初代女王爆誕
あ、あっぶなかったぁー!
まさに危機一髪!
もう少しで大量の矢が魔術師たちに降り注ぐところだったけど、なんとか間に合ったね!
怪我人も思ったより少なかったから、魔力もなんとか足りた。
これで一時休戦してもらえるよね!?
向こうの軍では急にみんな怪我が治って驚いているようだ。
信じられないというたくさんの目がこちらへ向けられていて、ちょっと居心地が悪い。
そう思っていると、さっきまで私と話していた偉そうな人が馬から下りてこちらへやってきた。
「お、王弟殿下! お待ちください!」
後ろの人が慌てて止めるけれど、彼はそれを手で制し、構わず向かってきた。
なんと、この人隣国の王弟だったのか。
国王である兄を支える、武闘派という感じなのかな?
体格がいいけれど、さすが王族、整った顔をしている。
王族はだいたい綺麗なお嫁さんをもらうから、綺麗な人が多いって聞いたことがある。
あ、うちの国の国王は食べ過ぎで論外だけど。
「そなた、名は?」
「アイリスです」
交渉人の名前は大事ですよね。
「そうか。私はウォノクと言う。アイリス、私の嫁に来ないか?」
ニヤリと笑って、オモチャを見つけたというような目でこちらを見ながら彼は言った。
はい? いきなり何を言っているんだこの人は。
「ありがたいお話ですがお断り致します。すでに決まった方がおりますので」
私はにこりと笑ってさらりと流した。
決まった方と言っても、私の心の中でですけどね。
シスイ以外の人になんて興味ありません。
ウォノクと名乗った男は面白そうにクックッと笑った。
「そうか、残念だ。そなたに免じて、今日のところは引き上げよう。但し、国からの正式な書状を三日後までに持ってこい」
そう言って、彼らは去って行った。
よかった、と私がアルバトリスタ軍の方に向かうと、ものすごい歓声で迎えられた。
「うおおおおー! 使者様ー!」
「ありがとうございます!」
「た、助かったぁー!」
「使者様ぁー!」
あまりの歓声に私は苦笑した。
「精霊王が、あなた方の危機を知らせてくださったのです。感謝するなら、精霊王にしてください」
彼らは真剣な目で顔を見合せこくこくと頷き合った。
「俺、今日から精霊王の信者になるわ」
「俺も!」
「俺は使者様の信者になるぞ」
「お、俺も」
……ちょっと待て。私の信者ってなんだ。そんなのはいらないよ。
私は負傷した人たちの治療をして、一緒に城へ向かうことにした。
全く、あのバカ国王、しっかり説教してやんないとね!
……と思っていたら。
「国王が、亡くなった?」
翌日、魔術師団と共に城へ到着すると、王族全員が何者かに暗殺されたと知らされた。
……え、そんなことってあるの?
王族って、常に強固に警備されているんじゃないの?
一晩の内に全員なんてことがあるものなんだろうか。
……というか、みんな、妙に落ち着いてない?
王族が全員暗殺されるなんて一大事じゃないの?
「はい、この国の王族は絶えました。我々は、王族の他に王となる者を選ばねばなりません」
宰相さんが強い眼差しを私に向けてくる。
……え、まさかね?
「えーと、それは、どなたが?」
周囲にいる大臣たちや後ろにいる魔術師団の人たちまでなぜか私に期待の眼差しを向けてくる。
「私どもは、是非アイリス様に王になって頂きたいと考えております」
「……冗談ですよね?」
一体なぜそんな考えになるのか。
私は政治経験もない、ただの平民の、二十一歳の娘ですよ?
「あなた様ほどふさわしい方はおられません。精霊王の使者であり、長年続いた戦争に終止符を打ち、我々に魔術という力を与えてくださり、ご自身もとびきり素晴らしい、国一番の魔術師であられる。今回も、全滅したと思われた魔術師団を無事連れ戻ってくださった。アイリス様が王となるのに、反対する国民などおりません」
いやいや、いるでしょう。
落ち着いて、みんな!
「王族が全員いなくなったとしても、血族はまだおられるでしょう?」
「……確かにいましたが、全員姿を消しております。残っているのは身体的に王にはなれぬ者ばかり。次の王は、あなた様しかいないのです!」
私はぶんぶんと首を振った。
「いや、私がやるなんておかしいじゃないですか! 無理ですよ。宰相さんがやればいいでしょう?」
「私などでは不十分なのです。これからこの国は、ほとんど一から国を作っていかなければなりません。民衆を惹き付け、ついていこうと思える象徴となれる人物が必要なのです! 前国王が生きていた時から、大勢の国民があなたを王にと言っていたのですよ!」
……実は、それは聞いたことがある。
何を冗談言っているんだと思っていたのに。
「でも、私はただの平民で、王だなんてできるわけがありません」
「もちろん、国務に関しては私たちが出来る限り手助けをさせて頂きます。完璧な王としての仕事など望んでおりません。アイリス様は、すでに民衆の心を掴んでいらっしゃる。国王としてふさわしいのは、この国にはアイリス様しかおられません!」
ものすごい熱弁だ。
私は思わず後退りした。
「いきなり言われても、すぐにはご決断できないかと思います。しかし、二日後には隣国へ書状を提出せねばなりません。できるだけ早く、良いお返事をお待ちしております」
「…………」
本当に、一体どうしてこんなことになったのか。
国王に説教してやろうと帰ってみれば、王族は全員亡くなったと聞かされ。
傍系の王族もなぜかみんな姿を消したと言われ。
なぜか宰相や大臣や魔術師団、国の重役たちから王になってくれと懇願され。
断っても受け入れてもらえず。
呆然としながら帰ると、周囲の人たちに「新しい女王!」と崇められ、勝手に外堀を埋められていた。
シスイとルトは「いいんじゃない?」なんて言ってくるし。
シスイはにこにこしてたけど、ルトは苦笑していた。
どうもこれは避けられないものだと考えているらしい。
でも、私に女王が勤まるだなんて、正直全く思えない。
王に求められているものとか、やらなきゃいけないこととか、全然知らないんだよ?
無茶にもほどがあるよ。
翌日、やっぱり断ろうと城へ行くと、私が王にならないとアルバトリスタは周辺国に吸収されて国民はどんな扱いを受けるかわからないと脅されて。
なぜか、一体どうしてそうなったのかわからないまま、私はアルバトリスタ改め、フェリアエーデンという国の初代女王となってしまったのである。




