迷宮探索
周りを見渡せばレンガが積まれた壁。
そして材質もわからない真っ白な床。
上を見上げれば、墨をこぼしたような真っ黒の空間。
……どこ? ここ。
「どうやら、異界に巻き込まれたようだなぁ」
「唐突すぎない? そんな簡単に巻き込まれるもんなの?」
「月1回くらい」
「割と結構な頻度」
紗月と玄々は、街中を哨戒任務と称した散歩を行っていたところ、いきなり別空間へと巻き込まれてしまった。
玄々によるとここは異界のようだった。
正直、唐突過ぎて意味がわからない。
しかし、こんな謎の通路とかどっかで見たことあるような……。
「……はっ、これは!」
突然、玄々が声をあげた。
「玄々、どうしたの?」
紗月が玄々の方へと振り向くと、
「見てくれ、紗月。武器だぜぃ、武器」
玄々はなぜか盾と両刃の剣を持っていた。喜々としてこっちに向けて掲げている。なんでそんなに嬉しそうなのか。
「別に玄々には武器いらないでしょ。っていうかどうしたの? それ」
「ああ、ここにあったんだよ。色々あるぜぃ。紗月は何がいい?」
玄々が自分の後ろを指差すと、木箱や樽の中に槍や斧、剣や弓など様々な武器が入れてあった。
紗月は、その武器箱を一瞥すると首を横に振った。
「どれも扱えないからいらない。そもそもなんでそんなところに武器が……」
「なんでって……ダンジョンだから」
「……え?」
なにを言い出すのかこの褐色鬼は。
「だからさ、ダンジョン攻略には武器が必要だろう?」
「ごめん、話が見えない」
「刀ないかなぁ。私、刀の方がしっかりめに扱えるんだよなぁ」
「たまに思うけど、玄々って話聞かないよね」
ゴソゴソと木箱を漁る玄々を、紗月は静かに眺めた。
どっちかっていうともはや諦めのような感情で眺めた。
――5分後。
「ああ、あったあった刀」
「……あったんだ」
木箱の奥の方に手を突っ込んで、なにやらゴソゴソしている玄々。
というか、そんなに木箱の底深いのだろうか。ほかの武器の柄が普通に見えてるからその武器の刃渡りがすっごく長いことになるけど。
「ほら、刀」
刀の柄を握り、木箱から引っ張り出す玄々。
なんか嬉しそうである。
「よかったね、玄々。というか刃の部分長くない?」
「あー、まぁちょいと長いな」
「ちょっと長すぎじゃないの? 抜くの一苦労じゃん」
「7、8mくらいあるねぇ、これ」
「長すぎないかな!?」
玄々が木箱から取り出した刀の刃が見上げるほどに長い。どれぐらい長いかというと、周りのレンガの壁より長い。柄と刃のバランスがおかしいでしょこれ。
むしろよく取り出せたと言いたい。
というか、あれ木箱の中に入ってたの? 底深いの?
「お目当てのもの見つかったならさ、さっさとこの場所から抜けようよ、玄々」
「……」
「……? 玄々? どうしたの?」
「この刀、長すぎて壁に引っかかる」
「置いてけっ!」
――30分後
紗月たちはダンジョンらしき異界の中を進み、最奥らしき場所へとたどり着いた。
なぜ最奥かどうかわかるかというと、部屋がめちゃくちゃ広いから。
そして赤色の大きなドラゴンが寝ているからだった。
ちなみに、紗月と玄々は部屋の様子を伺うために部屋の入口の物陰に隠れている。
「……ドラゴンの奥に扉があるなぁ」
「奥に扉かぁ……。でも、ドラゴンが道をふさいじゃってるよ? ドラゴンとか物凄い強いってよく聞くけど大丈夫?」
紗月にはよく見えないが、玄々には見えているらしい。このあたりは人間と妖怪の視力の違いなのだろう。
「ありゃ、異界内で生成されたもんだから特に問題ないだろう。本物だったら普通に死ねる。それよりも重要なことがある」
「……え、なに?」
突然険しい表情になった玄々が重々しい口調で話し始めた。
「ドラゴンいるのにお宝ないじゃん!」
「……」
予想はしてたけど、やっぱりすごくしょうもない話だった。
紗月は、思いっきりため息をついた。
「なんかすげぇ顔してるな。いやいや、あのよぅ? ダンジョンといえばドラゴンでしょ。ドラゴンといえばお宝でしょ! ロマンでしょ!」
「ちょっと、大きな声出さないでよ。というか別にお宝とかいいから早く出たいんだけど」
「夢がないぜぃ、紗月。せっかく多種多様のトラップをくぐり抜けてきたのに……ヨヨヨ……」
なんかいきなり泣き真似を始める玄々。ヨヨヨって……。
「飛び出す針とか、転がってくる岩とか、火炎放射器とか、全部ぶっ壊しながら来たでしょ。ゴリ押しってレベルじゃなかったよ?」
「うぐぐ……チクショー!」
「大きな声出さないでってば。見つかっちゃうでしょ」
何が悔しいのか、玄々が握りこぶしを作る。そんな玄々の声が大きいため、すでに様子見もなにもなくなり始めていた。
というか、寝息が聞こえなくなった。嫌な予感がする。
紗月は、玄々を無視してドラゴンの方をみると、ドラゴンは立ち上がりこちらを見ていた。
……あれ? これやばくない?
「あの……玄々? 玄々さん?」
「なんだよぅ、人が感傷にひたってるってのに」
「そういうキャラじゃないでしょ。というか今日、やけにテンション高いよね? ってそうじゃなくて、前! ドラゴン起きたってば!」
「おっと、これまずい。仕方ないね、やるぜぃ!」
さっきまで感傷にひたっていたらしい玄々は、ドラゴンが起きたとわかると一目散に駆け出した。
しかもどこにしまっていたのか、例のものすごく長い刀を担いで走っていった。
玄々は、鬼の脚力を活かして尋常ならざるスピードでドラゴンに近づき真横に一閃。
しかし、ガキンッという音と共に玄々が途中で固まってしまった。
「あ、やべぇ」
刀を振り抜く途中で、しかもあろうことか敵前で固まる玄々。しかもなぜか焦り出している。
「玄々!? どうしたの!?」
思わず、紗月は玄々を心配して声をかけた。
紗月の言葉に、玄々は「やっちまった」と言わんばかりの顔で紗月の方を振り返る。
「いやぁ……刀身が壁に刺さった」
「だから置いていけっていったじゃん!?」
紗月のツッコミも虚しく、玄々はドラゴンが吐いた炎に包まれてしまった。
遠く離れている紗月のところまで熱気が届き、思わず腕で顔を覆う。
「玄々っ!? 大丈夫!? 玄々っ!!」
紗月は熱風に耐えながらも、赤々と燃える炎の中にいるはずの玄々の姿を探した。
流石に一撃でやられるとは思ってはいないけど、それでも心配はしてしまう。
「やるねぇ……熱いじゃねぇかぃ」
炎の中、立ち上がる一つの影。
「あと、お前さんに言いたいことがあるんだよ」
その影は、炎に包まれながらもドラゴンの方へと一歩踏み出した。
「ドラゴンなら、財宝くらい貯めとけやああああああああああああああ」
そして、割と最低な言葉を叫びながらドラゴンの顔面へと飛び蹴りを放ったのだった。
ドガンッという空気が震えるほどの音を響かせて玄々の飛び蹴りがドラゴンの頭部に直撃した。その衝撃にドラゴンの上半身が浮き上がり、ドラゴンはそのままひっくり返って動かなくなってしまった。
「まったく……。ちょっと服焦げちまった……」
そう言って玄々は服についた煤を払った。相変わらずの強さである。
「さ、さっさと帰ろうぜぃ、紗月。お宝もなにもないんじゃ、もうここには用はねぇさ」
「あ、うん。というか、動かないよねドラゴン……」
恐る恐る玄々の方へと近寄る紗月。
幸い、ドラゴンはもう動く気配はなかった。
「ねぇ、玄々」
「ん?」
紗月は、少し気になったことを玄々に訊ねる。
「玄々ってお金に困ってるの?」
「いいや、ただのロマンが欲しいだけさ。お金にゃとくに困ってないよ」
財宝にやけに執着するからお金に困っているのかと思ったけど、どうやら違うようだ。
しかし、あの執着はなんだったのだろうか。紗月は、玄々についてわからないことがまた増えたような気がした。
何はともあれ、これでやっと帰れる。
「んー、まぁ、なんだかんだで少しは楽しかったかねぇ」
「そう? 私はもう勘弁かな」
そんな軽口とともに奥の大きな扉を、玄々とともに押し開いた。
扉の先から眩しい光が漏れ、2人を包む。
そして、
さらに奥へと続く通路にたどり着いたのだった。
「いや、もういいよ!!」
そんな紗月の叫びも虚しく、結局2人が脱出できたのは4時間後であった。
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