表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/79

侵食

「憂鬱よねー」

「あの……一応お客さんいるんですし」

「いいじゃない? どうせ紗月ちゃんだけしか居ないし。ほかの客が来たら愛想よくするわよ」


 レジカウンターに頬杖をついて呑気にしているコンビニ店員に、紗月は苦笑した。

 紗月は今、家の近所にある行きつけのコンビニにいる。

 家から歩いて約5分強の距離にあり、幼い頃から通っているので店員とはもはや顔なじみだ。

 普段はお菓子などを買うだけだが、今日は晩ご飯用のお弁当を買うために来ていた。

 とは言うのも、実は親が出張のために昨日から2、3日家を空けるからだった。

 料理くらいできればいいのかもしれないが、紗月は家事の類が苦手なのだ。

 大丈夫、そのうち覚える。たぶん。


「この大雨じゃ、ろくにお客も来ないし。全部凍らせてやろうかしら」

「雪音さんって、そういうのできるんですか?」

「ムリ。っていうかできたとしてもこんなの凍らせたら雹になるわよ」


 怠慢なコンビニ店員こと雪音は、雪女だった。

 そして紗月の友人のひとりでもある。

 よくよく考えると、自分って人間の友人の方が少ないんじゃないだろうか……。

 ちょっと虚しくなったので、紗月は考えないことにした。


「それよりさー、紗月ちゃん」

「なんですか?」

「彼氏できた?」


 唐突な話題の振り方に思わず盛大に吹き出してしまった。

 なにを言うのかこの人は。


「いきなり何の話ですか!」

「もー、ウブなんだから。で、できた?」

「できませんよ。悪いですか?」


 紗月はじろりと雪音を睨んだ。以前にもこんな話題を振られたことがある気がする。中学生ぐらいの時だったか。

 この恋愛オタク(ゆきね)さんという人は、色恋沙汰が大好きらしく定期的にこういった話題を振ってくる。


「悪いか……ですって? 悪い! んな若いのに恋愛しないだなんてもったいない! いい? 人間ってのはね、一生はとっても短いの。特に学生生活ってのはとっても貴重なのよ。3年間なんてあっという間。青春よ、セイシュン! 命短し恋せよ乙女ともいうでしょ? 10代20代の時間はあっという間なんだから。30代になると中々恋愛するのは難しいの。いやでも人生経験豊富な年齢でもやっぱり恋愛はしてもいいのよ? なにせ愛に歳なんて関係ない。恋は心も体も活性化せてくれる。健康にしてくれるの。生涯一生恋愛よ。いくつになっても。ね!」


 長い。

 ものすごい早口で熱弁する雪音。

 紗月は、言ってる意味の半分も理解できなかったが、とりあえず熱意は伝わった。

 しかし、そうは言っても自分はまだそういったものに興味はないのだ。

 どちらかというと友人と遊びたいという欲求の方が高い。

 まだ自分が若いからなのだろうか?


「まあ、善処します……」


 必然とそんな答えしか返せなかった。


「ま、無理には恋愛はしなくてもいいけどね」


(……結局どっち?)


 とりあえず心の中だけでツッコミを入れる。

 このあたりは、他の妖怪と対応は変わらない。

 つまるところ、つっこんだら負けなのである。紗月はいままでの経験から、そう学習していた。とはいえ、この程度なら紗月にとってはまだ平気な部類である。

 もっと自由な――自由過ぎる人知ってるし。

 そんな自由過ぎる妖怪たちが、紗月は好きなのだった。


 その後、紗月は雪音とたわい無い話をすることにした。つまりいつも通りの世間話。

 楽しい会話というのはあっという間に過ぎるものだ。気がつけばだいぶ時間が経っていた。


「じゃあ、私はそろそろ帰りますよ」


 談笑もほどほどに、雨も強くなってきたので帰る事にする。

 連日の大雨で警報すら出ている地域もあるほどだ。

 酷くなる前に帰らなければ。


「あー、もうちょっとお話しない?」


 出口に向かって歩こうとした紗月を、雪音は呼び止めた。

 なんだか焦っているような声のかけ方だったけど。


「どうかしたんですか?」

「いや、ほら。今雨酷いし」


 そうやって雪音は外を指差す。

 確かに雨は強くなってきているが、それでもまだ大丈夫なほどだ。

 傘も持ってきているし、今ならまだ危険無く帰れる。

 特に暗くなってからではもっと危ないだろう。

 ただ、紗月は雨のことよりも様子がおかしい雪音の方が気になった。


「どうしたんですか? なんだか様子がおかしいですよ」


 紗月の質問に、少し困ったように頭を掻く雪音。

 逡巡(しゅんじゅん)するように暫く視線を泳がせていたが、ため息を一つ吐くと、口を開いた。


 その時だった。


 突然、雪音があらぬ方向を睨みつけた。

 まるで、その視線の先にとてつもない邪悪なものが現れたかのように。


 そして、ズシンッという地響きと共に、景色が歪む。

 棚から商品が消え失せ、壁や天井はひび割れ、蛍光灯は砕け散る。

 全てが書き変わり、侵蝕されていく。

 コンビニだった辺りは、瞬く間に廃墟と化してしまっていた。

 この感覚を、紗月は前にも経験していた。


 それはまぎれもなく"異界化"だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ