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確信

 争いは同レベルでしか起きない。

 なぜなら一方的な戦いになるからだ。


 どこかで読んだ本の一節だった。たぶん。

 しかし、目の前の光景をみると身に染みて感じる。

 少なくとも紗月には、そう感じていた。

 御庭番というのは本当に強いんだなぁと、紗月は改めて実感する。


 天翼から放たれた膨大な数の火球は、雨のような光弾を打ち消し、相殺する。

 それでも減ることはない圧倒的な弾幕量で、化物たちを蹂躙(じゅうりん)していた。

 弾幕濃いよ、どうなってんの。

 相殺されなかった火球のひとつが1体の化物に命中し、爆発四散する。

 それを皮切りに、1体また1体と命中、爆散していく。

 天翼と初めて会った時はいきなりナンパされたこともあり若干苦手だったが、あの腕組みして火球の弾幕を放つ姿に、今は頼もしさすら紗月は感じていた。

 でもバラはいらない。しかもよく見たら造花だし。


(あ、そうだ。雪音さんは……)


 天翼と義経が来てくれたことで、少しづつ落ち着いてきた紗月は、気を失っている雪音を見る。

 自分を庇ってくれた雪音は、まだ目を覚ましそうにない。

 天翼が瞬く間に治療したとは言え、その治療跡はとても丁寧だった。止血もしっかりしてあるのか、丁寧に巻かれた包帯にはわずかな血しかついていない。

 傷口が悪化してる様子も見られない。


(よかった……)


 紗月は安堵のため息をつく。

 こんな時、妖怪の生命力というのは頼もしいと思う。この怪我を人間が負ったならば、もっと大変なことになってたのだろう。

 とはいえ、例え妖怪でも怪我はして欲しくないのだが。

 紗月は、雪音から目を離すと、今度は義経の方に目を向ける。


 こちらもこちらで、戦闘は凄まじかった。

 拳銃ってなんだっけ、と疑問が浮かぶほどの接近戦だった。

 義経が相手をしているのは、初めに紗月たちに襲いかかってきたタイプの化物だ。だから否応無しに接近戦になるのは仕方ないとして、なぜ自ら接近戦に持ち込むのだろう。

 しかし、紗月はそんなことよりも、もっと気になることがあった。


 義経の戦い方だ。


 紗月が小さい頃から大好きなゲームの主人公にそっくりなのだ。ただ、あっちは近距離では剣を使っていたけれど。

 あっちが悪魔も泣き出すレベルならば、こっちは妖怪も泣き出すレベル。そして、あんな風に自分を守ってくれる姿にも紗月はなんとなく懐かしさを感じていた。

 彼が犬頭だからなのだろうか、昔飼っていた大型犬を思い出す。

 幼い頃から一緒に育ってきた愛犬だった。

 数年前に老衰で他界してしまったが。


 確か、あの子の名前は――。


「やぁ、大丈夫だったかい?」

「ふぁえ!?」


 思い出すことに夢中になっていた紗月は、突然天翼に声をかけられて変な声を上げてしまった。

 いつの間にか戦闘は終了したようだった。

 義経も、こちらへ歩いてくるのが見える。


「怪我とかないかい? 一応流れ弾が当たらないとこで戦ってたはずだけど、もしかしたら気づかないうちにどこか負傷してるかもしれないから手を出して」

「え……あ、助けてくれて……ありがとうございます?」

「お安い御用さ。ああ、それからここにいると危険だし僕が責任を持ってそこの女性と君を異界の外まで送っていくから安心してね。さあ僕に掴まって――」

「おい、貴様。どさくさに紛れて手を掴むな。放せ」


 天翼の勢いに流され、いつの間にか手を握られていた。

 顔がものすごく近かったが、義経が紗月から天翼を引き剥がす。


「このような一大事にまでくだらんことをするのか、この馬鹿者が」

「何をするんだ僕はただ彼女が心配なだけでいだだだだだだ!?」


 引き剥がすついでに義経は、天翼の腕を捻り上げがっちり関節を極めた。所謂アームロックだ。

 見事なまでに、しっかり極まっていた。それ以上はいけない。……いやいや待って折れるから折れるってば。

 天翼が軽く涙目になってきたので、慌てて紗月が止めに入るのだった。

 紗月が義経をなだめたあと、今後について相談する。


「このあと、どうするの?」

「ふむ、とりあえずは貴女たち2人を異界から連れ出さなければ」


 義経が紗月の質問に答える。


「いや、やめたほうがいいね」


 しかし、義経の提案を天翼は否定した。


「どうした? 何かあるのか」

「うん、今は特に難しいと思う。異界の中は降ってないけど、外の天気は大荒れだ。突風すら吹いてる。そんな時に異界の外へ連れ出すのは得策とは言えない」


 先ほど言ってることが違う。

 だが、普段とは違う真面目な天翼の意見に、義経は反論せず聞き入れていた。

 いつもは言い合いしてるのに、こういうときはちゃんと協力している。実は二人って仲いいんじゃ……?

 紗月は、なんとなくそんな場違いな感想を抱いていた。

 その間にも、二人の相談は進んでいく。


「ふむ、ならばどうする?」

「危険かもしれないけど、このまま連れて行くのが得策かなって思う」

「ぬう……」

「ま、待って」


 2人で話が進んでいく前に、紗月は慌てて会話に割って入る。

 別について行くのは構わない。不思議と絶対守ってくれるという信頼も感じている。

 だが、それよりも紗月は聞きたいことがあった。


「外の天気が大荒れって……どういうこと? だって天気予報ではそんなこと――」

瘴気(しょうき)の影響だよ」


 紗月の言葉を遮るように、天翼が答える。


「異界を展開しているとはいえ、外の世界――現界(げんかい)とは地続きなんだ。この異界を作り出した術者が強大であり呪われているほど、瘴気は外に溢れ出す。漏れ出した瘴気は質を変えて何らかの災害を引き起こす。今回の嵐がまさにそれだね」

「瘴気……」

「今回の大規模な異界。漏れ出した瘴気の強大さ。そして先ほど討伐した膨大な数の亡霊たち。これで確信した」


 天翼は、空を睨みつける。

 まるで事実を認めたくないような、自分の考えが間違いであって欲しいと願うような、険しい表情で告げた。


「今回の怪異は、"禍津神(まがつがみ)"だ」

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