。く、首を突っ込むな妖怪ッ!」

「ふん、口は利けるようじゃのぅ。そこまで睨む元気があるなら結構」


 紫朔の糸が体に巻きつき、引っ張られて倒れたままの姿勢で威嚇(いかく)してくる隊長らしき人間(でくのぼう)

 虚勢以外のなにものでもなかった。

 先ほどの戦闘や、警察の特殊部隊のような身なりから、彼らの素性はおおよそ察しがつく。

 "陰陽隊(おんみょうたい)"だ。

 道術や陰陽術、ときには対妖怪用に開発された銃火器類なども用いて怪異を討つ、人間たちの組織だった。

 やっていることこそ御庭番と似てはいるのだが、彼らは『妖怪=悪』と考える者たちが大半のため、御庭番とはかなり仲が悪い。

 紫朔自身も、仲良くする気など全く無かった。


「彼奴の相手は、わしら御庭番に任せい。ぬしら陰陽隊はさっさと巻き込まれた阿呆どもを保護しに行け」

「妖怪の指図など――」

「なれば、あれに混ざるか?」


 半ば意地になってるのだろう人間の言葉を遮るように、紫朔は前方の激戦を指差す。

 怪異から繰り出される2本の巨大な大剣と強力な拳による連続攻撃を、時に素早く避け、時に拳で弾き返しながら玄々が戦っていた。

 妖怪の目から見ても、次元が違う戦いだと感じる。

 空振った大剣の衝撃が地面を砕き、ぶつかり合う拳が空気を震わせる。

 妖怪である紫朔が一目でとてつもないと感じるのだ。人間ならば尚更だろう。

 紫朔が人間をちらりとみると、案の定顔面蒼白といった様子で戦いを見ていた。


「……わかったのならば、身の程を(わきま)え部下を連れてここから離れるがよい。あれはただの怪異ではない、"禍津神(まがつがみ)"じゃ。人の手には負えぬゆえ、御庭番に任せるがよい」


 紫朔は冷徹(れいてつ)に言い放つ。

 そう、あれはただの怪異ではなかった。


 人の怨念の集合体。

 魂が歪んだ妖怪の成れの果て。

 呪いの化身。

 人間と妖怪の共通の脅威。

 全ての生命を喰らうモノ。


 禍津神(まがつがみ)だ。


「禍津神……?」

「なんじゃ知らんのか。勉強不足め」


 紫朔は、軽蔑の眼差しで人間を睨みつける。


 禍津神とは、いわば荒神。

 人が死ぬ時に強い恨みや未練を持っていた場合、もしくは例え生きていたとしても、精神(こころ)が死ぬ、何らかの強力な呪いにかかったたりするなどで魂が歪み変質してしまった場合、希に生まれてしまうものだった。

 だが、魂が歪むのはなにも人だけではない。それは妖怪とて例外ではないのだ。


 彼ら禍津神は、恨みや呪いを無理やり晴らすため、様々な呪いをその身に宿して人や妖怪を見境なく襲う。

 その力たるや、災害に等しい。

 そんな神域に一歩踏み込んだ存在に、人間が敵う道理などあるはずもなかった。

 例え妖怪だとしても、1体で相手をするには荷が重過ぎるほどである。

 現在、見事に渡り合っている玄々が異常なのだ。


 とはいえ、勉強不足の人間(ろくでなし)に逐一教えるほど、紫朔はそれほどお人好しではないし、第一そんな暇もない。

 ここは戦場だ。そんな戦場に無知で飛び込んでくる方が悪いのだ。

 玄々が彼らを助けろと言ったからこそ助けただけであって、紫朔にとっては生きようが死のうが関係ないし興味もなかった。

 もはや何も言えなくなったのか、蒼白で黙ったままの人間から目を離し、紫朔は周囲を見回す。

 まだまだ倒れている陰陽隊員は多い。

 先ほどの咆哮による衝撃波で、甚大な被害を(こうむ)ったようだ。なんとも脆弱(ぜいじゃく)なものか。

 紫朔は耳にそっと手を当てた。正確には耳についている小型の機械らしきものに触れた。

 そのまま口を開く。


「ノウェム。こちらは既に禍津神と交戦を開始しておる。周囲の負傷者はあと何人じゃ?」

『現在、スキャン中です。少々お待ちください』


 ノウェムの声が、耳の機械から応えた。

 紫朔はノウェムの術の利便性に、内心感嘆(かんたん)していた。

 ノウェムは、ソフトボール大の大きさの球体を複数飛ばすことで周囲を偵察できる。

 今の紫朔の位置からでは見当たらないが、たぶん今も飛んでいるのだろう。何といったか、ドロ……なんとか。

 また、この耳につける小さな機械によって、ノウェム相手限定ではあるが会話も可能なのだ。

 本来、人間が作った機械の類は異界内部では正常に機能しないが、これらは魂魄を込めて作成されてるためか、内部に充填された魂魄(こんぱく)が尽きない限り、例え機械であっても異界内でも機能してくれる。

 これらは全てノウェムの手作りだ。

 ただ、こういった偵察・補助能力に特化している為か、戦闘はほぼ全くできない。

 まあ、戦闘は自分や玄々に任せればよいのだ。なにも問題はない。


『スキャン完了。確認できた軽傷者は22名、重傷者7名、死者はまだ居ません』

「うむぅ、多いのぅ。わしが助けねばいけない者のみ、居場所を伝えてくれんか」

『了解しました。救助が完了した場合、小型通信機(インカム)にてご連絡ください』

「いんかむ……? ああ、この耳のちっこいヤツことじゃな」

『はい、健闘を祈ります。通信終了(アウト)


 唐突にノウェムの言葉は切れた。電話が終了したのだろう。

 たしかに、ノウェムの持つ独特な力の数々はかなり便利だろう。

 しかし、紫朔は苦手だった。


「相変わらず、専門用語の多いやつじゃ。もっとわかりやすくできんのかのぅ」


 紫朔は、ため息混じりに小さな悪態をつく。

 ノウェムはよく、謎の言語を発する。また、使い方が難しい高度な道具を作るのも苦手だった。

 もっと単純にして欲しいのだが。

 いや、いまはそんなことを考えている場合ではない。

 紫朔は、すぐさま意識を臨戦状態に切り替える。

 玄々の方は、まだ何とか戦闘を続けているが、相手はあの禍津神だ。かなり圧されているようにも見える。彼女だけではいつまでもつかわからない。

 すぐにでも助太刀に行きたいが、周りに怪我人が居ては、戦闘の余波で更なるけが人が出てしまう。これでは玄々が本領を発揮できない。

 なんとも拙い話か。これだから人間は。


 紫朔は小さく舌打ちをすると、他の負傷した陰陽隊員の救助に向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ