曇天
6月、この季節になるともう梅雨入り間近だ。
ボサボサの黒髪をぼりぼりとかき、どんよりと重たく伸し掛るような曇り空を見上げながら、彼――凸守真尋は思った。
場所はとある港の倉庫。先程まで、ここでは麻薬などの密輸が行われていた。
とある知り合いから情報を仕入れ、結果、ブローカーやら売人やら全部まとめて10人くらいを逮捕するという大捕物になったわけだ。
明後日辺り、ニュースにでもなるんじゃないだろうか。
現在は、鑑識官が色々調べてくれており、自分は邪魔にならないように外で一服中というわけだ。
「凸守警部」
3本目の煙草に火を付けようと思い100円ライターと格闘していると、部下の一人がこちらに歩いてきた。
「警部補、な。毎度言ってるけど」
「でも今回だって大手柄じゃないですか。そのうち昇進するんじゃないかって俺らの中でもっぱらの噂ですよ」
「やめとけやめとけ。俺は元々上に立つの苦手なんだっつーの」
なぜか嬉しそうに語る部下。何が嬉しいんだか。
もともとこの事件だって上司からの指示で捜査していたものだし、正直言うと上司に指揮を取ってもらいたかったのだ。
(報告しても、あいっかわらず全く信用してない様子だったけどな。あのジジイ)
まあ、いつもの知り合いからの情報なのだ、信用しなくて当然か。
今回もきっとうまくいけば自分の手柄にして、失敗したなら全部俺に押し付ける気だったのだろう。毎度のことだ、もう慣れた。
「で、鑑識からの報告があるんじゃないのか?」
「ああ、そうでした。恐らく警部……補のお目当てのものじゃないか、と」
「え、マジで見つかったのか?」
事件が誰の手柄とか、昇進だとかよりも気になっているとあるブツの存在。
知り合いが今回の事件の情報を自分に与えたのも、これを探させるためなのだ。
「詳しく聞きたい。案内してくれ」
「はい、こちらです」
部下に連れられて、倉庫の中に入る。
倉庫の中はそこそこ広く、刑事ドラマとかに出てきそうな感じの廃倉庫だった。
確かに人目につきにくいが、ここまでお決まりな感じでされると若干コントにすら感じられる。
他の鑑識官の邪魔にならないよう避けながら奥に入ると、1人の鑑識官が古そうな、小さな木箱を持って待っていた。
小さな箱は、古そうではあるがかなり豪華そうな木箱で作られており、箱の表面になにやら達筆な字で文字が書かれている。だが、肝心の文字は掠れてしまっていて酷く読みづらい。
両……伯……難……?
「お待ちしておりました、凸守さん」
「それが、例のブツか」
「はい、恐らく。ですが、その…」
なぜか歯切れが悪い。
訝しみながら、凸守は鑑識官に詳しく事情を聞く。
「何かあったのか? 呪いでもかかったか?」
「いや、そんな非科学的なものはなかったです」
「じゃあなんだ」
ぶっきらぼうに訊ねると、鑑識官は口を開いた。
「……ないんです」
「なに?」
鑑識官は、震える手で小さな木箱を開ける。
「中身が……ないんです」




