雨空
神凪町の街中にあるショッピングモール。
かなり大型であり、駅の近くということもあって、雨が降る平日でも活気に満ちている。
その屋上に腰掛け、雨に打たれている人影が1つ。
街を眺め、足をぶらぶらと揺らしながら、玄々は小さくため息をついた。
あれから調査を始めて、既に3日が経っていた。
御庭番だけでなく、人間の警ら組織――つまり警察も動いているが、未だ手がかりさえ見つかっていない。
そんな状況に玄々は、
「飽きた」
飽きていた。
盛大に飽きていた。
眼は死んだ魚の目のように曇り、街の方に向けているだけで焦点すら合っていない。
やる気という空気が抜け、萎んだ風船のようだった。
正直、玄々はこういった調査は苦手だった。
派手で分かりやすい喧嘩と違って、地道で単調な調査というのはやる気が起きない。
ただ、少し前まではもうこの街にはないんじゃないかとさえ思えたが、今の玄々にはまだこの街にあるというある種の確信を持っていた。
まあ、それとこれとは話が別だが。
やる気が起きないものは起きないのだ。しかたなし。
雨にでも打たれていれば気分が晴れるかと思ったが、特にそんなこともなかった。
ただただ服がびしょ濡れになっただけだ。
……これはこれでちょっとセクシーじゃないか?
「あのぉ……姐さん」
「ぁあ?」
「俺ら……帰っていいっすかね?」
そんな風に玄々が思考を遊ばせていると、数人の男たちが玄々に恐る恐る声をかける。
彼らは皆、人に化けた妖怪であり、既にボロボロだった。
目の周りや体中に青あざを作り、頭にたんこぶを作っている者もいる。
見ていて痛々しい姿だった。
そして犯人は玄々だった。
「あー、かまわないよ。ロクな情報持ってなかったし」
「あの……イキがってすんませんした……」
「ああ。喧嘩吹っかけるのもほどほどにな」
すごすごと解散していく妖怪たち。
調査のために街を練り歩いていた玄々は、彼らに三下臭がしっかり漂う文句で喧嘩を売られ、そしてあっさりと返り討ちにしたのだ。
玄々は、ついでに何かいい情報がないか聞き出したのだが、特にこれといった話が聞けず、アテが外れてやる気を失ったのだった。
まあ、多少暴れることができたのは良かったが。
しかし、なにも情報が得られなかったわけではない。
多少暴れたことによって玄々の中にあった疑惑が確信に変わったのだから。
(――暴れ足りない)
普段なら少し暴れることができれば満足するのだが、今回は酷く物足りない。
おかげで、抑えなければやり過ぎてしまうところだった。
先ほどの男たちもそうだった。玄々が殴り倒すまでは随分と気性が荒かった。
なんだか嫌な予感がする。
「何を怠けている」
悶々と考える玄々の横に華麗に着地を決めた犬顔の青年が、声を掛けた。
「よぅ義経、よくここがわかったな」
「雨で匂いが消えかかっていたがな。お前の匂いは分かりやすい」
「おー? 臭うか? 乙女に向かって臭いとは、さすがに私も傷つくぜー」
「ならば香水でも付けるか?」
「遠慮しとくよ」
義経のいつもの淡々とした軽口に、玄々は苦笑交じりに答える。
玄々は横目でチラリと義経を見ると、また視線を街の方に戻す。
「こんな場所で何をしている? 捜索をしているようには見えんが」
「飽きた」
「いつも通りか。貴様はもう少しやる気をだせ」
「だって飽きたんだから、しょうがないだろぃ?」
「貴様は子供か。駄々をこねるな」
「晴れたらやる気出すさ」
いつも通りの呑気な返事を返す玄々。
そんな様子に、義経は呆れもせず淡々と言葉を続ける。
「……紫朔が運び屋を見つけたが」
玄々から目を離し、義経は街の遠くを睨む。
「もはや猶予はなさそうだぞ」




