1
ただ、感情をペダルにぶつけ自転車を漕ぐ。先に見える夕焼けは赤く、目を晒している現実を突きつけられているような気分になる。ここはどこだったか。小学生の時アイツと来たことがあるような気がする。アイツのことなんて今思い出したくないのに。
「あぁ、くそ…!」
さらにペダルを強く踏み出して間もなく、俺はそれはもう盛大に転んだ。
左の膝小僧を酷くやってしまった。破けたズボンからは皮膚は消え血が流れ出している。水道はないか、近くにいい感じの公園でも、と左足を引きずりとぼとぼと歩く。確かここの角を曲がった先に、あった。けどこんなに小規模だったか?遊具はブランコ、滑り台と鉄棒のみ。砂場とベンチに入り口際に自動販売機。お目当の水道は見当たらなかったが、痛みが引くまで休ませてもらおうか。適当な場所に自転車を止め、ブランコに腰掛けた。一年ぶりだろうか、中学生になってからブランコに乗るのは初めてだ。小学校から中学校になって急に世界が変わった。テストの結果が重要視され勉強や部活が物を言う世界。勉強は得意じゃないし、部活もやめた俺はこれからどうなるのだろうか。今の俺には何もない。顔は俯き右足で地面を蹴ってブランコを動かす。風が気持ちいい。
「ねぇ、ねぇ!」
前の方から声がする。子供が来たのか。
「そこの三田中の男子!足!大丈夫なの!?」
俺のことを呼んでるのか、とブランコを止める。ポニーテールの少女が呆れたような顔で立っていた。
「やっとこっち見た。足、真っ赤っかだよ。痛くないの?」
「いや、痛くないって言ったら嘘になるけど」
「洗った方がいいよ」
「でも水ないだろ」
「じゃあ、そこの自販機で買ってくる。あげる。」
「別にそこまでしなくてもいいよ」
「じゃあ、取引にしよう?水あげるから私とお話ししよう?」